第46話 臨界点

 まじかよこの人!

 訓練とかそういう話じゃないほどの火力だ。

 

 「おいおい、家無くなっちまったぞ。

 帰る場所はしっかり守れよ」


 「壊した奴が言う言葉じゃないだろ」


 「はっ! それもそうだ」


 ドーバの手に再び稲妻の光が灯る。

 周りは前の戦いで被害が大きく人がいないから続けても問題ないと言うわけか。

 

 「オラッ!!」


 目の前が白い光で覆われる。

 まともに受ければタダでは済まない。

 だが、ブックマンから与えられた課題である俺の魔法の本質を知る為には……!


 「エンチャント!」


 稲妻がナイフに吸い込まれていく。

 だが、このままでは黒縄石で作られたこのナイフですら壊れてしまう。

 どうすればいい。

 俺に出来ること。

 相殺? いや、それは無理だ。

 攻撃の連続性が炎とは違いすぎる。

 なら、俺に残された選択肢はあの戦いで爆峰を伯に変えた時のように性質を変えるしかない。

 思い出せ! あの瞬間の感覚を!

 この圧力の電撃が付加しきれないなら放電させ弱めれば……!!


 バンッ!!

 電撃が周りに拡散し、弱まる。

 その瞬間を待っていたように地面を蹴り、距離を縮めた。


 「……はぁ」


 鼓膜を震わせた、失望の吐息。

 

 「つまらん」


 腹に走った、打撃と電撃の痛み。

 視界からドーバがほんの一瞬消えた瞬間に起きた出来事。

 だが、確かに捉えた電撃を纏ったラルバの肉体。


 「雷人化。私のこの状態は有名だろ。

 その私にこれまで通りの力で近接勝負?

 舐めてんのかクソガキ」


 「はぁ、はぁ……」


 知ってるさ。

 雷人化はドーバ・クルガルの魔法の中で最も有名なものだ。

 だが、これは俺の訓練。

 俺がエンチャント可能な攻撃のみで相手すると踏んでの攻撃だった。


 「クソっ……!」


 コイツらは俺に何を望んでいる。

 俺の魔法の本質を理解しろと言っていた。

 だが、奴らからしたらこの相手の魔法の性質を変えるのは不正解かもしくは奴らの望んでいる力ではないって事だ。

 何を望まれている。

 相手は雷人化を使ってくるからにはそれを対処出来る何かが答え。


 「ふぅー……」


 答えは簡単には見つからない。

 なら、今はそのきっかけが欲しい。

 その為には今は今ある全力で……!


 「フルブースト!」


 俺の持てる魔力全てをナイフに込め、付加されている稲妻の力を増幅させ、更にそれを爆峰を伯に変える要領でエネルギーを圧縮させた。


 「出力収束完了!」


 ナイフが壊れないギリギリの出力と魔力量。

 俺が今できる限界であり、このナイフの臨界点。


 「それだけか?」


 「これで勝てるとは思ってない」


 戦闘可能持続時間は考えるな。

 全身を魔力で満たせ。

 体がギリギリ壊れない限界まで肉体を強化しろ。


 「それは悪手だ」


 「だが、今できる限界だ!」


 「だろうな。今のお前に打てる手はそこまでしかない。

 魔法の変質。限界に近い肉体強化。

 一度眠って頭を冷やせ。考えを止めるな。

 まだ若い奴がしていい切り札じゃない」


 ドーバの右手が俺のナイフと同等以上に凄まじい光が放たれる。


 「寝て、頭を冷やしたらもう一度訓練してやる。取り敢えず今日の評価は零点だ」


 俺とドーバは同時に地面を踏み抜いた。

 おそらく、今の俺ではこの人には勝てない。

 でも、この瞬きの一瞬すらも強くなる為のきっかけに変える。


 「ぉおおおおおおお!!!」


 何が足りないのか考え続ける。

 それが俺たち人間に許された他にはない唯一の力。

 俺ではなく、ドッグがアルガリアに選ばれた理由を。

 与えられた才能という答えに纏まるな。

 その答えを出すのはずっと、ずっと先に最後に出す答え。

 才能のない人間は努力し続けなければ才能ある人間に決して、追いつけないのだから。


 ---***



 目が覚めると知らない天井がそこにはあった。

 

 「よう、起きたか」


 「……ダラス。

 ここはお前の家か?」


 「まあな。ブックマンに気を失ったお前を任されてな」


 「そうか」


 一通り、傷の手当ては済まされていた。

 傷はそこまで深くはないが今戻っても同じ目に遭うだけか。


 「あら、起きてるじゃない」


 扉を乱暴に開け、ラルカが入ってきた。

 手には食糧や布や薬を持っている。


 「俺の家の扉だ。もう少し優しく開けろよ」


 「ごめん。両手塞がってたから仕方なく」


 「まったく。まあ、買い出しを頼んだのは俺だし。ありがとな」


 「どういたしまして。

 それで、シンは体の調子はどう?」


 「問題ない。すぐに動ける」


 ダラスの寝床から起き上がると横に置いてあった装備を身につけた。


 「どこかいくのか?」


 「いや、家に帰ろうかと」


 「お前の家は雷人に吹き飛ばされたんだろ。

 おまえが良ければだが、俺の家を寝床に使えよ」


 確かに天井も壁も何もないとこに帰ってもか……。

 ドッグが帰ってきた時になんて説明しよう。


 「悪い助かる」


 「気にするな。仲間だろ。

 だが、家賃としてダンジョンに付き合えよ。

 俺も前の戦いの傷が癒えてきたところだし、リバビリがてらな」


 「わかった。付き合うよ」


 「私も行くから支度が終わるまでちょっと待っててもらってもいい?」


 「ダンジョン前に集合な」


 「りょーかーい」


 ラルカがダラスの家を出て行く。

 ダラスも手早く装備を整え始めた。


 「まあ、おまえも気晴らししたいだろ。

 一連のことはブックマンから聞いてるしな」


 「……気を使わせたな」


 「気にするなって!

 悩んだ時は体を動かすのが一番いい」


 「それもそうだな」

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