第16話 夜の王都で悪魔は踊る その⑥

「中々そいつはとばっちりじゃないのかいね。俺っち可哀想じゃん。」

「いいえ、貴方様の罪に比べれば随分と軽いものですよ。」

「そんなに大罪犯してないけどな。」

「確かにそうなのかもしれませんね。私はあなたについて良く知りませんし。でも罪が散り積もっているので何らかの星にでも変わって断罪させてもらいます。」

そう言ってミッターマイヤーは微笑む。読者諸君には断っておくがこの男はサイコパスではない。ただ少々戦争という狂気に飲まれて命の価値を軽く見ているだけなのだ。だから別にいつもこんなで殺しにかかるとかではない。じゃないと恋人なんて出来ないだろう?

「おお、怖。」

「では...」

ミッターマイヤーはエグリスの首を刎ね、兵士からはエグリスに対する失笑が広がる。しかしミッターマイヤーは1人、苦虫を潰したような顔をしていた。溜め息の後、口を開く。

「...厄介ですね分身とは。」

剣を後ろに回し、また首を刎ねる。

「分身とは言え殺されたら痛いんだよ。」

真横の建物の屋根の上、エグリスは言う。

「なるほど、なら分身する余力も無くなる程首を刎ねるまでです。」

にっこり微笑みながら言う。

「それは...どうかな?」

帝国兵士を囲むようにおよそ1000ほどの分身たちが襲いかかってくる。その中には羽を生やしたものなど名実共に悪魔もいた。エグリスはこの後、無惨な死体が転がった血塗られた路地裏を想像して勝利の笑みを浮かべていた。だが

「はぁ全く舐められたものだ。陸戦型、飛行型...二種だけとはな。やるぞ。勇気ある兵士諸君。」

「はい、ミッターマイヤー様。」

この様に死など考えずただ命令を遂行する兵士が相手なのが悪かった。自身の兵数が敵の半分以下という事などまるで眼中に無いと言わんばかりに分身を切り落としていく。流石のエグリスも焦って分身を増やすがただでさえ最初に1000体もの分身を作っているため魔力も底を尽きてくる。

「チッ。流石に分が悪くなってきたか。」

「逃げるのか悪魔?」

「いや、これは無様な逃げではなく...」

後ろに飛び上がり距離を離していく。

「新たに被害者を増やすんだよ。残念だったなナントカ帝国の諸君。また会おう。」

高笑いしながら貴族学校の方角へ飛んでいく。

「ま、待ちやがれ悪魔!」

兵士の一人が叫ぶ。

「落ち着け。」

「し、しかしミッターマイヤー様!」

「あそこの方角の先に誰がいると思っている。」

「誰って.....貴族学校.....皇帝カイザーだ。」

「そうだとも。皇帝カイザーが貴族学校には居るんだ。問題無いさ。悪魔退治を自分の武功にできなくて少し悔しいが力が足りなかったということ。無理もない。」

「そんな...ミッターマイヤー様、我らの責任でもあります。御自身で全部背負わず部下にも背負わせてください。」

賛同の声が部下から次々と聞こえる。

「そうかそうか...私は良い部下を持った様だ。よし、点呼!」

全員の生存を確認し、ミッターマイヤーは帰路についた。

「頼みました。皇帝カイザー...」



「はぁはぁ.....くっそ魔力の消耗が激しいか.....この辺りに魔力の濃いガキは.....」

全く災難だった。あの生意気なガキらに俺の分身がこうもたやすく倒されるとはな。魔力吸収しないと死ぬぞこれ。無様なかっこで死にたかねぇよ。

「あ、なんだよもう。あー腕落ちやがった。」

あの召喚してすぐ死んだあいつ、魔力で強引にやりやがったな。魔力が無くなるとすぐ分裂する。ちゃんと縫われてないぬいぐるみか俺は。

「お、濃い魔力が.....」

突き当りの部屋に濃い魔力を感じて近づこうとすると

「おい、お前.....何してんだ。」

恐らく声色からして生徒かな。そいつから声をかけられた。

「いや、道に迷って。」

無駄な戦闘をしている余裕はねぇんだ。

「お前.....生徒なんぞではないだろう。あれだな.....そういう輩が増える時期なのかな。」

「復活したからね。」

ケッ、無駄に鋭いガキだぜ.....殺すしかないかな。正体に感ずいたならな。

「最高にしなくてよかった復活だよ。お前みたいのが居るからな。」

「さて、舌戦もしたのだし、そろそろ戦闘に移ろうか。少年。」

「あぁ、いこう。」

貴族のボン1人くらい瞬殺してやるわ。





あ、不審者発見。しかも30代くらいか.....警備員か?いや違うな。制服を着てるはずだがボロボロだ。一体どこに向かおうとしてんだこいつは.....あぁ、リルゥの部屋か。なるほどね。許さねぇぞ変態。

「おい、お前.....何してんだ。」

「いや、道に迷って。」

「お前.....生徒なんぞではないだろう。あれだな.....そういう輩が増える時期なのかな。」

「復活したからね。」

「最高にしなくてよかった復活だよ。お前みたいのが居るからな。」

「さて、舌戦もしたのだし、そろそろ戦闘に移ろうか。少年。」

「あぁ、いこう。」

戦闘を振ってくるってことはウィディが言ってた冒険者くずれってやつかな。平和になりすぎるとモンスターも減り、職を失った冒険者.....まぁ自分で自分の首を絞めてたってことか。平和になりゃ無くなる仕事.....俺も考えないといけないことだな。

「おらぁ!光の危機αライトニングクライシスアルファ

お、弾幕かよ。どうやら視力も奪うつもりなんだな。

「っと.....闇の輝きの爆発ダークシャイニングブラスト

よし中和。しかしゴリゴリの中年にもなって詠唱するの.....正直言って恥ずかしいです。

「噓だろガキんちょ。そいつぁ高等魔法だぜ。」

「学生だから学んでんだよ。」

まぁ、大学生とかはね?年齢もね?

「なるほどね。」

「で、闇の輝きの爆発ダークシャイニングブラストは魔力ダウンの効果があるんだよ。なんでだろうな。」

「知らねぇよ。」

「ま、剣技で決着付けようぜ。侵入者。」

「行くぜ。ガキんちょ。」

「おう!」

ナイフ三本.....いや、新兵器で攪乱するか。

「魔力ボトルver4.7。四本開封!」

「え?」

まぁ、その反応は妥当だな。自分で魔力ダウンさせてんのに魔力のもの使うなんてな。あぁとんでもねぇ矛盾だ。だがしかしな.....もしいるのなら神ってのは随分残酷なものだぜ。

「圧縮魔力.....」

さて、限界密度超えた魔力をまた戻したら爆発力凄そうだな。だから戻してみるんだがこれ校舎大丈夫かね。まぁ

「んなこと知るか。賠償請求は悪魔につけとけ。さて、全開放フルバースト.....」

次の瞬間、目の前が誇張表現ではなく本当に真っ黒になった。

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