第35話 ラルカ・ルーメンス

 「ダラス、その人達は信用できるの?」


 木の上から降りてきたラルカの第一声は顔見知りと聞いていた印象とは違った。

 声音は力強く、遠くで見るより失礼だが怖い、キツイといった印象を受ける。


 「ああ、俺の姿を見てもビビってない」


 「ふーん」


 ラルカは俺たちを睨みつけるような眼差しで俺たちを見たがすぐに一息吐いて肩を撫で下ろした。


 「ダラスが言うならいいや。

 ごめんなさい、初対面の人に失礼したわ。

 ラルカ・ルーメンスよ。よろしく」


 睨みつけるような表情から一変し、にこやかな柔らかい表情と差し出された右手。

 初対面の奴を警戒するのはこんな世界では致し方がない。


 「よろしく。俺の名前はシン・レコンド」


 「俺はドッグ・アコンだ」


 「ええ、よろしく」


 ラルカはドッグとも握手を交わす。

 一応、パーティを組む事になったわけだから二人の装備を改めてジロジロと見ても問題はないから、装備一式に目を通す。

 ダラスは重装備で大きな盾と斧に何層の革で作られた鎧。

 ラルカは軽装で、弓と腰には短剣。


 「ラルカは拘束型の魔法と聞いたが」


 「拘束? それはダラスを援護するためよ。

 本質は造形型の魔法。魔力の結晶で何にでも形を成せる」


 「手の内を晒していいのか?」


 「先にパーティ組むと行った奴が何言っての。それにこの人達は信用できるんでしょ。

 アンタから目と耳と人を選ぶ力が抜けたらただの筋肉だるまでしょうが!」


 酷い言われようだ。

 しかし、ダラスも俺たちの事を完全に信用はしていなかったのか。

 仕方がないとはいえ、少しは傷つく。


 「シンとドッグ……敬称つけた方がいい?」


 「いや、大丈夫だ」


 「了解。助かるわ。

 シンとドッグは隠したりしてない?」


 「俺たちは隠さず手の内をバラしてしまったよ。経験の差を痛感してるところだ」


 「そっか。何年目?」


 「一月」


 「一月!?」


 ラルカは驚いたような声音を上げた。

 ダラスも声には出してはいないものの目を見開き、唖然とした表情だ。


 「大したもんね。一月であの強さか……。

 良い人材、拾ったわ」


 「得したな。それに、俺の魔獣化を見てもなんとも思わない。

 これで、先を目指せる」


 「人手不足で止まってたのか?」


 「ああ、二人だとここら辺が限界だ。

 だが、俺の魔獣化が怖くてパーティを組んでくれる奴らが中々いないんだよ」


 「そうか……」

 

 シンスの中でもいろんな奴らがいる。

 他人の魔法で驚く事もある。

 しかし、怯えたりするもんなんだな。

 

 「それで、これからどうする?

 十四層にはとんでもない事が起きてるみたいだけど……」


 「シャドウジェネラルが二体いるんだ」


 「行ったの?」


 「というより、目の前でジェネラルに進化されちまったんだよ。

 俺とシンは上手く逃げおおせたけどな」


 「それは災難ね」


 思い返してみても、モンスターの進化という極稀な現象を目の前で起こされたのはある意味では貴重な体験だった。

 災難も災難。最悪だ。


 「それで、私達四人ならどう?」


 「どうって?」


 「天才二人と壁と私で勝てるかってこと。

 早いとこ、最後到達階層更新したいのよ。

 足踏みはたくさん。命は一番だけど現状維持はシンスにとってはまた地獄。

 それで、天才二人の意見として勝算は?」


 意外な提案。

 戦闘スタイルから知略家かと思っていたが挑戦的思考であるか戦闘狂だ。

 胸を打つように鼓動が早まるが冷静に考えて勝算を見積もる。


 「三割、良くて五割。

 ナイトタイプのジェネラルと後衛のアーチャータイプジェネラルがいて、あっちもバランスが良い。

 あらゆる好条件があっても五部だと思う」


 「俺も、同意だ。

 誰かが、ナイトを抑えているうちにアーチャーを倒すのが定石。このメンツだと、シンとダラスが抑えている間に俺とラルカがやるのが一番良いと俺は思う」


 「なるほどね。

 私とダラスは相手を見てないから実際に戦った二人の作戦で行くのが一番いいわよね。

 ダラス、アンタならここからでも一つ下の階層のモンスターの気配は探れるでしょ。

 どう思う?」


 「かなり強い気配が二つあるのはわかる。

 それ以外にも弱いが取り巻きが多いが抑えるだけならいけると俺は思う。

 だが、勝算を上げる為には作戦はもっと細かく組み立てた方がいい」


 「悪いな。大雑把で」


 「気にするな。経験の差だ。

 といっても俺たちも三年目の若輩者だかな」


 「冒険者やって、三年も生きてるならそれは一流だ。早いやつは一年持たない」


 「持ち上げるな。三年で十三層だ。

 二流も良いところだ」


 そう謙遜するが感じられる二人の魔力の質は俺達とは比べ物にならない。

 言葉で表すのは難しいが強者の研ぎ澄まされたような気配を感じられる。

 十三層で立ち止まっているのは環境が悪かっただけだろう。

 それに、さっきの戦いでもダラスには周りを気にする余裕が見えた。

 戦闘中に視界が狭まる感覚のある俺とは経験の差がかなりあるだろう。


 「作戦を立てよう。

 やる気になったのに他の奴らに追い抜かされたら笑いもんだ。

 やれる事はお前ら二人が加わってかなり増えた。だから行けるはずだ」


 「はずじゃ困るぜ。ダラス。

 三年の経験を見せてもらわないとな。

 限りなく絶対に近い、勝つ作戦で頼む」


 「なら、ドッグ。

 お前には存分に働いてもらうぞ」


 「任せろ。完璧にこなしてやる。

 天才と呼ばれたんだ。俺たち二人は期待を裏切らないぞ」


 「ああ、こなしてやる。

 あの二体には痛い思いをさせられた。

 リベンジがしたい」


 「……俺の目には狂いはないようで安心したぜ」

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