第33話 英雄気取りの盾男

 今、俺たちがいるのら第十三階層。

 十四階層にはまだ、奴らがいる。

 討伐されたと言う話は聞いていない。

 情報屋にジェネラル達の情報を渡して、冒険者達にはその話は広がっている事だろう。

 だからか、今日はこの階層は人が多く集まっていた。

 しかし、奴らはこの階層に上がってこようと思えば来れるから安全とは言えない。

 

 「え? 下の階層言ったのか。どうだった?」


 「やばいやばい。

 ジェネラルが二体。アレは死ぬよ」


 「テヴァット達が動き出すのを待つしかないのかよ……」


 周りからも心配する声が聞こえてくる。

 だが、ここにいる全員で戦えば勝てない相手でもないと声を上げてる奴らがいるのも事実。

 でも、足を止めている理由は奴らから感じられる魔力が強く、普通の冒険者では死んでしまう可能性が高いからだ。

 俺たちも今行けば死にはしなくとも重傷を負ってしまう可能性がある。


 「行こう。ここにいても仕方がない」


 「そうだな」


 ここにいる奴らならアイツらに挑戦する奴らはいないだろう。

 今は気にかける必要はない。

 それに、この階層で新たに手に入れた装備の着用感を確かめたい。

 

 「Gaaaaaaa!!!!」


 ブラックベアーが咆哮を上げる。

 着用感を確かめるには十分な敵だ。


 ファイアバードの羽毛によって作られた手袋は厚くなく、素手の時との違和感はあまり感じない。

 滑ることもなく、武器は振えた。

 それに、手が保護されたことで手をつく時、着地地点を気にする労力を省けるのは大きい。

 今まで回していた余分な時間をモンスターを狩る事に費やせる。

 たったコンマ一秒にも満たない時間でも一瞬を生きる俺達には十分すぎる時間。


 右腕の大振りが来る。

 俺のスピードなら懐に行けるな。


 「ふっ!!」


 ブラックベアーの脇腹を二本のナイフで削ぎ落とす。 

 そして、瞬時に胸元にナイフを突き、即座に頭に二撃目を加えた。


 「装備の感覚はどうだ?」


 「問題ない。戦い易いくらいだ」


 単純な戦闘面に必要な感覚は十分。

 後はどれだけ、耐熱効果を得られるか。


 「本題の方を確かめるか?」


 「ああ、頼む」


 ……エンチャント。


 ドッグがノアに業火を灯す。

 それに俺は持てる全てで火力を次のステージに押し上げた。

 

 「……熱くない」


 手全体を焼き尽くすほどの炎だったのに今は何も感じない。

 羽毛に纏われていない部分は確かに熱いが我慢できないほどじゃない。

 それに、無意識に自分の身体を労っていたせいか火力はまだ上げられる。


 「ふっ!」


 一息と共に更に火力が増す。

 それに加え、十三層で魔力のコントロールを身につけた事と今は戦闘中じゃないこともあってか自分の魔法を良く観察できる。


 熱いのは自分の身体にも業火の影響が及んでいるからだ。

 指向性を持たせれば自分への影響を最小限に抑え、火力も増やせるはずだ。


 「……ッ--」


 ノアから赤い炎の刃が作り上げられて行く。

 ドッグの炎の剣から着想を得た、エンチャントした魔法の新しい形。

 荒ぶっていた炎が一方向に向けられ、圧縮されたこともあって炎の中心部が白く染まって行く。


 「すげぇ……」

 

 ドッグがそう呟く。

 俺もその白い炎を見て、心臓が高鳴る。


 「これなら……」


 ジェネラル達にも通用する。

 そう思った。

 しかし、冷静になって行くとこれだけでは奴らには勝てないと悟る。

 これで、火力は十分だろう。

 でも、それ以外が足りていない。

 技も駆け引きも身体能力も。


 「まだ、足りないな。

 普通のモンスターよりも奴らは知能が高かった。 

 それに、この白い炎を生み出すのにかなりの集中力が必要だ。

 最低でも魔力の全力放出と圧縮に慣れるまでは挑戦するべきじゃない」


 「それなら、経験値を積んでいくしかないな。生憎、ここにはそれも困らない」


 白い光を見てか、周りからモンスターの気配が次々に近づいてくる。


 「おい! そこのお前ら!

 すごい量のモンスターが来てるぞ!!」


 他の冒険者がそう知らせてくれる。

 だが、今は問題ない。


 「大丈夫だ!」


 忠告通りにブラックベアー、オーガ、ニードルバードが数えきれないほどのモンスターが視界に入る。


 「ちっ!そこの二人、勝手だが援護させてもらうぞ!」


 「ダメだよ! 逃げようよ!」


 そんな言葉を無視して、一人のガタイのいい男が目の前に降り立った。

 装備はシンスでは珍しい大きな盾と片手斧。

 見るからにタンク。


 「悪いが邪魔させてもらうぞ。

 余計なお世話かもしれないがな」


 「いいな、アンタ。よろしく頼むぜ」


 「足は引っ張るなよ」


 「は! 後で恩人だと崇ませてやるよ!」


 肉体的にも感じられる魔力からも相当の手だれだとわかる。

 それと、木の上に残っている弓を構える女の子。

 そいつは目の前の男よりかは遥かに弱そうだが……。


 「俺が前衛をやってやる。

 お前らは俺が抑えている間にもモンスターを薙ぎ倒せ」


 「馬鹿言え。誰がそんなの聞くか。

 全員前衛で一気に薙ぎ倒すに決まってる!」


 「んな!?」


 驚くのも無理はない。

 この状況ならタンクが攻撃を引きつけて、それ以外が数を減らすのが定石。

 しかし、即席パーティーで作戦などあっても互いの足を引っ張りかねない。

 それに、誰かを盾にするのは俺たち二人の色ではない。


 「俺たち二人の足引っ張るなよ!

 英雄気取りの盾男!!」

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