第9話 シャドウハウス

 ダンジョン第七階層。

 そこは冒険者が立ち止まる最初の場所と言われている。

 しかし、一体一リアを可能とするモンスターが存在し、それ以外のモンスターはゴブリンとシャドウ種が主に生息していて、今の俺たちでも十分戦える場所だ。

 そんな、場所だが力のつけた冒険者でもそこで留まる事を恐れて駆け抜ける。

 冒険譚にも恐怖に狂いたくなければ走り抜けろと描かれるほどシンスたちはその場所を嫌う。

 そして、今俺たちはその場所に到達した。


 「最高到達階層更新」


 「駆け抜けるか?」


 「いや、一体一リア。ゴーレムを狙いに行く。

そいつを倒さなくちゃどの道、俺らはいつか死ぬ」


 「だよな」


 事前に情報はある。

 その状態で雑魚モンスターに囲まれた程度で強敵を倒せないなら俺たちの実力も冒険も運もそこまでだ。

 

 「Gya gya!!」


「その前にゴブリンがお出ましだ」


 数は三体と少数。

 俺は地面を蹴って駆け出した。

 近くに他のゴブリンがいては面倒だからだ。

 しかし、この階層にはマジックシャドウ以外のシャドウ種がいる。

 事前にわかっているからこそできる警戒。

 ゴブリンの影を注視しているとユラッと不自然に影が揺らぐ。


 いる。


 そいつはゴブリンの影から俺に向け、飛び出した。

 【シープシャドウ】と呼ばれるそいつの黒い爪が伸びてくる。


 以外だ。思っていた以上に……


 銀色の一閃がシープシャドウの魔石を砕く。


 「おせぇ」


 これなら、ゴブリン達に囲まれていた時と対して変わらない。

 ただ目線を影に向けるだけ。

 それに加え、ゴブリン達もこの戦い方に慣れすぎたのか狡猾さも薄れ、自らの強みも忘れてしまっている。

 ゴブリン達の強みはその圧倒的な量と背後からの汚いまでの奇襲。


 「第七層、案外簡単かもな」


 残る二体の影からも同じようにシープシャドウが飛び出してくるが隣から飛び出したドッグが二体とも魔石を破壊する。


 「背後からの奇襲もないとなるとマジでこの三体のゴブリンだけ臭いな」


 「ああ、早く終わらせよう」


 残りのゴブリンを瞬時に始末し終えても特に他のゴブリンからの奇襲はないが……


 「ドッグ地面!」


 「火走り!」


 ドッグの陰に放たれた炎の玉。

 地面が爆発で割れた瞬間に影からシープシャドウが飛び出したがすぐに空気に溶けた。

 

 「地面ごと魔石を砕けば死ぬみたいだな」


 「大丈夫か?」


 「怪我はない。大丈夫だ」


 自分の陰に侵入を許して、気づいた時には足を大怪我している場合もある。

 今回は無傷だったがこの階層は常に警戒をしなくちゃな。


 「うわぁぁぁーー……!!」


 「……!? 行こう!!」


 ダンジョン内に悲鳴が響き渡った。

 聞こえた方に全力で走ると一人の冒険者が俺たちの前に転がり込んできた。

 頭から血を流してはいるが出血量からして、対して不快傷ではない。


 「どうした!」


 「出た! 出たんだよ! ゴーレムが!!」


 「仲間は?」


 「二人! まだ、奴に!!」


 「わかった、俺たちも行くからお前も来い。

 この階層は一人じゃ危険だ。道案内頼む」

 

 「わかった!」


 三人でゴーレムに向けて、走り出す。

 運が良かったのか悪かったのかはわからないが目的のモンスターにこの階層に到達してすぐに会える。

 

 「……運がいい」


 「最高だな、シン!」


 そこまで、多くはないゴーレムに直ぐに戦える。

 運が良い以外に考えられない。


 奥から戦闘音が響いている。

 そして、角を曲がると奴はいたと視界に入れた途端に俺とドッグは力強く地面を踏み抜いた。


 土と石の人形。

 魔石は完全に身体中の石に覆われている。

 ナイフは通りそうにない。

 なら、武器は……


 ドゴッ!


 拳で削る。


 手が痛いのは承知の上。

 でも、想像以上に……


 「硬い!」


 しかし、効果のないナイフを振り回しても消耗するだけ。

 少しでもゴーレムの体表にある石を削る。

 だが、こいつにばかり気を使ってはいられない。

 ゴーレムの体表にある影からシープシャドウの腕が伸びてくるのを掴み引きずり出し、ナイフで魔石を砕いた。

 次の瞬間、シープシャドウの背後からゴーレムの左拳が迫ってくる……


 「行くぜ!」


 俺に気を取られすぎだ。

 ゴーレムもゴーレムに潜むシャドウ達も。


 ゴーレムの懐に潜り込んだドッグの至近距離からの魔法攻撃。

 俺たちの勝ち筋があるとしたらこれしかない。


 「爆峰!!」


 魔法が放たれた瞬間にドッグも俺も直ぐに防御体制をとるが両腕が焼けた痛みが走る。

 自爆上等のゼロ距離魔法攻撃。


 「……イカれてる」


 逃げ出してきた冒険者がそうは言うがゴーレムの防御を破れる攻撃力を持った奴がこの場にいないから仕方がない。


 「大丈夫か、シン」


 「ああ、問題ない。手応えは?」


 「ある……が嫌な奴が割り込んだ」


 視線は常にゴーレムがある方向を向いていた。

 ドッグから言われた言葉から予想はできていたが土煙の中からゴーレムが這い出して来た。

 魔法が直撃した箇所を見ると黒い影が纏わりついている。


 「シャドウか……」


 「ああ、ちと庇うのは予想外だ」


 だが、ゴーレム自身も無傷じゃない。

 シャドウ達の影が消えていくと直撃部分の石は粉々に砕け、ゴーレムの中身が露わになる。

 すると中から紫色の石と黒くうごめく何かがいるのが視界に入る。


 全部、シャドウか。

 シープかマジックかはわからない。

 どちらにしろ攻撃する時は影から出ないといけない奴らだ。

 今は気にするべきじゃない。


 「あの穴に魔法じゃんじゃんぶち込むか」


 「シャドウに塞がれて終わりだ」


 今、足りないとしたらやはり火力。

 ドッグの爆峰では威力が霧散してしまっている。

 だからこそのゼロ距離魔法攻撃だったわけだが……。

 ドッグの言った通り打ち込むのはドッグの魔力が尽きるかゴーレムの魔石を砕くのが先かの博打だからやるべきじゃない。

 今はある手札を考えろ。

 

 「ナイフ、殴るは体表を削るのが精一杯。

 魔法は火走り、爆峰、エンチャント。

 足りないのは火力。一撃の……。」


 作戦が頭の中で立った。

 重要なのはタイミング。


 「いくぞ、ドッグ」


 「作戦は?」


 「お前はゴーレムに爆峰」


 「了解!」

 

 その返事を聞いて、俺は走り出した。

 

 「いくぞ!シン!」


 背後から熱が発せられたのが伝わる。

 その瞬間にゴーレムの内側からシャドウ達が這い出てくるが瞬きの一瞬でそいつらの魔石を砕く。


 タイミング。

 その言葉を頭の中で発せられらごとに時間が引き延ばされていく。

 背後から迫ってくる炎の玉すらも遅く感じ、その瞬間を捉えた。

 炎の玉がゴーレムに当たる瞬間にナイフを添え、エンチャントを発動させる。

 爆峰に更に俺の魔力を乗せた、今撃てる最強の攻撃。


 破壊の一撃!!


 ゴーレムの体表が表皮が爆発で砕け、シャドウも炎で焼かれていく。

 そして、体内にあるゴーレムの魔石が砕いた確かな手応えを持って、ナイフを振り抜いた。


 ガラガラとゴーレムの体が崩れていく。

 それと同時にナイフも砕けた。

 わかってはいた。

 ドッグの魔法にこのナイフでは耐えられない。


 「強い武器がいるな。相棒」


 「ああ、この先に行くなら必要になる」


 「でも、まあ、取り敢えずお疲れ」


 パチンッと二人の拳が音を鳴らした。

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