第15話 夜の王都で悪魔は踊る その⑤

部屋のドアを開けると彼女はベッドに座っていた。

「あ、カイル君...」

「無事そうで何よりですレシィさん。」

「どうしてここに?」

「見舞いですよ。ほら果物。」

そう言って俺は袋から林檎の様な果物(異世界なんだから正式名称分かんないけど色も味も形も林檎だ)を取り出した。

「カイル君は優しいですね。昨日少し一緒に過ごしただけですがそう感じました。」

「そうですか。」

林檎の皮をサバイバル研究会に入会して貰ったナイフで器用に皮を剥いていく。

「私...怒らないで聞いてくださいね。カイル君の事疑ってたんです。私個人が、という訳ではなくて。家系的なもので....父からも言われて。『あいつを見ろ。あの特待生を』と.....それで.....」

「はい。それでどの様に?何故疑ったのでしょうかね。」

「その...少し、というより大分失礼なんですが特待生とは言え戦闘能力が然程高く無い貴方がブレース皇子とサリィ先輩に勝てる訳ないと...もしかしたらイホウマヤクを使用しているのでは無いかと...」

「イホウマヤク...」

違法麻薬...違法魔薬だな。うん。

「そうかもしれませんよ。」

穏やかな表情で続ける

「僕はもしかすると貴女が.....ひいてはあなたの家が僕を疑っていることを知っていて口封じか見せしめに殺しに来たのかもしれませんよ。そうするとあなたは残念な事に死神を自ら部屋の扉を開けて招き入れた事になりますよ。」

数秒の沈黙の後彼女は口を開いた。

「そうかもしれませんね。だとしても貴方は私を助けてくれました。だから良いのです。ありがとうございます。」

彼女はそう少し痩せた笑顔で言った後、俯いた。

「........そうですか。剥けましたからこのお皿の上に置いておきますね。」

そう言って俺は荷物をまとめながらドアに足を進める。

「本当は....」

顔を上げて言う。

「同級生を疑うなんて本当はしたくないんです。でもそうしないと私はクロリース家の人間ではなくなってしまう。私の意思は関係ないです。ただ家のために.....」

「でも.....言い訳ですよね。」

流れ出そうな涙をこらえて言う。

「え.....」

「結局のところ貴女は罪を分かっていながらどうしようも出来ないんだと思って何もしないんです。同情でもしてもらいたかったんですか?」

「あ、いや.....」

「私は生憎懺悔を受ける神父ではないのでね。それにどちらかと言えば無神論者ですし。私は貴女の容態を心配して来ただけなのでね。で、今の会話体調でも悪くなりましたか。」

「.....」

こうでも言っておいたほうが良いのだ。俺と関われば本当にロクなことにならない。巻き込んでしまうかもしれない。それに.....俺には「ありがとう」なんて言われるほど人間出来ちゃいない。あながち間違ってもないんだよ。俺は人殺しさ。法を犯しているんだよ。違法さ違法。本当はずっと罪悪感に苛まれていた。あなたに顔向けできないさ。部屋を去った時、中から啜り泣く声がした。俺は振り返らなかった。そうしてしまったら彼女に泣いている顔を見せてしまうかもしれない。ドアはしまっていても心で分かってしまうものなのかもしれない。それもこれも全て魔法のせい、あるいはお陰なんだ。



部屋を出た後、声をかけられた。

皇帝カイザー。お時間よろしいでしょうか。」

「問題無いぞリルゥ、してなんだ?」

「はい、現在3000名の兵士が王都に向かって進軍中とのことです。」

「兵士か.....」

そういや手紙で兵士送れって言ったしな。

「リルゥ、400名まで減らすように。」

「400!?」

「あぁ、400だ。道の狭い王都で3000名は多過ぎる。そして目立つ。それに.....死人は多く出したくない。この様な場合であればなるべくは少数精鋭でありたいものだ。」

「.....了解致しました。」

「不満か?」

「.....いえ、その様な事はありません。」

「言えばいい。暴走した君主を止めなければ滅亡は必至だ。いざとなればクーデターでも起こせばいい。それでトップを変えて再出発.....なんてね。」

「自身が暴走していると.....?」

「いや、そうは思っとらん。まだ目は黒いと思っている。ただ言っただけだ。警鐘は鳴らしておいてなんぼのものさ。」

「.....」

「安心しろ勝てるさ。勝てなければ逃げればいい。ここは本拠地ではない。」

「だから本部をご実家の地域に…?」

「さぁな。どうだろう。俺は一体何を考えているのだろうな。」

「.....手紙を飛ばしておきます、今すぐに。」

「頼むぞ。」

しかし.....サイキも3000人は多過ぎると分かっているはずだろう。

「遠征軍の総大将は?」

「ミッターマイヤー殿です。」

「なるほど。」

「?」

「何でもない、ただの独り言だ。じゃあな。」

「ご武運を。」

そういって別れた。まぁミッターマイヤーだし志願兵全員連れてくるとかしたんだろうな。王都の町の路地の広さに見合った数をと言ったつもりなんだが.....



夜の王都の路地裏、剣を持った神の騎士団の騎士たちが無惨な姿で横たわっていた。

「貴様..何者だ...神の騎士団をこうも易々と...」

「神の騎士団?あぁ、あいつの意思を継ぐ者たちだっけな。クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソッタレがよぉ!あんの勇者?のお仲間の子孫だろ?俺を封印した奴らの!あぁ〜ムカつくわ。クッソムカつくわ。」

「貴様...勇者様が封印したあの...」

「そう、世間的には『悪魔』って言われてるらしいな。でもな、そんな雲の上の様なもんじゃ無いぜ。俺の名はエグリス・サイロンさ。」

「エグリス...窃盗、殺人、放火...ありとあらゆる犯罪に手を染めたあの...貴様が悪魔だったのか!許せん!」

「許される?そんな気はねぇよ。だって何もしてねぇもん。ただ阿呆を利用しただけだ。」

「貴様...!」

「来るのか?いいぜ来いよ。」

「…めの不sss!」

騎士の背後に黒い靄が現れる。

「行くぞ!」

騎士は走り出し距離を詰めるが

「残念、それ俺が創り出した呪文だ。」

エグリスは騎士の頭を掴み首を曲げた。

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「だから対策も呪いの情報を書き換える事も出来る。」

断末魔が夜の王都に響き渡った後、エグリスは首を捥いだ。彼は勇者が居た時代、極悪人として罪を重ね封印された。そして勇者と共に転生した元勇者パーティの男。それが彼だった。



「しかしつまらんのぉこの時代」

「そう言わんでくだせぇ。悪魔様。」

「あんさんが勝手に召喚してすることねぇからあんたの計画に従っているが.....」

「まぁ楽しいからよいでしょう?」

「うむ、そうだな!」

しかしこの男は何を企んでいるんだか。疑問に思いながらエグリスは淡々と死体を処理していた。

「ん?何だか足音がしてくるな。のぉお前.....」

振り向いて自信を召喚した男を見ると首から上が無くなっていた。背後には屈強な青年と少年らの影。

「ほう.....して、誰かな?この悪魔を相手取ろうとする者は?」

エグリスは召喚主を殺した血の気の多い団体様御一行のトップと思われる蜂蜜色の髪をした青年に質問する。

「突然で申し訳ないです。ですが.....」

彼は剣を鞘から引き抜き、構える。

「直接恨みは有りませんが皇帝カイザーが命令した以上、お命頂戴します。」

そう笑顔で返答するのであった。

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