第25話 扇動

「お、ポプラン。皇帝カイザーは?」

待ちわびていたようにソファーから身を乗り出して聞き出す。

「今シャワーを浴びている。少し待て。」

「なるほど。まぁ身なりには気を遣うだろうな。」

落ち着きを取り戻したようでソファーで

「あぁそうだ身なりで思い出した。今は体を変えているんだ。」

「はぁ?」

言われたロイエンタールは何を言っているんだこいつという至極当然な感想を抱いているであろう顔をして言う。

「いや、ほら進めてた機械人形プロジェクトのね.....あれを今使っているんだ。」

一瞬何のことだと首を捻っていたが合点がいったようで口を開くと

皇帝カイザーも大概新しいものが好きなようだな。」

と笑った。



「おぉロイエンタール。」

皇帝カイザー.....?」

「はははそうだよ。中々に別人だろ。筋肉の付きとか魔力量とか。」

「そうで.....ございますね。」

うーん、まぁ妥当な反応だね。

「では本題へ入ろうかロイエンタール。」

「はい。皇帝カイザー、昨今の情勢として隣国のバルデルド帝国。こいつは現在中々に面白い状況に.....」

「させたのだろうどうせ。」

さっきの屋台の親父が言ってたしな.....まぁ娘が帰ってくるのは嬉しいものだし良いか.....一面的だが。

「はい、正しくその通りでございます。」

.....今更なんだが銀河帝国の者達全員随分と固い信念をお持ちなのね。死人とか別に敵なら良いんだろうか。まぁ私が言える立場でもないが。

「実のところ数か月前から工作員を送り込んでおりまして。それがこの度やっと成果を出すというのです。」

「よくサイキが許したな。そんな人員を割くことを。」

「ええ、私兵に似て私兵にあらずのようなものからですから。」

「独立した指揮系統か。」

危険と言えば危険だが....もしロイエンタールが本当の名前の主と同じく反乱を起こそうならそれはそれで面白いかもしれないな.....いかんいかんこれは小説ではなく現実なんだぞ。

「お気に召しませんか。」

「好きではないだけだ。」

まぁそれで死ぬならそこまでだったって事だ。甘んじて受け入れよう。

「ではこの経緯を説明しましょう。」

そう言ってから続けた内容はざっとこんな内容だった。


バルデルド帝国は現在危機に瀕している。長年にわたる貴族たちの悪政とそれによる飢饉によって農民たちは働けないほどになったが貴族たちは贅沢の水準を下げようともしない。3年程前には地下抵抗組織もつくられ、民主化の波が押し寄せたが大貴族の一つのヴェイデル家の当主、ルテリィ・スケルノン・シュテイデリー・フォン・ヴェイデルの私兵によって鎮められた。それに味を占めた貴族たちは抵抗運動をしていた者を全て女子供関係なく国教のシュテリ教の大聖堂で処刑し、生き残った者は更に苦しい労働を課せられ正しくバルデルド帝国は生き地獄と化した。しかし今年に入ってそのヴェイデル家の当主がくたばったと言うではないか。それによって市民の解放を求める気運こそ高まったが大聖堂での処刑の経験から誰も動けずにいた。

そこに工作員を送り込み、またもや抵抗組織をつくったのが我々銀河帝国だという.....



「我ら銀河帝国の建国理念に基づいておりますし何の問題もないかと。」

.....建国理念?何かあったっけ.....

「第三節の『解放を求めるものには救いの手を』ですよ。」

へぇそんな気高い事をね.....いや、俺が言ったな。誘拐されたとき言ったな!え、でもあれ少年兵解放.....まぁ別に人道的には難民とかにも広げたほうが良いのか。うん、そうだな。

「そしてこれには人道的支援の他にも我々の為の利益と言う見逃しがたいエッセンスがあるのです。」

「その心は。」

「領土拡大。それに伴う大っぴらで今まで行えなかった大規模な過多軍事訓練。ここにあります。」

.....え。すまんロイエンタール。情報過多によって少し思考停止.....あぁそうかよくよく考えれば銀河帝国って銀河商会以外は反社みたいなものだものな。だからこの国の王都でも商会の地下を使わなければならないんだものな。

「我々は革命を後押ししている。そだから成功の暁には我々に対してそれ相応の見返りを求める権利があるではないか.....という事だな。」

「正しくその通りで。」

「バルデルドの民衆も大概だな。手伝ってくれたと言ってもまた領地を新参者に奪われるかもしれんのに。」

「まぁ我々は紳士ですから.....」

そう言ってロイエンタールは苦笑したがその言葉の重みを特に吟味する気も無いというのにも関わらず、それこそ無駄に流れる時間は悠久にも思えた。




「では頑張れよロイエンタール。成果を期待している。」

「は!必ず。」

敬礼をして去っていった。

「あ、そうだ。さっきの戦いで随分と武装類とか本来勘定に入れてないはずの肉弾戦もして酷使したからな.....一応メンテナンス受けてくるか.....」

少し何かギクシャクするような気もするし、何もなくても減るものじゃないし良いだろう。




「やあクレイ主任。お時間良いかな?」

「か、皇帝カイザー!」

そんなに驚くことかな。ノックはしたはずだが。

「あ、いいえ。研究員かと思いましたので.....」

そうかな.....そうだな。

「あぁでだな。この体のメンテナンスに.....」

「あぁ、なるほど。確かに傷も見られますしね。では今すぐ。どうぞこちらを。」

そう言って差し出されたのは錠剤だった。

「これを唾で飲んでいただければ。」

「あぁ分かった。」

さてと飲んでみたが.....

「!」

一瞬で治りやがったぞこいつ!凄いな。魔法技術かな。科学技術かな。

「ではこちらで大丈夫かと。あ、おいシュタリン。鎧をこちらへ。」

「はい!」

そう返事して小柄な少年が身に着けていた武装鎧を持ってきたくれた。

「見習いの雑用係の子ですよ。それなりに学もありますし直に正式な研究員になるかと。」

へぇ。

「あ、それでは装着お願いします。」

「うむ。」



「有難うなクレイ。」

「こちらこそ我らを頼ってくださり誠にありがとうございました。」

礼儀正しいな。流石と言うべきだろうか。

「では私は出る。」

「ご武運を。」

武運があると良いんだがな。



「あ、レイさん。こんにちは。」

「うむ。もうくじは引いたのか?」

「あ、はい。良かったですよね。」

「決定権は君に任せてある。問題ない。」

さてと.....もう四日経ったのか.....よろしい!受けて立とう!

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