閑話 味方は誰だ 後編
「御者は.....襲撃されたくらいなんだから怪我でもしているだろうし医務室だろうか。えーと確か地下4階だったな。」
地上から見ると大きい商店で隠し階段を下ると広大な地下空間が広がっているとは一体どこのファンタジーなんだろうか。土地の少ない王都では地下を広げないと開発だの訓練だのは出来ないからな。とは言え良く崩落しないものよ。どうなっているんだ一体。さて、来てみたはいいが.....受付に人が居ないな。もしかしてお昼休憩中だったかな。もしそうだったらすまないと思うがこちらも急いでいるものなのでな。すまん。受付の人。
「すみませーん。受け付けの者は?」
そう大声で呼ぶと数秒後に制服を着た者が来た。
「すみませーん。患者の対応をしていまして。はい、ご用件は。」
.....時間的にお昼休憩ですよね。と言うか今気づいたのですけど横に貼ってあるタイムスケジュールにそう書いてありますし.....
「あぁ、先日の馬車の積み荷襲撃事件の時の御者を.....あれ、君。前の方でルーナス地方の支部の方で会わなかったかい?」
どことなくどこかで会ったような雰囲気だなとは思ったが少し顔を見ると思い出した。
「あ、はい。先月付けでここの医務室へ配属になったのです。えーと。ポプラン様の秘書官様でしたね。」
.....先方の記憶力もどうやら侮れないようだ。
「あぁ、そうだ。確か君らは前のルーナス地方の大規模の同意のない奴隷達の解放戦で奴隷から解放された少女たちの一人.....あぁ、すまん。思い出したくない過去だったろうな。配慮が足りなかった。」
「いえいえ、もう大丈夫ですよ。今ではとても幸せですから。」
「そうか.....良かったな.....あぁ、そういや一緒にいた一番年長の女の子は元気かい?彼女が一番平和を喜んでいたようだが。彼女を解放した兵士から聞いたんだが彼が進めた食堂のウエイトレスにならなかったんだって?一体何になったんだい?」
「あぁ、お姉ちゃんならロイエンタール様の隠密行動部隊へ自分から配属されましたよ。自分と同じような境遇の人を一人でも多く救いたいって.....今では貴族学校へ潜入しているそうです。どうやら
「あぁ、そりゃあ重要も重要だよ。要塞攻略から幹部さえも接触出来ていないからね。」
「いやぁ、私も鼻が高いんですよ。同郷ですもんね。へへへ。」
彼女と話していると何故だか分からないが心が落ち着くような気がする。そういう喋り方と言うか.....少しフワフワしているというか.....妹というか.....こんな可愛い妹が居たらさぞ幸せだろうな.....いけない。そんなくだらない妄想をしている余裕はないんだ。ポプラン様が心を読めたら「ようこそこちら側へ」と言うぞ。それは絶対に嫌だろヤックリング!
「あ、それで先日の事件の御者さんですね.....B-12番ベッドに寝ていますよ。ちょっと待ってください。今大丈夫か上と話しますので.....」
そう言って彼女は裏に行き、何やら上司と話した後また戻ってきた。面会の約束を取り付けてきたのだろう。休憩中にも関わらず良くここまでしてくれるな。
「ではどうぞ。」
「あぁ、ありがとう。休憩中だったろ。すまなかったな。」
「いえいえ.....休憩中?あぁ、すみません。このタイムスケジュール古いもので。ちょっと.....ほらこれが新しいものです。ほら今の時間のところ.....まぁたしかにあと少しでお昼休憩になるので滑り込みセーフですよ。危なかったですね。」
そう彼女は言い終えてから丁度お昼休憩を告げるチャイムが鳴った。本当にギリギリセーフの滑り込みだったな。さてと、有力な証言が聞けることを是非とも願いたいものだな。
コンコンとドアをノックする音が聞こえ許可するとアザキ君が入ってきた。
「失礼します。ヤックリングさん。あの、先程聞いたのですが私たちに任せていればいいものをわざわざ現場へ聞き込みに行ったと.....」
アザキ君は少し不思議そうな顔をしてこちらを覗き込んできた。
「あぁアザキ君。この事件の真相が分かったぞ。」
「え!?そんな!?」
思わず仰天したような顔になる。まぁ無理もないか。
「それが本当なんだ。まぁ来て見てくれこいつを。」
そう言って私は資料を指さしながらアザキ君を自分の隣へと誘導する。
「いやぁまさか資料を見てから考えれば分かったとは。資料に良く目を通さないのは完全に私の不手際だ。すまない。本当にすまない。謝らせていただくよ。」
「あ、はぁ.....」
「まぁ犯人はまだなんだがね。商品は回収がすんだんだ。中々の上物だったよ。君も今度使うといい。」
「はい.....」
「いやぁ良かった良かった。あぁところでだが。」
一息着いた後に再開する。
「もうやめないか。アザキ君。既に君の襤褸は出ているんだぜ?」
「え.....」
彼の顔は急速に変わり、血の気は失せたそれは正しくその表情は絶句そのものだった。
「な、何を言っているのですか.....僕がそんな.....犯人だなんて.....もしかして少し部屋に籠っておかしくなったんですよ。そうだきっとそうだ。」
そう言う姿は崩れ去った夢を必死にかけ集めて離さない若者の顔そのものだった。
「まぁ君、落ち着きなさい。周りをそんなにキョロキョロ見なくても大丈夫だ。私と君、二人しかいない。事実は私にだけ教えてくれ。私は君を殺そうだとか、煮て焼いて動物の餌にしてやろうだとか何もそんな物騒な目的があるわけじゃないんだ。ただ少し、君に確認をとりたいだけなんだ。いいね。」
「いや.....確認だなんて事実じゃないものを教えられたらそれは詐欺師の才能がある人ですよ.....僕はそんな人じゃありませんし、忠実な銀河帝国の兵士です。」
「うん、確かに忠実な兵士ではあるね。まぁ言いたくないならいいさ。確認させてもらうだけだから。ともかく私の推理を聞いてくれ。反論はそれからでいいだろう。」
私は彼に穏やかに諭す様に話し始めた。
「まずだね。被害にあって消えた商品。こいつの.....さっきこの商品を開発したところの人間が偶然こちらへポプラン様に面会に来ていたものだから描いてもらった絵なんだが.....フフフ、いやすまない。笑おうとは思ってなかったんだがこれから話す事実を思うと.....フフフどうしても笑いたくなるほど滑稽でね。こいつ、香水じゃないか。君が書いた資料.....報告書にも書いてあったんだぜ。こいつ、容器は結構割れやすいのだが綺麗な新素材で作ってあるんだ。私もなんでその様なものが商品化されたのか不思議に思ったのだがその開発したところの人間.....仮にAとしよう。今後君の復讐の対象になっては彼も見知らぬ人から刺客を向かわされたら迷惑極まりないだろう。そのAが言うには割れやすいが透明でしかも加工がしやすいらしい。それは上流階級の
思わず興奮して喋ってしまった。少し酸欠気味かな。
「ま、待ってください。それは僕以外に確定できる人物が居ないからという推理法じゃないですか。しょ、小説ならともかく何故カバー裏か最初にある登場人物一覧をあなたが見れているというのですか。そんな馬鹿げた推理が.....通るわけないでしょう.....」
ほう、アザキ君は面白い考え方をするな。なるほどねぇ。ふぅん。
「つまり君は私の推理がメタフィクションな推理方法だと言うのか。まぁ良いだろう。もしもそれだけだったのなら君を法廷へ誘う招待状を私は送れなかっただろうな。私は裏付けのないものは声高に言わない人間なのでね。しかしなんという奇妙な運命の悪戯か。こればかりは私の運がほんの少しだけだが君よりも良かったと言うしかないだろうがね.....フフフ、私からしては非常に喜ばしい事なのだがね。なんと君の仲間の襲撃者達が吐いてくれたのだよ。フフフ.....つまりだ。君はその小説のメタフィクションな私の思考を指摘するだけの知識は確かにあったようだがね。その見識は凄いと思うよ。今後とも是非有効活用してくれ.....それでそんな見識を持った君がこんな結果になったのは私からしても残念だと思うが.....君のお仲間さん方は推理を聞かされただけで観念してぐったりと項垂れてしまうほどだったよ。ようは.....本当に残念無念だが君が選んだのは私のそのメタフィクションな推理を指摘する知識を持ち合わせておらず、直ぐに折れてしまうような仲間だったんだな。君の敗因は仲間を見る目が無かったという事さ。もしも君の仲間の口が堅く、この思考法を指摘するほどの知識を持った文化人だったのならば私はここで引き下がっただろうがね。寧ろ無闇に仲間を疑った事で私が左遷されていたかもしれないが....こいつは残念だったね。さっきから残念残念と連呼しているがこれは本当に心の底から思っている事だから他意は無いよ。安心してくれ。まぁ簡単に言うと滑稽な事実だが君は最後の逆転のピースとなり得たかもしれないメタフィクションな思考への指摘をメタフィクションな思考の推理によって負けたんだ。それとだが君のおかげで現場主義を思い出したよ。御者に聞きに行ったから良かった。もしも君に頼りきりだったとするときっともっと長い間.....もしかしたら何ヶ月、何年というほどかかってたのかもしれないからな。感謝するよ.....おいおいアザキ君、いきなり倒れ込むんじゃないよ。ほれ起きなさい。どうした精神崩壊でも起こしてしまったのかい。それなら困ったな。君からしたら残酷な事実かもしれないが君にはまだ話してもらわなければならないことがたっぷりとあるんだからな。ほら。もしかして寝たふりかい?そんなことをしても無駄だよ。ほら起きなさい。ほーら。無駄な抵抗はよしなさい。もしもーし.....」
数日後、上官への報告義務を果たす為にその上官のもとへ来ていた。
「私からすると非常に煩わしいのですが、ミステリ的な思考で真相を導き出されてしまいました。アザキ君らの捜索班が実は襲撃した犯人グループ.....よくぞそこまで自分の想像力の翼が大きかったものだなと思いましたよ。今回はこれが見事に当たって勝利が確定した状態でアザキ君に推理を話しましたが.....やれやれ自分の翼には重りを付けとかないといけないという事を痛感いたしました。」
そう言うと上官のポプラン様は笑いながら
「ハハハ、まぁヤックリング君。今回は随分お手柄じゃないか。そのミステリ思考とやらで見事に組織の裏切り者を炙りだせたではないじゃないか。私からしても随分鼻が高いよ。」
そう言いながら、ワイングラスへ手を伸ばし、一口飲んでから一息ついた。そして私も少し微笑んだ後に笑ってからポプラン様はまたいつもの場所へ向かおうとしていた。見送ろうと思い、敬礼のポーズをとったがその時不意に先程見たある書類に書き記されてあった仕事の内容を思い出した。
「あ、そうだ.....ポプラン様もしなければならない重要な仕事があるのですけど.....本部へ最新の非魔力式銃を実演するという仕事で.....」
言い終えずに始まった数秒間の沈黙の後口を開いたのは先方だった。
「頼んだヤックリング君!君一人でもなんとかなる!多分!」
そしてその長い脚で全力逃走ダッシュ。ドドドと音を立てながら武装開発部のある部署の方へ向かっていく。
「.....ふぅー。」
息を吐いてから力一杯思い切って叫ぶ。
「待ちなさいポプラン様!」
そして私も走り出した。どうやら私の仕事が無くなってある程度読書でもしながら優雅に紅茶を飲むなんて日は遠いらしい。
「仕事が無くて飢えるよりはマシかもしれないがな.....」
自分でも苦笑しながらポプラン様を追っていく.....日常はまた戻ってくる。暫くはこのような生活でもいいかな。そう思った時、不意に笑顔になった。心の底では本当はこの生活を楽しんでいるのかもしれない。皆がこの様な喜びを分かちあえるように.....我々銀河帝国は暗躍し、最後は汚れ役でも一手に引き受けて華麗に滅びる。そして名を変え、その後の歴史で表舞台に立って民たちが平和に暮らせるようにする.....それが銀河帝国の.....ひいては
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