一章

第4話 ドッグ・アコン

 「うし!準備完了!」


 「いくぞ。ドッグ」


 --ダンジョン第一階層入場--


  「まずは、情報の確認だ。

 上層部に生息しているモンスターは主にコボルト、マジックシャドウ、ロックラット」


 ドッグとダンジョンに来るまではなるべく情報収集に徹していた。

 俺一人でも、上層で死ぬことはまずないほどに知識を蓄えたはずだ。


 「コボルトは近接格闘。

 マジックシャドウは遠距離からの魔法攻撃。

 打ちすぎると勝手に死ぬから攻撃と攻撃に感覚がかなりある。

 ロックラットは背部が硬い外骨格に覆われていて、その突進は結構痛いから気をつけろ」


 「了解だ。

 一週間で良い経験ができたみたいだな」


 「命掛けなんだ。

 良い経験できなきゃまずいだろ」


 「それもそうだ」


 カラカラ……


 その音が聞こえた瞬間に俺とドッグはナイフを構えた。


 石が転がる音。近づいてくる。人?


 視界が悪い暗がりの中の奥で一瞬で眼前に広がる景色が明るくなった。

 身を低くし、ダンジョンの壁際いっぱいまで横跳びし、飛来した炎の球を回避する。


 「……マジックシャドウ」


 ゆらゆらとした人影が浮き出てきたような見た目。体の中心で魔石が光る。


 コイツの倒す鉄則は攻撃の直後。弱点は剥き出しになっている魔石のみ。


 一気に距離を詰め、ナイフの間合いにマジッシャドウが入りかけた瞬間。

 チカッとマジックシャドウの右手が光出す。


 「おそい!」

 「とれぇぞ!」


 俺が繰り出したナイフとは別に視界左から別の銀色の光を放つナイフが同時にマジックシャドウの魔石を砕く。

 マジックシャドウは魔石が本体、脳を破壊しなくて良い分、他のモンスターよりは倒しやすい。


 「クソ、同時かよ。今のは俺の初討伐記録だろ。譲れよな相棒」


 「悪い、次譲る」


 「ただ、初めての戦闘にしちゃ上出来だろ」


 「そうだな」


 差し出された拳に拳を合わせるとダンジョン内に渇いた音が響いた。

 それと同時に胸の奥で熱いものが込み上げてくる。

 

 ああ、一人でいるよりやっぱり良い。

 いつもより楽しい……。


 「しっかし、コイツ一体だけじゃ一リアにもならないんだよな」


 「一体一リアは七階層からだ」


 「なら目指すはそこだな。

 結晶石を見つけりゃ、良い値段になる」


 「あれは希少石だろ」


 結晶石は十一層移行で時々発生する蒼色に輝く魔石だ。父さんと母さんが数ヶ月に一度見つけてくるかどうかのかなり出土頻度が低い鉱石。


 「夢見るのは自由だろ」


 「それもそうだな」


 「ちまちま稼ぐより、一気に稼ぐぞ」


 「なら、ひとまずの目的地は十層。

 あそこには安全地帯もあるし、モンスター達の強さの区切りでもあるからな」


 「だな」


 途中で腹が減ればモンスターの肉を食えば良い。

 水もダンジョンの多くは無いが各場所から湧き水が出ているから余程問題ないはず。


 「早いとこ親父と御袋を弔ってやりたいしな」


 「ああ、どこで死んだのかが分からない以上最短距離で」


 俺たち二人なら順調に第五層まではいけるはずだ。

 そこから先はモンスターの量が急に増え出す。

 問題はそこからだな。

 

 ---ダンジョン第五層---


 予想した通り、第四層までは難なく踏破できた。

 戦闘も基本的に二人でも一息つけるほどのエンカウント回数。

 

 ガラガラガラガラ……


 しかし、ここから冒険譚の記録通りモンスターの量が増え出した。

 目の前に八体。

 更に階層から出現するゴブリンが四体にマジックシャドウが二体、ロックラット、コボルトが一体ずつ。


 「最初に潰すならマジックシャドウ一択か?」


 「いや、マジックシャドウの魔法を誘導し、他のモンスターを倒す」


 「それはしんどいだろ。

 ここからは俺の魔法も使う。」


 「マジックシャドウを任せられるか?」


 「ああ、任せろ……」


 視界が赤くとオレンジの光が広がる。 


 来る!

 二発同時!

 他もそれに追随してる。

 魔法は回避可能。


 「一緒に動くぞ。前衛、俺」


 「了解だ」


 ドッグがマジックシャドウを倒すまでの間、六体を止めなくてはならない。

 戦場は洞窟、やや広めの通路。

 前衛のモンスター達は集団で行動。

 その中でもコボルトが微妙に身体能力が高いせいか隊列を乱して先行気味。

 アイツが使えそうだな。


 「脚、隊列、ロックラット」


 俺はモンスターの一団に向かって駆け出した。

 最初に狙うのはコボルト。

 

 「Gaaaaaaaaa!!」


 来る……大ぶりの一撃が。


 左腕を大きく振り上げたコボルトに対して俺は懐へと飛び込んだ。


 ここに飛び込めば当たるのは肘。

 だから、安心してコボルトの脚に狙いを定めて斬れる!


 ゴッと振り下ろされたコボルトの肘が肩に当たるものの大した痛みはない。


 「フッ!」


 「Gur……!」


 足を切られ、コボルトの体勢が崩れる。

 そのコボルトの脚を掴み、ゴブリン四体に向かって投げ込んだ。

 

 集団の中でもゴブリン四体同士が特に距離が近かった。

 そこに投げ込まれば上手く回避できず狙い通りにコボルトにゴブリン達は押し倒される。

 一体だけ抜けて来たロックラットは外殻で身を固める前に接近し、顎からナイフを差し込んで頭蓋を破壊。


 「当てろよ」


 「は! 誰に言ってやがんだ!」


 ドッグの手から二つの火の玉が放たれ、マジックシャドウの魔石を確実に撃ち抜いた。


 「Gya……!」


 マジックシャドウが僅かに断末魔をあげると二つの魔石が地面に転がった。

 残りはゴブリン四体。

 その内早くも体勢を立て直した二体が向かってくる。


 「奥の二体頼む!」


 「了解」


 身を低くし、俺は駆け出すと頭上から二つの火の玉が飛翔していき、ゴブリン二体を撃ち抜く。

 そして、更にもう一つの火の玉が俺へと飛翔してくる。


 「確実にここはやるぞ。それでズラかる」


 「ああ」


 五階層を甘く見ていた。

 ダンジョンの奥から続々とモンスターの足音が響いてくる。

 このままやっても先にバテるのは俺たちだ。


 ……付加魔法エンチャント

 それが俺の使える魔法だ。

 俺が直接的、間接的に触れている物体に受けた魔法を付加させることができ、更に俺の魔力で魔法の威力を上乗せできる。


 ゴウッと荒だたしく音を立て、ナイフから炎が燃え上がった。


 俺は体勢を立て直せてないコボルト、ゴブリン二体の下へ走った。


 頭蓋を砕くのは殺してから。 

 先に魔石を砕き、息の根を止める。


 右手に握るナイフを力強く握り直し、正確に三撃をそれぞれの心臓部を射抜く。

 そのまま、地面に死体が落ちる前に頭部を突き刺し、脳を破壊。


 しかし、魔石の回収は不可能。

 奥からモンスターが押し寄せて来ていた。


 「四層に急ぐぞ!」

 「ああ、すぐ行く」


 押し寄せてくるモンスターに背を向けて四層へと上がる階段を駆け上る。


 「まあ俺達、初日にしては上出来じゃね?」

 「そうだな」


 当初目標にしていた場所まで全然行けてないけどなとそんな事を思いながらも拳を合わせ、全力で階段を登った。

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