第6話 消えた魔石

 今日の稼ぎは過去最高だった。

 ドッグがいた事もあるから当たり前と言えば当たり前だがそれでも普段の三倍。


 「そろそろ、このナイフは寿命だな。

 買い換えた方がいい。」


 「金はあまりないぞ。

 俺たちの貯金額は四十リア程度しかない。

 ナイフ一本でも最低でも五十リアくらいするだろ」


 「は、何言ってんだ。

 それは鍛治士の人件費込みの値段だ。

 俺がいるから材料費のみだ。

 ナイフ一本分の鉄なら四十リアくらいで神から買えるし、ちと当てもある。」


 「助かる。頼めるか?」


 「ああ、もちろんだ」


 「それで、当てって?」

 

 シンスの世界で鉱物を譲ってくれる奴なんているはずがない。

 何故なら鉱物は希少な上、ダンジョンから持ち帰った鉱物は神に渡さなくてはならないからだ。


 「うちの師匠の鍛冶場だよ。

 冒険者から武器を作るための鉱物が持ち込まれているんだが余ったカスみたいなのを師匠が持っててな。

 塊で取り出せる分のものは基本的には持ち主には返してるけど。

 まあ、鍛治士の特権みたいなもんだ」


 「なら、明日はダンジョンに行くのやめるか?」


 「は、舐めるなよ。

 俺達シンスはダンジョンで生きてんだ。

 ナイフ一本、半日もかかんねぇよ」


 「了解」


--翌日--


 カン!カン!


 俺の瞼を叩いたのは槌の音と焼けるような暑さだった。

 起き上がると赤々と燃える炉とその前で槌を振り下ろす、ドッグ。

 集中していると側から見てもわかるほど険しい表情をしているドッグを横目に俺は机の上にあったパンとコボルトのもも肉を手に外に出た。

 パタっと音が僅かになるがそれでもドッグは見向きもせずに一定のリズムで槌の音が鳴り続ける。

 

 「はぁ……」


 外はあいも変わらず殺風景で冷たい空気だけがその場に滞留していた。

 ダンジョンに向かう、冒険者がチラホラと見かけ始める時間。

 ふと、朝っぱらからザワザワ何人もの人の声がしていた。

 気になって、その音が聞こえる白宮神殿のある方へと歩いていくと冒険者の一団がいた。

 

 「どうなってんだ!!」

 「お前もないのか!」

 「あ、ああ……」

 「今日取った魔石が……」


 ダンジョンからの朝帰り組のパーティがバタバタと騒がしくしていた。

 盗み聞きした情報をまとめるとどうやら自分達が手に入れた魔石がないと言う事。

 

 管理ミス?

 いや、あの様子だと歩合型でそれぞれ自分の魔石を持っていた感じだ。

 それでパーティ全員が魔石をなくした?

 気をつけないとと一蹴できるような事でもない。

 盗まれた。そう考える方が妥当だ。

 技術的な何かか、魔法によるもの。


 朝方の散歩にしては良い情報を手に入れたと思いながら家に向かう。

 玄関の前に立つと槌の音は聞こえなくなっていた。


 「なんだ、いなくなったと思ったら朝の散歩に行ってたのか」


 「やっぱり、気づいてなかったのか」


 「他を気にするそんな中途半端な集中力でやってないからな。

 俺たちの命預ける道具だぞ」


 「ありがとな」


 「これくらいなんでもねぇよ」


 渡されたナイフは鏡のように俺の顔を映し出し、綺麗な刃をしていた。

 いつから作っていたか知らないが短時間で仕上げようには見えない刀身。


 「そうだ、今ダンジョン前で揉め事だ」


 「揉め事? 対して珍しくもないだろ」


 「魔石が消えたらしい。

 それもパーティ各自で管理していた魔石全て」


 「それはただ事じゃないな。

 相当凄腕のスリか魔法の類だな。

 お前はどう思った?」


 「魔法。 弱いパーティには見えなかった。

 凄腕のコソ泥がいてもアイツらの魔石を盗むのはそう簡単じゃない」


 「……そうか。

 魔法のタイプが分からない以上、俺たちも注意しなくちゃな」


 「ああ」


 魔石を取られたら明日の食事もままならない冒険者にとっては死活問題だ。

 早いうちに叩いておく方が賢明だがあまり関わるべき事でもない。

 それに、リスクを犯してまでまだまだ新米の俺たちを襲うメリットはないだろうから実質的な俺達には関係ないはずだ。


 「じゃあ、準備したら俺達もダンジョンに向かうか」


 「ああ、行こう」


 気にしていても仕方ない。

 俺たち冒険者はリスクを承知でダンジョンに生きる生物なのだから。


 ダンジョン前に行くと相変わらず冒険者が集まり、ザワザワとしていて、一人の男性が俺たちの方に歩いて来た。


 「おい、お前ら。

 最近起きている魔石が消える事について何か知っているか?」


 「いや、知らない。

 でも、何があったのか聞いても良いか?」


 「もちろんだ。主に時間帯は深夜から朝方。

 その時間に帰還する冒険者達の魔石がなくなる事案が増えて来てな。

 今日俺たちも被害にあった」


 「何か共通点はあるのか?」


 「ある。全員一瞬ではあるが記憶が混濁している時がある」


 「記憶が?」


 「ああ、ボーッとするようなそんな。

 クソ、シンスの誇りとしてこれは許せねぇ。

 お前らも気をつけろ」


 「わかった、ありがとう」


 その男はまた、別の冒険者に聞きにいった。

 朝方いた冒険者も見かけ、全員が情報集めに奔走している。

 

 「結構大きい騒ぎになり出してるな。

 これで、犯人は動きづらくなって被害が少なくなれば良いんだけどな」


 「気にするな。行こう、ドッグ」


 「ああ、俺達はダンジョンに行くだけだ」

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