第24話 束の間の休息

「ふぅ.....良い汗かいた.....」

そう呟きながら防具を外し服を脱いでシャワールームへ向かう。

「ん?」

ふと鏡.....いやどちらかと言えば姿見だな。そいつを見るこいつの素体は筋肉質な男だった。

「へぇ。凄いものだねぇ。」

まぁこれくらいないとあんな防具身に着けて戦えないからな。

「ふぅ.....あぁ.....シャワー気持ちいい.....」




「ふっと.....」

「あ、レイさん!お疲れ様でした!試合凄かったです。」

「あぁありがとうファビアス君。」

「.....はい。」

え、何の間?

「.....シャワー、空いたから.....どうぞ.....」

「あ、はい。ありがとうございます。」

気まずい。よし、逃げよう。

「じゃあまた4日後の試合前に。」

「はい。」

.....人の心を読もうなんざ考えてはいかんな。

「.....女なんですけど。」

「ん?なんか言ったか。」

「いいえ、お気になさらず.....」

よし、全力ダッシュで脱出じゃ!



「.....」

うーん、後ろ12mに3人、横の売店に2人、前の角に4人。計9人か。後ろの奴らはてっきり付けているだけかと思っていたが包囲網だったか。迂闊だった。こんな町中でそうドンパチしないだろうと思っていたんだがな。

「いや.....」

別に全部が全部同じ所属のチームとは限らないだろう。上手く撒けるか?あ、そうだ。

「親父。」

「お、どうした鎧の若いの。」

適当に話しかけた屋台の店主は人当たりの良さそうな顔でこっちを向いてきた。流石商売人と言ったところよ。

「へぇどれも美味しそうだな。」

「そうじゃろう。なんて言うてもリザークの肉を秘伝のタレで焼いた串じゃからな。」

「リザーク?」

なんだその肉。

「ほれ、あの鶏冠のでっかい青い鳥みたいなもんじゃ。よくリザードマンと間違えて亜人連合共から抗議が来るが全くの別もんじゃ。名前くらいよく聞けって言うの.....まぁそう言うと尻尾を巻いて逃げて行ってしまうんだがな.....人間型の獣の類は保護するのに鳥はそうしないのは何故かと儂は思っとるんじゃがそれもまた儂ら知能を持ち合わせた生物の宿命なんじゃろな。ま、奴ら亜人の心はおろか娘の心も分からん儂が言えたことではないがな。なにが良くて田舎なバルデルド帝国なんぞに留学しに行ったんじゃ。まぁ革命が起こりそうで危険だから戻るとは言っていたが.....すまんな長くなったの。ほう、特別に半額でやるから食ってみろ。飛べるぞ。」

「へぇ、ありがとな親父。」

なかなかな親父だな。俺みたいだ。

「いいって事よ。」

ってそうだ感心してる場合じゃないんだ。付けられてるんだったな。

「ここの裏の店は親父の家かい?」

「変なこと聞くねぇ。まぁいい。あぁそうとも儂の店の本店じゃ。あそこだけじゃ儲からんからこうして表通りにも屋台を出しとるんじゃ。はて、それがどうした?」

「いや、すまないがお手洗いを貸してくれないだろうか。」

「なるほど。構わん好きに使え。だが....」

「ん?」

なんだ条件でもあるのか。

「今後ともうちを御贔屓にな。」

「あぁ。約束する。」

「よし、沢山だしてこい。隣の不景気な面した爺さんの畑の肥料の足しになる。もちろんあんたの使用料として爺さんからはふんだくるがな。」

....流石商売人。あっぱれ商売人だな。



「おい、親父。」

「なんじゃ客が立て続けに来るとはな。今日は何かあったかな。」

店主は首を傾げる。

「いや、客じゃない。ただ先程の客について聞きに来ただけで....」

「言わん。」

「な!?我が誰だと思って言っているんだ!」

「知らん。身分証も出さずにしかも商品を買わずに客の情報だけを聞き出そうとするような奴にな。」

「っく....そのリザークの焼き串一本!」

「はいよ毎度あり。」

そう言って店主は笑みを浮かべ金を屋根から吊るした笊に入れる。

「今時こんな屋台があるのか....」

「おう、先祖代々この商売方よ。」

勿論出任せである。そもそも屋台を始めたのがトーナメントが始まって観光客が増えてきたからである....

「で、なんだっけお客さん。」

「あ?うん、先程鎧の男がいたろう。」

「あぁいたな。なんじゃ犯罪者だったのか....いや違うな.....裏の人間か.....」

「何の話だ。」

「貴様らが正規の者ではないからな。オーバーコートで隠しきれない膨らみがあるからな。」

「何者だ爺さん。いや.....そうかあなたは.....」

「まったく今の若造は鈍いな。何年てめぇらみたいな奴ら相手に騙してたと思ってたんだ。」

そうこの店主、前王直属の機密部隊で司令官の座についており、崩御後には現王からの誘いを断り穏やかな余生を過ごしていた超重要人物である。

「まぁ結論から言うとあの男はシロじゃ。何もしとらん。そなたら貴族や戦争成金共の犬が嗅ぎまわるほどではないさ。」

「な.....しかしあなたほどの人が言うなら.....そうなんでしょう.....」

そう言って男達はそそくさと去っていった。

「素直な男どもよ。しかし.....」

店主は険しい顔つきになる

「あの男は何者じゃ。感じ取れなかった。」

そう言って悩んでいると

「あんた。おいあんた。」

「ん、なんだ。かかあ。」

「ほれ、あの子から。」

「なんだ.....おぉ!一週間後には帰ってくるか!」

今は娘の事の方が重要な引退司令官の店長であった。





「まったくトイレから下水道を通る羽目になるとはな。関節を外せて助かったぜ。」

鎧は魔法で小さくこじんまりにできても体はそう上手くいかないものよ。

「さてとそろそろか。」



「ポプラン様。」

「ん?どうした。」

「下水道から不思議な音波が.....」

そういって研究員はヘッドホン(無論その様な名前はついていないのだが)を渡した。

「なんだ一体.....っておい。」

ポプランは椅子から飛び上がって言った。

皇帝カイザーの声じゃないか?」

「え?皇帝カイザーが?何故?」

そんなのこっちが聞きたいよと言わんばかりの顔をポプランはしていたが少し考えていたがそこへ向かった。



「おぉポプラン。」

皇帝カイザー.....何故このような場所から.....」

息切らしてるよ。走ってきたようだな。まぁそりゃそうか。すまないなポプラン。今度あの串奢ってやるからさ。

だと付けられるものでな。」

「まぁそうでございますね。」

「あぁ.....ところで本体は?」

「カイルでございますね。厳重にロックされトーナメント終了までは我々でも開けられぬようにしてあります。」

凄いねそいつは。

「まぁ頼むよ。」

「あ、そうでした皇帝カイザー。」

ポプランは足を止めると俺を呼び止めた。

「どうした?」

「ロイエンタール殿が面会を希望されこちらに来ておられます。」

あぁロイエンタール.....名づけてっきり会ってなかったな。

「うむ。では会おう。生憎こんな姿だがな。まぁせめてシャワーは浴びよう。」

二度目だがな。

「ええ。その方が良いと存じます。」

さて、内容は何かな。

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