閑話 味方は誰だ 前編
「ふんふーんふぅうううん♪今日ぉも天気ぃぅいだ♪あっさぅぁうばぁぅるえれだ♪」
御者は呑気に歌いながら馬車を地方都市から王都の銀河商会へと走らせていた。今日は新しい馬車を卸してあり、新品という事でとても綺麗だ。まぁまだ慣れてこそいないが直に使いこなせるであろうと思いながら馬車を走らせていた。そろそろ王都郊外へと差し掛かるだろうかという時の事だ。ここになると人もそれなりに見かけるくらいで少し馬の為にも休憩を取ろうとでも思っている時だった。荷馬車の後ろからごちゃごちゃと何やら聞きたくない物騒な音がし、なんだなんだと振り向こうとすると馬車がいきなり傾いたのである。
「賊か!」
御者は叫び徹底抗戦しようと息巻いていたが、時すでに遅し。馬車は傾いており頭をぶつけて昏倒してしまったのである。御者は最後まで起きようと努力はしたがそれは無駄だった。ただこの記憶を忘れまいとせめてもの抵抗としてそこにあった何かで足に切り傷を作った。これがこの事件の始まりである。
「ポプラン様。」
「ん?どうしたヤックリング君。」
「は。報告申し上げます。こちらの王都第三店舗銀河商会へと向かっていた商品を載せていた馬車が何者かに襲撃された模様で.....」
「あぁなるほど。分かった分かった。良いからそっちで進めておいていてくれたまえ。私は今から開発部の方へ行く。頼んだぞ。」
興味が無い、面倒臭いと言わんばかりに手をぶらぶらと横に振って陽気な我が上官殿は前をそのまま通り過ぎようとする。
「しかし!」
「すまないが今はそれよりももっと重大でビッグな計画が進んでいるんだ。君も私の秘書官ならその事については僕の日程表を見ているなら分かるだろう?それにだ。いちいち私が介入していたらそれは君たちの為にもなれないだろう?これはな。いいか良ぉく聞いておくれ。勿論心に刻んでくれてもいいぞ。こいつはだな、俺なりの優しさなのさ。さっ、遠慮なんかせずに。な?上官の優しさを受け取ってくれや。」
そうウインクをして良い事言ってやったぜと言わんばかりの自信に満ちた背中を見せて意気揚々と去ろうとする。それを
「ポプラン様のそれは唯々自分が好きな事しか進めない子供の様ですが。それにこれ以外にも沢山のポプラン様宛の仕事があるのですが?」
こう言って引き留める。目をガン開きにして。
「ははは。きっついい.....」
まったく、ポプラン様はいつもこうだ。(自分でも言うのは多少気が引けるが)有能な秘書官の私がいなければ仕事が果たして進むのかと疑うほどだ。
この頃は非魔道具科学武装開発部の新兵器の開発に熱を注いでいるようでわざわざ前線の店舗まで来たのだがまさかここまでだとは。ポプラン様宛の大量の仕事をさばく私の身にもなってほしい。
溜息を洩らしながら下を見て通路を歩いていると角でぶつかってしまった。
「いてて.....いやぁすまないヤックリング秘書官。ほう.....どうしたその不貞腐れた顔は.....あ、待て。当ててみせるから.....うーむ。どうやらまーたポプラン様に無茶難題か大量の仕事でも押し付けられたのかい?思いっ切り顔に出ているからな。」
そう言ってからハハハと笑う。
「あぁこちらこそすみません、リベル科学開発主任殿。あの本当すみませんぶつかってしまって。いつからこちらへ来ておいででしたか。」
敬礼をしてから向き直る。
「あぁ、実はだな.....こいつは嬉しい事にポプラン様に召集をかけられてな.....なんとな。聞いて驚くなよ。って秘書官だし聞いている筈か。その非魔道具科学武装開発部全員がな。」
「ぜ、全員でございますか。」
思わず言葉を見失う。失礼でとても口には出せないが、まだそこまで地位の高くない部門の技術者達に幹部からの召集がかかるとは稀に見るような異常な事なのだ。
「あれ、その反応は聞いてなかったのか?あ、まさか.....ポプラン様の独断だな。きっとそうだ。知ってたらいつから来ていたとなんか聞かないだろう。そうだと知っていたら君ももっと良い顔をしているだろうし。あぁそれでだがどうやら悪い話ではない内容の様なんだ。我々も二度目の日の目を見る時が来たか。」
「対空火砲に続いてですね.....健闘をお祈りしてます。」
「あいつは傑作だったな。なんと言ってもサタラルチス地方の高山地帯は龍種が多いからな。龍連合とはテイマーを通して同盟を結んだが、そこに居座る人間共は別だ。龍を裏で売り捌くものだからな。基地を置く代わりにそいつらを降ろせと....そこで開発した高度何千メートルとあるところに確実に弾をぶち込めれる火砲だからな。落ちてきたところに龍が火の息を吹きかけたりタックル仕掛けたりする様は火砲のスコープを通して見ていたが爽快だったぜ。今度も面白い事になりそうだ。」
「それは良かったですね。」
私がそう述べた後、彼は意気揚々と研究室の方へ向かって行った....
でもまぁ、こんな愚痴ばかり言っていても仕方がないか。仕事を崩さないと。
「あ、ヤックリングさん。ご無沙汰しています。この件の担当のアザキと申します。」
「アザキ君だな。よし、では本題へ移ってくれ。」
「はい。三日前の未明に王都店舗.....つまり現在の私たちの本拠地ですね。そこへ向かっていた馬車が何者かによって襲われ積み荷に被害がかかったとの事です。」
「なるほど.....あー機密事項は漏れていないか?」
私としてはそこが一番心配な点なのだ。
「はい。単に商品でしたので銀河帝国に関わるものは特にないかと。ただ、商品の回収は難航しています。」
まぁまずまずの結果かな。最悪商品には最新技術をまだ使っていない。今の水準よりかは優れた技術というだけだしな。
「そうとは言ってもなかなかどうして我々の資源はそう無限にあるわけではないのだ。回収を急がせろよ。」
「は。」
指示を飛ばしながら単なる山賊か物盗りかとこの時の私は考えていた。今思うとその時点で彼の術中に嵌って、身動きがとれずにただ呻き声を出すだけになっていたのだ。
「はぁ.....」
大きな溜息をつきながら机に倒れ込む。
「どうしたヤックリング君。疲れているようなら医務室へ.....」
ポプラン様も妙な事に心配してくださっているようだ。
「いいえ、そんなものではないので安心してください。それと私が休んだら確実に仕事が滞りますよ。もしかするとですが最悪は王都中から店舗を撤退しないといけなくなるかもしれませんね。それほどポプラン様が私に仕事を任せっきりでしたから。ねぇポプラン様。」
「いや.....そこまで言わなくても.....」
「そこまでですって.....はぁ.....なるほど。ポプラン様の頭の中を少し覗けた気がしますよ。寧ろ沢山言ってやりたくなりました。言いますよ。えぇ、言いますとも。」
.....この後の非常に面白い話は読者の皆様には大変申し訳ないと思うが割愛させていただかなければならない。
なぜなら今後これを楽しんで読んでいる読者諸君が我々に会うような機会があった時にポプラン様に対して不敬の思いを抱かれてしまわれては不味いからだ。落ち込んだ上官は随分と面倒臭いと記憶しておいてほしい。
その後の論戦で完膚なきまで言い負かされ我が愛しの上官殿は意気消沈の体をなしていたがこれでは流石の私でも罪悪感が出るというものだ。
「まぁ軍人としてはポプラン様は優秀ですからそこまで気を落とさないことですね。」
とそこまで効果があるとは見込めないフォローはすることにはしてあげた。
「それ褒めてるのか.....」
「さぁどうでしょうかね。」
「アザキくーん。いるか。」
「ヤックリングさん。お早いですね。」
「まぁね。この仕事を片付けないと他が進めないんだよ。」
「あぁそれは.....」
有難いことにアザキ君は健気にも触れないでいてくれたが元々私が進めていた仕事というのは食堂の事。つまり私は自分の昼食をささやかながらグレードアップさせるための仕事だったのだ....もう少しの辛抱だ美味しいご飯....
「で、犯人はまだ見つからないのかい。」
「はい。難航しておりまして.....」
「そうか。これだけかけて見つからないとはプロだな。」
自嘲するように言ってみたが様にならないな。全くどうしたものだろう。
「まぁ国にも頼めませんからね。我々は国に仇するものですから。ここが痛いものですよ。」
「なぁアザキ君.....案外外部からではなく内部からの犯行かもしれないな。いや、内部の皮をかぶった外部か。」
この突拍子もないふざけた推理を述べた後、不謹慎ながらも笑うしかなくどことなく焦燥感が漂ってきたがアザキ君は熱心に聞いてくれていたようだ。有難いというか申し訳ないというか.....
「.....どうしてここまで分からないものなんだろう。」
そこまで網はざるじゃないと思ってはいるんだけどな。まさか本当に内部かね。まったくアザキ君らは何をしているのだ.....いやいや頑張ってくれているのだ。器の小さい人間だな私は。彼らの少しでも助けになるようにここは私の領分ではないが素人探偵くらいにはなれるだろう。さて、少し整理してみよう。
えー、まず犯人はおろか商品も見つかっていない.....ん?商品もなのか?馬車自体は国道を通っていたのだから通行人やらのオーディエンスらがいてもおかしくないし寧ろそれが普通なくらい人通りが多いんだぞ。敢えてそこを指定しているくらいのだから.....なるほど。違和感を感じたのならば資料に目を通そう。そうすれば多少なりとも解決への糸口は見つかるはずだ。
商品の被害だが.....化粧品か.....えーと香水が7か.....はて、香水だったなら匂いがあるから分かるはずだろう。じゃあなんだ。盗ったのか?いや、そんなことは有り得ないんだ。被害は本当に一撃離脱で、嵐のような犯行だったと御者が言っていたのだ。そんなもので盗れるのだとしたら人間ではない化け物の類だな。やれやれ。悪魔が王都で出たとか何とか言っていたが王都に行く途中に商会も襲ったのか?こんな馬鹿げた事で現実から逃げていても仕方ないか。
えーそれと.....何々、それ以外の被害.....車輪の破損か....あぁそうか。なるほど。本体との接続部が折れたのか。だから一番近い支部の第二店舗の方でも伝わるのが遅かったのだろうな。うーん。少しずつおかしくなってきやがったぞこの事件。思い返せばどことなくおかしいからな。この事件は。違和感がこう....渦巻いているな。うーん。考えていても仕方ないか。先ずは当事者の御者に聞いてからまた考えよう。たしか.....第二店舗の方へ行っていたな。時間の空きは.....
「蜻蛉帰りか.....まぁ仕方ない。時間は有限なんだ。」
自分に与えられた時間がそれほど無い事を改めて実感しながら出立の準備を整えていた。
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