第三章

第45話 ドーバ・クルガル

 もっと力がいる。

 力がなければ何も成せず、守りたいものも守れない。

 この世は弱肉強食であり、持たざる者は死が来るのを待つ日々を送る。

 そんなのはごめんだと生きる術を磨くのは生物として当たり前のこと。

 

 「いいのか? アルガリアさん」


 「俺はドッグ・アコンを先に残すべき人間と見込んだ。

 選択権はすでに俺にはない。

 俺の元で力をつけたいかはおまえが選べ」


 またとないチャンス。

 突然降り注いで大きな機会。

 

 「よろしくお願いします」


 機会を逃すわけにはいかない。

 この場にいない相棒からしばらく距離を置く事になるが理解してくれる、あいつなら。

 何も言わずに荷物をまとめて出てきた事は帰ってきた時に成果を手に謝ろう。


 「いくぞ、ダンジョンに」


 「おっす!」


 

 ***



 「っていう事で君の相棒を連れてって僕を置いて行ったアイツを君を君の相棒より強くして見返したいってわけ。

 勿論この話、乗るよね?」

 

 ブックマンが急に家に来たかと思えばそういうことか。

 朝からドッグの姿がないのも。

 アルガリアはドッグを選んだ。

 なら、俺がやるべき事は決まってる。


 「ドッグより強く?

 それじゃあ、アイツには勝てない。

 アルガリアより俺を強くできるのならその話に乗ってやるよ」


 一番近くにいたからわかる。

 アイツはアルガリアを必ず超える強さを身につけてくるはず。

 追い抜くつもりでやらないと置いていかれる。


 「いいね、やりがいがあるよ」


 「それで、俺を選んだ理由は?

 アンタが見込んだ理由がわからない以上訓練にもならないだろ」


 「そうだね。まずそこから話そう。

 君を見込んだ理由は君の魔法にある。

 君の付加の類の魔法は僕の魔法に近く、教えやすく、君の魔法はおそらく応用も本質も潜在的なモノ全て僕のより上位互換になり得ると思ったから」


 「ブックマンの魔法より……」


 ブックマンの魔法は魔法を自らの生み出した紙に魔法を封じ込め、任意のタイミングで放つ。

 一人のシンスでは不可能なほどの無数の魔法を自由自在に操り、魔法の応用も複合もできる。

 だが、俺の魔法は受けたその場から常時発動し、付加する物によって魔法の強さも何もかも左右されてしまう。

 俺の魔法は圧倒的にブックマンより劣る。


 「信じられないかい?」


 「いいや。アンタが見込んだならできるんだろ?」


 「勿論。僕の手にかかればね。

 じゃあ、乗り気なところでこのまま訓練に入ろうか」


 「ここでか?」


 「ああ。まずは君に君の魔法の本質を理解してもらおうと思う。

 そこに派手さないが君が間違えればこの家は消し飛び、僕と君はお陀仏になるからそこは気をつけておくれよ」


 「それならダンジョンかどこか広い場所に移動した方がいいんじゃないか?」


 「違う違う。君の家と命が掛かってたほうがやる気出るでしょ。

 消し飛んだらそれはそれで面白いしね」


 「……おい」


 パンッ!

 俺の言葉を遮るように手を鳴らす。

 

 「はいでは、今回の君の修行のお手伝いをする方をご紹介いたします!

 電撃魔法使いのドーバ・クルガルちゃんでーーす!入っておいでー」


 扉が開き、呆れた顔をして一人の女性が入ってきた。


 「おいガキ。その薄ら笑い浮かべてる目の前のクソ野郎はいつでも殴っていいからな。

 安心しろ。ワシも殴るから」


 「酷いなー。仲間じゃないかー」


 「仲間だが友達ではないからな。

 おまえと友達は死んでもごめんだからそれは覚えておけよ、カス」


 「はははは。

 まあ、やることやってくれればなんでもいいよ」


 ブックマンはドーバの肩に手を当てると、それを振り払った。


 「言われなくてもやってやるわ」


 パチッ!

 弾けるような音と共にライバの手から稲妻が走る。

 

 「訓練内容を伝える。

 ワシがお前に魔法を放ち続ける。

 その腰につけている武器の許容量を超えてもな」


 「ここでか!」


 「家が壊れるのが嫌なら死ぬ気でその武器に付加させ続けることじゃの!!」


 バチバチッと火花が弾ける音の連続性が加速する。

 本能的に危険だとナイフを抜く。

 しかし、視界に一瞬だけ過ぎていく閃光を認識する暇なく全身に痛みが走った。


 「ガッ!!」


 エンチャントどころじゃない!

 攻撃の認識すらできなかった。

 これをナイフにエンチャントなんてできるわけが……!


 「ほれ、気を失っとると家が消し飛ぶぞ!」


 そうさせない為の時間くらいよこせババア!

 そっちがその気ならっ!


 地面を踏み切り、距離を詰めよう力を込めた。

 だが、その瞬間にまたしても痛みが全身を襲い、行動の全てが強制的に中断させられる。


 「エンチャント!!」


 前の電撃の感覚から攻撃を放たれた後から付加させるつもりでは間に合わない。

 常にナイフに魔法を付加させるつもりで魔力を込め続からことで可能とした力技。

 それだけでも一つの新たに拡張し得た、俺の新しい魔法の概念。


 「やる気か小僧!」


 「止めさせてもらうぞ!」


 「やってみろクソガキが!!」


 今までの電撃が手加減されていたものだと一目でわかるほどに眩い放電。

 これは付加しきれない。

 今ある付加された魔法で相殺しきるしか!


 「甘いわ!! 馬鹿が!!」


 視界全てが白く染まり、爆発音と共にその場から家と俺の身が吹き飛んだ。

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