第28話 精霊 その③
「なぁポプラン.....さっきは災難だったな。」
「まったくだよ。まぁたしかに俺にも非はあるが.....」
ロイエンタールは冷たい目でポプランを見ながらぼやく。
「そういうところなんだろ。」
おぉ.....ふぅ.....大分頭痛と吐き気がするな。二日酔いかまったく.....またもどう考えても死角の視覚情報が流し込まれてきた訳だが。怒ったから当然か.....殺気なのかね。怖いものだ。
「殺す.....殺してやるぞ貴様ぁ!」
「おいおいエルフのお嬢ちゃん、そんなにカッカすると寿命が縮むぜ。っておっと.....エルフは寿命が長いんだっけな。」
自分で怒るなとは言ってあるが無論、嘘だ。戦場で相手に理性を取り戻してはいけない.....そうは言ってもこの様な喋り方はこう.....恥ずかしいな。まぁ煽る言い方でこれくらいしかバリエーションを思いつかないほど清く善良に生きてきたんだとでも思っていよう。でもエルフという種族は1000年無駄に生きている訳では無いだろうし頭は随分賢いだろう。こんな挑発に乗ってくれているのは嬉しいが襤褸が出ないように気を付けないとな。エルフは頭が良いって昔から相場が決まっていると聞いている。
「.....ヒュー」
口笛を鳴らしてポカンと困惑した一瞬の隙をついて即座に腰のホルスターから抜き出した銃の撃鉄を起こして相手を狙う。チャンバラ時代劇から早撃ち西部劇へと早変わりだ。
「な!」
即座に魔法陣を描き出す。迎撃用だろうか。
「だが遅い。」
銃口から放たれた光弾は一直線に相手に向かっていく。それも超スピードで。
「ぐっ.....ぬおっ!」
詠唱を破棄して単純な避けに回ったようだ。まぁ弾は一直線だから合理的と言えば合理的だ。もっともそれの出来る人物のなんと少ない事か。
「おぉ避けるか。」
まぁ.....無駄なんだがな.....弾は何の脈絡も無く一直線に飛ぶことを放棄して弧を描いて相手の頭へ向かっていく。
「ぬわっ.....」
やったかな。
「おぉっと!レイ選手一撃!一撃を入れた!」
相も変わらず熱い実況だ。しかし.....
「.....寸前に防壁を築くとは恐れ入ったよ。あんた、良いお仲間をお持ちだ。」
悲しいかな。付与のおかげで一撃ノックアウト!とは行かなかったらしい。あの付与術者め.....まぁ流石に密着状態だったからそれなりには入ったらしいが。
「曲げた.....弾の軌道を曲げたのか貴様!何故!どうやって!」
混乱してやがる。無理も無いか。
「種明かしは試合の後だ嬢ちゃん!」
もう一つ抜き出す.....二丁拳銃だな。
「れんしゃぁあ!」
撃てる限り撃ちまくる。
「偏向!」
合わせて弾の軌道は曲がりだす。
「ぬぅあ!また曲げた!」
「さぁてと.....お楽しみはこれからさ」
.....我ながら役とはいえ、なんというトリガーハッピー野郎。素性不明の謎に塗れた騎士としては幾つか裏の顔があっても不思議では無い.....かな。
「くっ.....あぁ!この.....くっ.....!」
さっきからまんまと相手の術中に嵌っている。これではただの笑いものではないか.....!
「チッ.....!」
「おいおい嬢ちゃん焦るんじゃないぜ.....死に急ぐ必要は無いだろう.....おぉっとそうだそうだった.....こいつは試合だ.....良かったな。死ぬこたぁはねぇ。」
「貴様!」
この騎士、どこまでも気高き私を愚弄してくる!
「待てステイリィ!こんな安い挑発に.....」
「黙れ術者!貴様は金で雇われただけの
「余所見はするなって嬢ちゃん言ってたろ?」
「な!」
銃弾の嵐は止み、何時の間にか接近してきた黒き騎士は背中の剣を構えていた。
「馬鹿にして.....」
「させているのは君さ。」
不敵な笑みを浮かべているであろう彼は私に切りかかる。
「シルバーロックブレイド!」
腕に剣を生やして受け止める。
「やるな嬢ちゃん!だが.....」
間髪入れずに騎士は腕から弾を発射する。
「こいつは!」
ドカンと爆発を起こしてのけぞる。大分吹っ飛んだかな。胃から上るものを抑えながら立ち上がる。
だが私の眼前に広がっているのは
.....無数の光弾だった。
「ははっ.....」
避ける気力も無く、直撃して吹っ飛ぶ。だが負けてはいない。負け惜しみではない。負けれないのだ。試合前に付与した
どうやらここからは殲滅戦のようだな。さてと、ここで少し種明かしといこう。何故銃弾が曲がるか.....少し考えれば思わず吹き出してしまうような至極真っ当抱腹絶倒なことだ。銃弾自体は魔力の塊.....俺のしていることは単なる魔力操作に他ならない。エ?それなら相手に操作を盗られないかって?.....残念ながらそうはならない。魔力というものは魔素によって構成されているんだが.....その魔力を使ってやるぞ!って時に野良の物から変換されて自分の魔力になるんだ。だが無論それだけでは何発も弾を偏向は出来ない.....そう、情報処理が出来ない.....と言うよりかはそもそも論で視覚情報が圧倒的に不足しているのだ。考えてもみろ。一つの視点から多数の物を同時に.....しかも多方向に動かすんだぞ。どう考えても漏らしが出てくるに決まっている。ゲームじゃない、現実なんだ。頑張っても三発同時が関の山だ。空間認識能力がバケモンみたいな奴じゃない限りそうなるさ.....だが今、俺にはそれが出来る。謎の技術のおかげでそいつが出来てしまう.....何発だろうと死角が無いんだ.....必要な情報が常時流れ込んでくる。
「それなら出来ない事はないんだな。」
だがな.....そんなの机上の空論も良いとこだろう。それを実用化にこぎつかせている銀河帝国の技術者達には感服するよ。あぁそりゃあ原理は分かる、やり方だって分かる。だからといって誰でも出来るわけでは無いだろう。それが出来たら苦労しないさ。所謂あれだ。あーにはあーの、べーにはべーのというやつだ。たしかオーベルシュタインだったかな。さて、それもそうだが最も重要な謎がまぁだあるんだよな。
「さぁ、エルフの.....ステイリィだったかな。一つ.....一つだが質問を.....それも重要な事だ.....聞いても良いかな。」
「な.....なんだ.....」
あらら血だらけだ。女性を血まみれにする趣味は無いんだがな。
「何故精霊の力を使わない?」
単純明快な疑問だ。先程まであれ程試合を有利に進めていた精霊の力を何故今は使わなくなったのか。
「.....えアッ!せえいれいたちよぉッ!我に力を!」
.....まさか動揺しすぎて忘れていただけだったとは.....挑発に乗って正常な判断が出来なくなっていただけか。なぁんダ。拍子抜けだ。
「とは言え自分で地雷原に踏み込んじまったな。」
言わずにおけば勝てたものを。我ながら何という失策。好奇心は騎士を殺すらしい.....もっともこんな銃を使うインチキ騎士じゃ言い換える必要性があったがどうかは分からんがな。
「火の精霊、風の精霊、我に力を!ファイアタイフーン!」
あらら恐ろしい技だ。風じゃ範囲が広がるっておお!
「左脚の鎧が溶けてきやがった。何という高熱だあの台風は。」
「2000℃だ!」
言っちゃうのねそれ。所謂アホの子という.....
「ホワッチ!」
あぁへぇあっちぃ.....油断ならない相手だよまったく。精霊の力を取り戻して上機嫌だ。
「くそっ。おぅら!」
連射連射。
「ハハハ!効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ!そんな同じ攻撃なんぞをなぁンドも喰らうほど阿保ではない!」
手を正面で合わせて中腰になってから左手の甲を前に差し出す。
「対魔力障壁!」
ドーム状の結界が張られ、魔力光弾は全て触れた瞬間に溶解した。
「何だ今の。」
思わず声が出る。
「無駄だ。精霊の力を甘く見るのではない!精霊の力は正しく魔力を遥かに凌駕する絶対的な力なのだ!それがあれば魔力なぞ粉微塵だ!」
発言者はステイリィではなくバラルタケルである。野郎とんでもない効果を付与しやがったな。やってられるかこんなもの!とは言え何か解決策がある訳じゃ.....
「武器.....他の武器は!」
剣ではダメだ.....他の.....
「そうだ!」
「さぁ、最後の攻撃だ!スーパータイフーン!」
体が遥か上空へ吹っ飛ばされた。なんだ一体。まさかまさか.....ビンゴだ何か練ってやがる。
「すべての属性の精霊よ.....これで終わりだ我に力を!」
相手は光を出して力を溜め始めた。相手を打ち上げて攻撃するのかこいつ。いつのジャンプだよ!
「連射!」
光弾を偏向させながら相手へ向かわせる。だが結界のおかげで相手に届くことはない。刻一刻と母なる大地へ接近していきながらも撃つことを俺は止めない。やがて光弾を相手の周囲を包囲するかのように回っていかせる。
「無駄な抵抗だ!これでおしまいだ!レイ!」
そうバラルタケルが叫ぶ。
「全精霊よ.....喰らえっ!エルフ・スタンピード.....」
ステイリィは右手を前に出し、溜め込んだ精霊の力を撃ち出そうとする。
「この瞬間を待ち侘びていたぞ!」
技を撃とうとするまさにその時、銃を投げ捨てて足からナイフを取り出す。
「しまいなのはてめぇさんの方だ!」
ありったけの力を込めて投げつける。そのナイフは結界を
貫通してステイリィの喉元に刺さり、吐血しながら白目剥いて痙攣を始めた。
「んな.....ぐぉのるぼのぉ」
「こいつは魔力でもないんでもない純粋な鋭利で硬いだけのナイフだ。その結界が防げるのは魔力のあるもののみと見たぞバラルタケル君。そこんところの詰めが甘かったな。」
血痰を吐き出して気付けば地上まで346Mを切っていた。まだ少し余裕があるので続ける。
「しかし上空に投げてくれて助かったよ。近けりゃ巻き込まれちまう。」
言い終わるが先かステイリィの喉元から精霊の有り余る巨大な力は器が壊れたとみて決壊を始め、二秒後に大爆発を起こした。
「しょ、勝者!アイス・ゼロ!」
観客だけでなくパートナーも状況を呑み込めていない中、空元気で実況は勝者を告げていた。
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