第23話 年の功

少年はある夢を持っていた。誰にも負けぬ史上初の土属性の貴族魔術師になると。14になる頃少年は親の前で誓った。必ずそうなると。その為に家を出て鍛錬を積み重ね、遂には相伝のスキルを進化させるまでに至った。だが少年はそこで歩みを止めてしまった。齢18の頃だ。立派な大人になったと思い込んだ少年は現状に満足してしまったのだ。良くあることだ。物珍しいものではない。それは結果的に人生初の敗北を迎える原因となる。



「始めようか。」

タリィはその瞬間空気が変わるのを感じた。圧倒的強者の登場。動けなかった。

「どした?坊主。かかってこないのか?」

「....いいや!行くさ!」

「そうか。ならば来い!」

焦るタリィは土を身に纏い切り掛かる。

「さて、ここで一つ問題だ。君は先程までの闘いを観察していた者にこのような攻撃が通じると思うか?」

しかしレイに一蹴される。文字通り腹部を回し蹴りされて。

「かっ...」

「うーん。君の戦い方は嫌いじゃないんだがどうも一辺倒だな。」

何者なんだこの人は!タリィは恐怖を覚える。

「つまりだなタリィ君、このままでは君は負けるだろう。」

「は.....なんだよ.....」

タリィお得意の悪態をつく力もないと見えて言葉の刃も随分と錆がついてきたようだった。

「うむ、これでは埒が明かん。代わってくれないだろうか。君のパートナーと。」

「な.....そんなことが.....貴様.....」

「ならば立て。地べたを這いずってでも私と闘え。出来なければ負けろ。」

「貴様ああああああ!」

タリィは激昂していた。無理もない。ここまで完膚なきまで倒されているのである。

「スゥアキルゥ!縛られぬ地!」

「ふーうん。才能スキルね.....」

タリィはレイの足元の地に魔力を伸ばし崩そうと狙う。

「ふぅ.....使えてくれよ加速ターボ。」

レイは加速ターボを使い、壁の側面を走り避けるという荒業をとった。

「な.....」

こうなると流石のタリィも対処が出来ない。足裏が接していないのではスキルの効力が及ばない。

「まぁタリィ君よ。君は判断力の無さで敗北と言う名の断崖に立った時に私の心優しき忠告を聞かずに抗戦の意思を露わにしたが、それはどんなに才能があったとしても、それにともなう器量がなかったと自ら証明することになるのさ。」



うーんダメな長文。国語の勉強しとかないとなこいつは。というかこれなんだっけ。アンネローゼだったかな.....さてとタリィ君は冷静な判断力がそろそろ無くなってきたようだな。万事順調。というか肉弾戦じゃなくて武器あるよな鎧に。

「おっ。」

魔力塊刀剣が出てきた。ビーム剣だっけ

「二刀流!」

左腕からも出てきた.....これって確か脳波がどうちゃらこうちゃらって言ってたし念じただけで武装が出るのかこれ。とんでも技術だなおい。

「な.....魔力の塊の刀身.....」

あ、タリィ君絶句してる。いいねいいねその顔。そいつが見たかった。

加速ターボ二乗。」

こいつで接近するか。しかし魔力量凄いな。いったい何処に魔力コンデンサーでも付けてやがるんだ。

「うっ.....」

いきなり近づかれて呻き声をあげるか。

「壁壁壁壁壁!」

あららいきなり目の前に鉄壁が。

「切れてくれよ斬鉄剣ビーム剣よ。」

そう祈りながら切りかかる。

「おおおっとタリィ選手の鉄壁が遂に崩れた!」

実況だけがその事実を伝えていた。




「す.....すごい.....」

ルフティは唯々レイの試合運びを見て感嘆していた。武具の性能だけで押している様に見えて頭脳を主として戦っている。それは.....相手を激昂させること。これはこの様な場での選手たちは挑発に対しては慣れているがレイの挑発には相手を本気で怒らせる特別な感じがあるのだ。

「あっ.....もうタリィ.....」

ルフティはふと相手パートナーを見ると溜息をついていた。相手の挑発にのってしまうのはよくあることなのだろう。そして試合もいよいよ大詰めだ。自分は活躍出来なかったがせめて応援はしよう。そう思って実行に移したルフティであった。




「スキ.....」

「おらっ!」

「ぐっ.....」

スキルを発動させずにただ火力でねじ伏せる。うん、可哀そうだな。こっちが泣きそうだよ。だって冷静に考えると46のおっさんが23の新人潰してる構図だぞ.....って待て。12、3年こっちで過ごしてるんだからもう60近い.....?うそだそんなこと!感じてなかったけれどもいつまでも46でいられないんだよな。まぁ膝とか腰が痛くなくてしかも焼肉腹いっぱい食べれる点はいいんだがね。

「ど.....どうした。」

傷だらけで立てないであろうタリィがこちらを見て尋ねる。

「いや、実年齢に酷いショックを受けていただけだ。」

「は?」

「関係ないこっちの話だ。」

「理不尽だよ.....」

「大人とはそういうものなんだよ。」

「へっ.....なりたくねぇや。」

「俺だってなりたくなかったさ。でもな青年。経験を積むのも大切だ。だが無駄に時を過ごすなよ。」

「は.....ギブアップ。パートナーとの交代のラインまで行けそうにねぇや。」

お、ギブアップ宣言か。こいつは助かった。

「おおっとギブアップ!タリィ選手からギブアップ宣言だ!ということで勝者チームアイス・ゼロ!」

観客からの拍手と喝采と賭けに負けた親父共のヤジが飛んでくる。

「.....ざまぁみぃや。」

「ん?なんか言ったかレイさんよ。」

「いや、ただ君のチームが勝つと賭けた親父共に対して言っただけさ。」

「.....あんた性格悪いよ。」

「馬鹿に馬鹿と言ってるんだ。何も間違ってなどいないさ。」

しかし.....疲れた。風呂入って今日は寝よう。

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