第8話 転生者
「え......」
「噓....だろ....?」
「あ、あの第二皇子のブレース様が....」
こんな声があちこちから聞こえる。うん、そらそうよね。だって考えてみなさい。魔力がない自分で言うのもあれだがそう。底辺野郎がボンボン野郎を.....あ、第二皇子のブレースっていう人なのね。えーとじゃあ第二皇子のブレースさんをぶっ飛ばしてしまったんだからね。当然の反応だな。
「君達!今の騒ぎは...ブ、ブレース君!?おい、どうしたんだ!」
あ、先生来た。いや、陰で見ていたかな。関わり合いを避けたかったんだろう。第二皇子というくらいだしこの先生も介入したらそれこそ闇の彼方へサヨウナラしてしまうかもしれないというわけだな。
「そ、そこの特待生が......」
「何!?カイル君が?」
先生がこちらを向く。
「本当なのかいカイル君?」
「はい。そうです。」
ちゃんと事実を言わないとね。
「そんなことをしたら君は退学になるかもしれないのに。」
「はい。承知の上です。」
実際その方が銀河帝国で美味い紅茶を飲めるからね。あれ淹れたの誰だろう。才能あるな。
「おい....待てよ.....底辺....」
誰が喋りだしたのかと思ったらボンボン君だった。普通自分に勝った人間を底辺と呼ぶか。敬意が足りん敬意が。とは言えないらしいな。
「ブレース君。君は休んでいたほうが...」
「先生....この底辺は退学には....しないでくれ.....」
「ブレース君....」
「こいつは....俺を倒して....プライドを打ち砕いた.....」
.....すまない。君の事をボンボン野郎と心の中で言っていたことを酷く恥じるよ。君はいい精神の持ち主だ.....
「カイル.....だったけな.....俺は...お前に負けた....だから勝つまでそばに置いておくだけだ。」
「そうか.....再戦の日を待っているぞ。」
こうして俺は残れることになった。皇子.....いい目してんねサボテンね....じゃねぇいい目だな!うん!
「知ってる?ブレース様を倒した....」
「えぇ....見えないね....」
うん、そらそうだろうね。魔力が貧弱な奴にその皇子さんが倒されたんだもん。でもさ、ここで冷静になって考えてみよう学生諸君、もう一ヶ月経ったよね?そろそろ収まってもいいと思うんだけど。でもまぁ唯一の救いはこのまさに今食べようとしている学食!これが食堂のおばちゃんの腕がいいのなんの!いやー美味そーいただきま....
「あのぉ、ここの席って大丈夫ですか。」
うん、俺今まさにいただきますしようとしてたんだけど。
「....いいですよ。」
「ありがとうねぇ。」
うん、こいつ何なんだろう。噂に疎い人かそれともわかっていても来た人か。分かっていて来てたら相当の人間だな。
「ふー。美味しかった。」
「そうですね。」
「なんで君敬語なの」
「一応年下ですし。」
「僕一年だよん。」
「でも年下です。」
「あぁ、何月生まれってこと?大丈夫僕遅いから。早生まれだよ。」
「だとしてもです。」
数秒の沈黙の後ようやく合点がいったような顔を見せた。
「なるほど!君が特待生か!」
「はい。そうですよ。」
大きい声出すなこの人。というか本当に俺の事知らない人だったのね....口には出しはしないけど大丈夫か。もしもーし。
「いや~凄いね君。ブレース君を倒したって。一応剣の才能は皇帝のお墨付きと言われてる人物を一方的にボコったって。」
「別に一方的ではないですけど。」
まずまず第二皇子とかって言われるお方なんだろ。その話題で彼をボコったって使うのは不敬罪でもくらうんじゃないのか。俺の心配を余所にして、そうかそうかと腕を組んで頷く同級生を尻目に学食をかたずけに行こうと準備をしていると彼はまたもや始めようとする時に話しかけてきた。
「おいおい、まだ紹介がまだだろう。僕はスペード寮のウィディ・ミクロンだ。ウィディと呼んでくれ。」
そういやここの学校にはスペード、ハート、ダイヤ、クローバーのトランプと同じ名前の寮があるのだったな。
「クローバーのカイル・サス・サイサルセッチューです。」
「カイル君か。なぁ君、放課後スペード寮の607部屋に来てくれないかい?」
「はい、分かりました。何故ですか。」
「いや少し二人きりで話したくてさ。」
彼はそう言うと去っていった。
「いや~カイル君。ちゃんと来てくれたんだね。」
「はい。そら来ますよ。」
「じゃあ一つへんな質問をいいかい?」
「はい。答えられる範囲なら。」
「君....俺と同じ日本からの転生者?」
数秒の沈黙の後、俺は口を開いた。
「私の知ってる日本と同じであれば。」
俺がそう言うと彼は知ってる日本の歴史と文化について話した。
「....その通りです。」
「だ、だよね....えぇ!そうなの!」
「はい、転生者です。」
「へぇ....居たんだ....」
「『俺と同じ』って事はあなたもですか?」
「うん、中二の夏休みにウキウキで海に向かっていたら車にはねられた。」
うん馬鹿だこいつ。
「お前ぜってー『馬鹿だww』って思ったろ。ちげーからな。車のほうが信号無視してきたんだからな。」
「別に思ってないですよ。へぇ~災難でしたね。」
「そうそう。もっと慰めて。ところで君は何歳で死んだ?」
「46歳ですけど。」
「めっちゃ年上じゃん!ためでいいよ。」
「じゃあお言葉に甘えてためでいかせてもらうよ。ところで君の前世の名前は?」
「俺?山本祐輔。お前は?」
「ノーコメントで。」
え~教えてよ~と残念そうに言う彼を無視して俺は次の話題に入った。
「なんで転生者って分かったんだお前。」
そこだよそこ。問題は。
「ん?やっぱり戦闘能力的にさぁ」
「戦闘能力でわかるものなのか?転生者って。」
「うんだってさ、密度の限界を超えた魔力なんて『チートスキル』でしか無理じゃん。だから分かった。」
ん?待てよ。
「どーかした?」
「あ、いや。チートスキルって何なんだ?」
そう、何を隠そう。『ちーとすきる』なるものを名前を前世で後輩が話してたくらいでほぼ知らない。
「え、知らないの.....」
「そんなに有名なものなんだ。」
まぁ、ジェネレーションギャップだよな。
「いや、カイルは神と話した?」
「あぁそうだな。死んだ後に神のパチモンと話したぞ。話を聞かない悪魔だな。」
その後、5分くらいかけて悪魔の愚痴を言った後、ウィディ・ミクロン、山本祐輔は重々しく口を開いた。
「じゃああの力は素なのか?」
「まぁ魔力以外は素って事にはなるな。」
「技を避けているのもスキルじゃなく?」
「うーん関係あるとすれば俺は小学生の時、反復横跳びで学校で一番だったんだがな。」
「殴りも?」
「少し違うかもしれないが高校時代は俺、空手部の主将で全国一まで行かせてんだぜ。もう随分やってないが体になじんでいたのかもな。」
「あんた....ヤバすぎだろ。」
「みんなこんなもんだったぜ。」
「昭和って怖いな...」
「昭和って言うな昭和って。じゃあな。また機会があったら。」
「あぁ、じゃあな。」
こうして俺は自分の寮へと帰っていった。あいつ.....というか若い世代の方々.....昭和に一体どんな夢見てるんだ?なんか普通に信じられたが。同じ人間なんだけど。たしかに元はあるぞ。だけどな.....
「大幅に脚色しているんだけどな.....」
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