第13話 夜の王都で悪魔は踊る その③

しっかしだな.....悪魔か。あのサイキですら悪魔と呼ぶほどなのだから本物の悪魔かそれとも.....

「悪魔部隊.....」

悪魔と恐れられるほどの強さを持った敵組織の部隊の隠語.....だろうかな。ふと見るとリルゥが不思議そうな顔をしている。何でもないですから大丈夫ですよ。ただの独り言ですから。

「リルゥよ...」

「は、何でしょう。」

「今日はもう良い。新たな情報が入り次第、報告せよ。」

「了解しました。では...」

声色が変わる。

「カイル君もお気をつけてくださいね。」

「あぁ、今日はありがとう、リルゥさん。」

こちらまで合わせてしまった.....凄いな。すぐ切り替えたぞ。これがプロの精神だな。



「なぁ、カイルなんだった?」

「いや何でもないさライル、強いて言えば.....そうだな。ヒーローインタビューってとこかな。」

「ずりーぞおめぇ。何でお前は女運が良いのか。」

仕事だけどね。まぁ仕事だし.....

「じゃ、ライル。俺は少し図書館行って来る。また何かあったらよろしく頼む。」

「自主学習とは偉いね。行ってら。」

「おうよ。」

さっきは否定した可能性、本当に悪魔が存在する可能性も魔法のある異世界だしあり得なくはない。もしかしたら太古の昔、悪魔と戦争を蹴り広げ、魔王を倒した勇者がこの学校の創立者で王家の始まりだ...とかそんなものがあっても不思議ではないからな。




「マジであるのかよ.....想定はしていたが.....」

一瞬古事記みたいな八岐大蛇ファンタジーかと思ったけどちゃんとした歴史書で勇者と魔王の『聖戦』が書かれていた。そこにはその時代にあるはずないような品物の...そうそうあれだ、所謂『オーバーテクノロジー』と呼ばれるような品の記述があった。これが祐輔の言ってた『転生ボーナス』かね。それとも転生の時に一緒に転生前の品を持ってったか。まぁ別にそこまでは関係ないだろうし良いか。そんな事を考えていると

「あの...お隣よろしいでしょうか。」

ん?えーとさっきの子だ。名前は...

「別に私は困りませんが空きは沢山ありますよ。レシィさん。」

「あ、そのぉ、お話ししてみたいな〜って。」

「それはここの外でするべき事だと私は思いますが。」

沈黙。うーん、気まずいな。流石に可哀想だ。俺と関わるとロクな目に遭わないからな。だから避けてきてるけどなぁ。流石にこれはきついからな。

「まぁ、別に私も調べ物が終わったので良いです。出ますよ。」

「あ、ありがとうございます。」


「あの、少し勉強を教えてもらいたいなぁって。」

勉強か。なら一応専門だしな。(なんだよ一応専門って。言の葉腐っているじゃないか。)

「良いけど俺以外にも勉強教えるの得意な人いそうだけれども?」

「いやでもカイル君、この学校で准教授レベルでしたよね。だから...」

あ、そうか俺は頭の良さで特待生になって准教授レベルで入学してんだったな....どうしてこうなった。

「まぁ、時間はありますし良いですよ。」

「ありがとうございます。」

「今部屋空いてますしどうぞ。」

「は、はい。」

何だろうな。新人の教育係任された時みたいだな。あいつのおかげで俺は多少の若者の知識を学んだんだしな。2ちゃんねるとかニコニコ動画とかそういうの。それももう15年くらい前か。どうしてんかな。あの新人。この世界に転生してたとして、もし会ったら礼の一つや二つ言っておこう。



「で、どこ教えれば良いんだ?」

「この部分の古代史をお願いします。」

「うん、了解した。」

思えばこちらに来てからはあまり教えてなどいなかったな。大概新しい事ばかりで....特に気にも留めずに過ごしていた生活とは大違いだ。そう、毎日が新鮮というやつだな....俺はもう何者なのだろうか。もしかしたら転生した命なんだと思い込んでいる純異世界人なのではないか....生まれてからとても強いショックを受けて現実逃避として過去の記憶でさえも改竄しているのではないか....だから祐輔にも名前を言わなかったのではないか....覚えている。直ぐ言える。だが言う気が無い。これには本当はそんなものはないから無意識で暗示をかけてロックしていたのではないか....そもそもこれは現実なのだろうか....もしかすると俺が考えて行動していると思い込んでいるだけで本当は誰かの昼寝している途中の夢なのではないか....いや、それじゃあこんなおっさんにしないだろう。それならば若者になるはずだ。大概の草臥れた野郎どもは過去の栄光に浸りたがる。だとすると本当は俺は死んでなどいなくて明日新刊を買いに行こうと思って寝ている最中に寝る前に見たTVの事故のものと混ざって自分がその状況に置かれている夢を見ているだけではないのか....そうだそうに違いない。そうじゃなきゃこんな可笑しなところに来れるわけなどない。これは夢なのだ。恐ろしい悪夢なのだ。なぁ夢ならば早く醒めておくれよ。早く俺を戻してくれ....いいや、戻さなくていい。あんな世界へ戻っても楽しみが銀英伝しかないじゃないか。仕事に対してそこまで遣り甲斐があるわけではないし寧ろこちらの方こそが充実した毎日を送れているのではないか....ならば夢でも何でも良いではないか....せめてもの休息を過ごさせてもらっても誰も文句はつけないであろう....



勉強は途中雑談を挟みながら進んだ。

「とまぁこんな感じです。何か分からないところはありますか?」

「いいえ、ありませんよ。何だかあの、失礼ですけど前まではカイル君の事、とっても無愛想で苦手だなって思ってたんですけど話してみてそうでもないって事が分かりました。」

「そうですか。ありがとうございます。」

無愛想で苦手か。この年齢でそんなやつが日本に居たらそいつはまごう事なき中二病だな。心の中でならどれだけ嫌ってやっても罵倒してやってもいいぞ。心の中にでならな。

「では私帰ります。では。」

「あぁ、少し送っていきますよ。」

こういう時って多分こうした方が良いだろう。まぁ、散歩がてらだけど。


少し歩くと中庭に出た。何やらに人集りができているな。犬でも入ってきたか?

「すいませーん少し通して下さーい。」

そう言いながら人集りができているところに野次馬にでもなろうと行くと隣にいたレシィは悲鳴をあげた。なんという神の悪戯か悪魔の所業かそこには窓の額に釘で打ち付けられたここの学生の死体があった。水死体が如く膨れており、それでいて頭の天辺は削り取られていて毛根一つもない。歯は全て抜け落ちていて左目は膨らみから見て恐らく抜け落ちている。大分惨い事をなさる。

「し、死体!」

そう彼女は叫ぶとヘナヘナと倒れ込んでしまった。

「すいません。あの、倒れたんで保健委員の方いますか?」

「いやここに来た保健委員も倒れちまったんだ。」

眼鏡をかけた上級生が答えてくれた。辺りを見ると倒れ込んでいる人が数名いた。

「し、しかし君は酷く冷静だね。僕は少し気分が悪いよ。」

「あ、何回か見たことあるんで。」

「見たこと...?」

あ、やべ。まさか少年兵で構成される組織率いて戦争してるんで死体見慣れてまーす。いえーいなんて言えないよ。いや、見慣れても無いけど。まぁ生き返らないんだから人じゃなくてただの物体って前世で親父の葬儀の時思ってからだろうな。その時命に対する感謝の気持ちとかが狂ったのかな。俺には人の心は無いのだろうか。

「たしかのどかな田舎の出身だったよね?山で足を踏み外して死んでるものとか...見たのかな?」

「ん、あぁ大体そんな感じです。」

違うけどそういう事にさせていただきます。

「良かったよ。一瞬隣に大量の殺人鬼でも立っているのかと思ったよ。だって君、強いだろ?」

「流石に人は殺せませんよ。」

まぁ直接はね。殺したのも間接的...間接的にも殺してるか。

「良かった〜。強さは正しくね。」

「はい、そうですね。しかし、この死体、妙ですね。」

「妙?」

「はい、だって白昼堂々人目につく中庭に出たんですよ。おかしいじゃないですか。」

おいリルゥ、もしかしてこれが悪魔の仕業とな言うんじゃ無いだろうな。

「今年は龍の年の青の月だ。もしかして伝説の悪魔...しかも殺されたのは貴族の子だ。こんな事件だし、もしかしたら王国直属の『神の騎士団』が出てくるかもしれなしぞ。」

すまんリルゥ、流石にこんなのに勝てそうに無いぞ。

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