第14話 夜の王都で悪魔は踊る その④

死体が見つかったその日のうちに例の『神の騎士団』が来て、学生には外出禁止令が出た。学園上層部は素早い判断だったと思うよ。更には死体を見た生徒のメンタルケアも実施するとの事だ。授業も休止して生徒は各々ゆっくり休めとの事だったのでお言葉に甘えてゆっくりしていると自室のドアをノックされた。

「はい。誰でしょう。」

「神の騎士団のバードンという者だ。そなたはカイル・サス・サイサルセッチューか?」

「はい。そうですけど。」

「君も死体を見たと言う事でもし、もしだ。その時のことを思い出すのに気分が悪くならなかったら話してくれないか?恐らく学園からも何度聞いている事なのだと思うが。これは強制では無い。むしろ気持ちの整理がつかなかったら話さなくともいいんだからな。」

 言葉は少し硬いが、節々から死体をみたことを思い出しても大丈夫だろうかという優しさが溢れている。バードンさん、あなたはとても良い人です。ではこの優しさに応える為に話そう。

「僕は大丈夫ですので。」

「そうか。なら出てきてもらえるかい?」

「はい。」

 出てみると逞しい体つきをした青年が立っていた。若いな。

「では死体のことを聞かせてもらいたいのだが。」

「そうですね。中庭に有りました。」

「そこは分かっているんだ。だが感謝はしよう。しかし私は死体の状況を知りたいのだ。」

「死体の状況?その死体って。」

 死体ってそっちに回ってるんじゃないか?

「ん?あぁ、実は到着して死体を解剖しようとした時、灰になって崩れ去ったんだ。勿論直様回復魔法を使ったのだが効果が無かった。だから君達生徒にとっては忘れたいだろうが死体の状況を聞き回っているんだ。」

「なるほど。死体の状況はですね。窓に釘で打ち付けられていました。手、足、頭の所に刺さっていて、そうだ。心臓部にも刺さってました。それと水死体が如く膨れていてですね、それでおいて頭の天辺は削り取られていて毛根一つもない。ボコッと凹んでいるんですよ。それと歯は全て抜け落ちていて左目は膨らみから見て恐らく抜け落ちていて....あの大丈夫ですか。」

思わず口早に説明していて相手の方を気にしていなかったがどうやら気分を悪くしているようだ。無理もない。とても人の所業とは思えない凄惨な事件だからな。

「大丈夫だ.....うっ.....そうか、協力感謝する。」

「お気をつけて下さいね。色々と.....あぁその悪魔とか。」

「悪魔か。まだ確実とは言えないが、その線は皆無だと思うぞ。所詮は伝説さ。」

「だと良いですけど。」

「あぁ、本当だ。」

 あ、そういやレシィはどうなったんだろう。

「あの。」

「何だカイル君?」

「レシィ・フォン・クロリースの容態はどうなんですか?」

「レシィ・フォン・クロリース.....すまない少し待ってくれ....ええと確かここに倒れた者達と容体が書かれていた....あぁ意識を取り戻していたと書いてあった。君の彼女かい?」

「いいえ、死体を見た時一緒にいたので。」

「なるほど。精神的ショックは大きいだろうから優しく接してあげてくれ。」

「はい。」

まぁ今日会ったとは言え勉強を教えたしな。多少の義理はある。



「ふー。仕事の後の一吸いは美味いな。」

 仕事柄上、常にかしこまった態度で居ないといけないので非常に窮屈だが、休憩時間中は比較的自由な言動が許されている為、このような事もサラッと言える。

「バードンが見つけてきたこいつすげぇな『タバコ』っていうやつ。あと店主から聞いたんだが、タバコは一吸いじゃなくて一服って言うらしいぞ。」

「まじか、ありがとう。しっかしだなぁ...」

「どうしたんだ、バードン?」

「特待生のあの少年、カイル・サス・サイサルセッチューだがな...」

「うん。」

「いや、馬鹿馬鹿しいことを考えていたんだ。忘れてくれ。」

「何だよ気になるじゃねぇか。」

「いやすまん。」

「しゃあねぇな。」

 渋々彼は黙ってくれたが、私は自分で馬鹿馬鹿しいと言った事について考えた。

 それは彼が何らかの線で事件に関わっているという線だ。だがこの線はただ特待生だという理由が地盤にある為、非常に人権を無視している。だから言わなかった。言えなかった。でも何か...見透しているような嘘をついているような...そんな感じがした。あくまでも感じだ。頭でも冷やした方が良いだろうな。




「今月の銀河商会売り上げは?」

「予定の三倍で御座います。」

「三倍か...内訳は?」

「タバコが約半数を占めます。」

 会議室に響めきが広がった。誰もそこまで売れるとは思っていなかったからだ。

「俺も一服してみたが...これは命の取り合いをする様な騎士団の連中に売れたんだろうよ。まさに昇天するような極楽さだぜ。」

「お前が操るのは剣じゃなくて戦闘機だろうポプラン。」

「良いじゃないですかオーベルシュタイン殿。どちらも戦士ですよ。」

「そういうものかねぇ。」

「ほう、私を疑うと。」

「そう言うわけではない。勝手に解釈されては困るな。私はだな...」

「まぁまぁお二人とも此処は話し合う所ですよ。疑い合う様な場ではない。それに話が低レベルだ。」

 ロイエンタールがそう言うと静まった。

「だがこの煙草は凄いな。よくこの様なものを発明されたものだ。なぁサイキ殿。」

ロイエンタールがそう言ってサイキの方を向くと優男にしか見えない青年は言った。

「いや、これは皇帝カイザーが仰っていたものをただ真似しただけですよ。ロイエンタール殿。」

「ほう、そうか。いや、少し意外だな。」

「と言うと?」

「戦士が欲しがるであろう物を少年が思いつく物だなと。おっとこれは失礼かな。」

「いや、ロイエンタール殿、それは私も思った事だ。幾ら戦の才があっても商品開発の才能が有るとは誰も思わんからな。」

「「「「「「「全くだ」」」」」」」

 この後も会議は続いたが、結局愚痴と称賛しか出なかったので銀河帝国マーケティング部が頭を抱えたのは言うまでもない。

だがただ雑談をしていたわけではない。この時ある事が決定された。その一部分をお見せしよう。


「でだ。」

「どうしたシェーンコップ殿?」

「あくまで俺の推察なんだが...もしかしたら皇帝カイザーは他の世界から来たのかもしれない。」

「ほう...」

「それは...」

「なかなかに...」

「いや、私は面白いと思うぞ。」

「本当ですか。ビッテンフェルト殿⁉︎」

「まぁまぁミッターマイヤーよ、誠に非現実的で雲を掴む様な考えだがな」

「同じ事言ってますよ。」

「例えで言ったんだよ。雲を掴むとは中々的を得た例えだと思うがな。話を戻すが他の世界から来た者だと仮定したら自ずと答えが見えてこないか。」

ビッテンフェルト意外の全員が雲を掴むという表現について「そこじゃねぇよ」と心の中でツッコミを入れているとミッターマイヤーが

「と、言うと?」

と言い

「この煙草を思い付く様な年齢...そこまで生きていた、えーもしくはそれが当たり前の様に売られていたかだ。」

と答えた。

「ま、もっともビッテンフェルト殿のものは仮説にしか過ぎんがな。別の世界から..うん『並行世界』とでも言おう。そこから来たというのはな。」

「それはともかくだ。」

ロイエンタールが話題を変える。

「王都侵攻...今の所皇帝カイザーが貴族学校におられる為、経済面だけとなっているが卒業した後、武力侵攻するのか?それとも皇帝カイザーが何らかの理由で王都から離れる時に侵攻するのか?」

ロイエンタールの問いに誰も答えなかった。

皆口では王都侵攻を掲げているが本当は恐れがあるのだ。そもそも何で王都に対して侵攻するのか。皇帝カイザーが貴族学校に行った時に決まったものであり、皇帝カイザー不在の中で決まったものであり、許可は取れていないのである。長い沈黙は駆け込んで来た秘書により中断された。

「も、申し上げます。王都の隠密行動部隊の皇帝陛下カイザーと接触した者からの手紙です!」

「そのように慌てるな。分かっていた事だろう。で何だと言うんだ。」

「な、内容が...」

その手紙を持つ手は小刻みに震えていた。

皇帝カイザーから『至急王都に兵を送れ。王都の町の路地の広さに見合った数を。神の騎士団と会うかもしれない。』と...」

「何っ⁉︎」

幹部は一斉に立ち上がった。

「神の騎士団だと⁉︎」

ロイエンタールが声を上げる。

「ま、まだ他の手紙も...」

「早く読め!」

ビッテンフェルトが急かす。

「は、はい!貴族学校にて生徒が殺される事件が発生!神の騎士団に潜入した者から『悪魔』の犯行が疑われると...」

「なるほど...サイキ!」

ミッターマイヤーがサイキの方を向く。

「分かっている...総員に伝えろ。『王都で悪魔狩りをしたい者は第三ホールに来い』と。」

「分かりました!」

秘書がすっ飛んで行った直後放送が鳴り第三ホールの方へ向かう足音が聞こえてきた。

「サイキ...」

「あぁ、良いか銀河帝国幹部!我らは皇帝カイザーの為に!」

「「「「「「「おう!我ら皇帝カイザーの御心のままに!」」」」」」」

これから戦争が始まる。高揚感を胸に幹部は第三ホールへ向かって行った。

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