第8話 マジック・セル

 「な、な、は?……」


 どうなってんのこの二人!!

 合計魔石量、百個オーバー!?

 到達階層六階層に更新……って。


 持ち込まれた魔石の量に私は愕然とした。

 同じく、昨日見かけたシンスの人達の合計魔石量は大して変わってない。

 しかし、この二人は明らかに量を増やして来た。

 装備に特に変化らしいものはない。

 技量の向上のみでここまで採掘量を増やして来たのだろう。

 

 この二人が協力者になってくれれば心強いが逆にシンスのやる気次第で採掘量がかなり増加すると思い込まれると厄介だ。

 今は小魔石五個に対して一リアだが、それを十個に変更とかこの国ならやりかねない。

 物資を供給するにしてもこの二人の採掘量が限界を迎えるまで待ったほうがいい。

 この二人の限界階層を他のシンス達の装備状況から逆算できる。


 白宮神殿での業務を終えたらやるべき事を決め、いつも通り黙々と業務をやっていると終了の鐘の音が鳴り響く。


 「お疲れ様です。お先に失礼します」


 そう上司に声を掛け、足早に自分専用の職務部屋へと到着した。

 

 「ちょっと、ソラナ! どうしたの足早に!」


 私の後を追ってきたであろうエリーも帰ってきた。


 「これ、見て!」


 シン・レコンドとドッグ・アコンの情報を示した資料をエリーに手渡す。

 それを一通り目を通すとエリーは「うげぇ」っと声を漏らした。


 「え、何この二人? エグいんですけど」


 「お願い、エリー。

 今すぐこの二人の限界階層を調べて!」


 「えぇ……。確かにこの二人に資源提供したら凄い数値叩き出すでしょうけど……」


 「お願い!! なんか奢るから!!」


 「あー、もうわかったから。

 すぐ調べるからお茶の準備して待ってて」


 「ありがと!」


 言われた通りにお茶を入れ、冷蔵庫に入っていたチーズケーキを机の上に並べる。

 エリーはカタカタとキーボードを叩き、しばらくするとプリンターが動き出した。


 「はい、これ。過去のシンス達の情報と二人の戦績をグラフ化したもの。

 それと、弱小装備での到達階層と採掘量の平均値と中央値と最高値」


 「ありがとう」


 手早く作った資料だったが見やすく作ってくれていた。

 やっぱり、エリーは情報整理力に長けている。

 頼んで正解だったと思いながら資料を見させてもらうことにした。


 「まとめてて、改めて思ったけどやっぱりその二人化け物ね。

 ある程度平均値に沿った採掘量の伸び方をするのにバグみたいに伸びてる。

 たった、一週間で六階層に到達も早すぎだし、弱小装備の平均到達階層は四層辺り。

 一度神の目で検査にかけた方がいいわよ。

 アレなら魔法もダンジョン内での出来事も本当のことを示してくれる」


 「嘘をついている可能性もあるか……。

 そうね、検査はしといた方がいいかもね」


 「了解。申請しとくわ」


 「これが本当のことならこれほど条件の良い協力者はいない」


 「本当ね。それなりの装備を渡せばかなりの成績を残すでしょうね。

 良い成績すぎてメイデンから出されるかもしれないけど」


 「それなら、私達は二人も救った事になる。

 万々歳よ。協力者はまた探せば良いしね」


 「まあ、まずはその二人が協力してくれるかどうかなんだけど。

 正直、シンス達は私達に友好を示しているはずがない。

 シンスが納得するような好条件を用意しなくちゃいけないわよ。

 神の立場という肩書きを出せば言うこと聞くでしょうけどアンタはそれしたがらないのはこっちだってわかってるし」


 当たり前だ。

 神の立場なんて妄想じみた肩書き、使いたいはずがない。

 絶対に平等な立場で納得してもらいたい。


 「……装備の提供はどう?」


 「残念ながら、モンスターを倒すための装備作りならシンス達の方がずっと凄いわ。

 生きるか死ぬかの環境で鍛え上げられた技量はまさに神技。

 こっち側の鍛治士に見せたら泣き出したそうよ」


 「へ、へぇぇ……」


 なら、装備の提供は諦めた方がいい。

 他に彼らが必要なのは食糧?

 いや、痩せ細っているようには見えなかったら食糧は足りている。

 

 「私達が提供できるもの……」


 「まあ、考えてもすぐには思いつかないでしょ。それに今朝面白いものが届いたわよ」


 「面白いもの?」


 「私たちも魔法使いになれる道具よ」


 そう言ってエリーが取り出したのは銀色のペンのような物。


 「マジック・セルって言ってね。

 この中に魔石を液体化させた液体魔素を入れると準備完了らしいわ」


 エリーは紫色の液体である液体魔素が入った別のケースをペンの底から中に入れ、カチャッと音を鳴らし、蓋が閉める。


 「ここあるスイッチを押しながら握る力加減で出力の調整ができるの。

 それで、この中に入っている魔法は……」


 私に蓋とは逆についているもう一つの穴が向けられると温かい風が肌と髪を撫でた。

 

 「小さいのが魅力の魔法式ドライヤー」


 「凄い……」


 「低燃費で一つの電池でなんと半年は持ってね。液体魔素もたったの千リア。

 本体代は二万リアってとこらしいわ」


 それなら高めのドライヤーと変わらない値段。

 それに出力を自分で調整できて、あのコンパクトサイズならかなり安い。


 「他にも種類があるの?」


 「そうね。瞬時に冷却可能なものだったり、火が出る物があるみたい。

 実験段階の物だと魔力そのものを噴射口から出して、空も飛べたりするようになるみたい」


 自分でもパソコンで調べてみると確かに【マジック・セル】で色んな事が試されているようだった。

 しかも、国とドリームと呼ばれる会社での合同で。


 「これが日常化すればシンス達もいつかメイデンから出れたりするのかな……」


 「それはあるんじゃない。

 正直、世界が魔法を嫌っている理由が大きいだろうし、魔法が日常化すればそれも薄れていくだろうしね」


 ドリーム……

 もしかしたら、この会社が主導でシンス達を救ってくれるのかもしれない。

 でも、それでも私たちが動かない理由にはならない。


 「私たちも負けてられないね」


 「……そうね」

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