第30話 変装
「おーいファビアス君!買ってきたぞ!」
「あ、レイさんすいません。まだ傷が治りきってないでしょうに.....」
うーん。腹の穴に開いたことで泣きかけていた割にはこうか。中々だなファビアス君。
「いいさ運動になった。」
「そうですか.....」
「それじゃあ買ってきた物はこのテーブルに置いておくから勝手に食べておきなさい。」
「すいません.....あ、幾らでしたか。流石に申し訳ないんで出しますよ。」
「いや、良いさ。こいつはおじさんの奢りだ。」
「いやでも.....というかレイさんそんなに歳とってなく無いですか?」
あらら嬉しい若い子に.....とは思ったが実際レイの外見は鎧に隠れているとは言え若いし声もそれなりになっている.....んだと思うよ。実際声についてはあんまり分からないからな。こればかりはどうしようもない。
「まぁ少なくともこの歳じゃ青二才とは呼ばれないと思うけどね。」
「そうなんですね.....」
興味なさそうだな。まぁ俺もこんな話題話されても興味ないねと言うだろうがね。
「それじゃあ俺はここを出るよ。君はどうする?」
「私も家に帰りますよ。次の試合はエキシビジョンマッチの関係で六日後ですから。」
「あぁ、了解した。」
エキシビジョンねぇ.....まぁ面白いカードだったら見るか。
門を出ようとすると礼服姿の男が二名此方を待っている様だった。
「お迎えにあがりました。レイ様。」
はてどこからの迎えかな。
「帝国からです。」
なるほど。クレイ主任からだろうな。
「分かった。では案内してくれ。」
「.....では表の馬車に。」
「うむ。」
促されるままに彼らの用意した馬車に乗り込み、走り出してから数分した頃のことだった。
「レイ様。」
「何だい。」
相手の方を向くと剣を抜いて構えている姿が見えた。
「.....何の真似だ。」
えー何これもしかしてクーデタ起こされそうになってる?えぇそんなに悪い事してないと思うんだが.....まぁ自分が良い事をしている自覚も無いんだが。
「お静かにされると私らとしてはとても喜ばしいのでそうしてくれますと助かるのですが。」
「うーん悩ましいね。少なくとも怪我人を襲うくらいには良い精神してると評価してあげるよ。」
「嫌味ですか?」
「とんでもない」
「では何なのですか。」
「皮肉さ。で、君ら僕の老化が急激に進んでいなければ記憶力についての心配は無いはずなんだが。帝国と名乗ったな。」
頬杖をつきながら質問する。
「えぇ。我らはマカファスト帝国からの使者ですので。」
なるほど。帝国違いか。
「ふぅん。で、何故刺客を?」
「使者と呼んでください。」
変なところで拘るな。
「すまないね。何故マカファストは僕に使者を?」
「ゲームの進行が我々が不利になるので。」
ゲーム?政治ゲームかい.....あぁ少し考えればこの色々と忌々しきバトルトーナメントは一部代理戦争じみているとしか思えないカードがある。所謂シード組のカードがな。まぁそんなので国籍不明ダークホース来たら堪らないもんな。気持ちわかるぜなんとかスト帝国。
「ま」
そいつらの為に大人しく連行される謂れは無いんだがな。
「すまんな使者のお二人+御者の方!」
左脚に力をありったけ込める。
「貴様何を!」
「産地直送の餞別だ!ありがたく受け取れ!」
脚一本くれてやろう。どうせ復活する。まぁ鎧も壊れかかってるし丁度いいさ。
「ぬおっとっとっと。」
馬車ごと破裂し、俺は道端に転げ込んだ。使者は.....まぁあの至近距離であの爆発を喰らえばただではあるまい。
「とは言え.....脚の鎧は壊れたが脚そのものは中途半端だな。」
骨まで見えて大分見たくない状況になっていた。こりゃ腹の穴といいダメージが蓄積していて本来の力を出し切れなかったな。
「あーあーいやいや。やれやれとでも言えれば良かったんだがナヨナヨしたくも無いしなぁ。」
もっともやれやれ言ってる奴でとんでもなく強いの一人くらいは思いつくが.....大半がジョはジョでもジョン・スミス系統だろうよ。
「さてと。このまま人通りの多いところに行くのもアレだしなぁ.....鎧脱ぐか。」
鎧を脱いでからまた別の問題が当たり前だが発生した。こいつ、どうする?途方に暮れながら2分ほど考えた末に解決策を思いついた。
「小さくするか。
折りたたみ式の提案.....いやそれだと強度が.....いやでも対魔力.....結局物理的負荷.....まぁ良いか次だ次。脚をどうするか。
「切るか、隠すか。うん。隠そう。」
自分が一生を共にする体では無いと言え、多少は苦楽を共にし、まだもう少し働いてもらう体だ。
「にしても何でどう.....あ、そうだ。マカファスト帝国とやらからありがたく頂戴しよう。」
さてと衣服が残っていればいいんだが。
「お、いたいた刺客の野郎。」
一人は少し離れたとこに倒れていた。頭がどっか打って気絶でもしてるのかな。
「服は綺麗だな。頂戴しますよっとっとっと......ひやー。すげぇな。頭が卵みたいに割れてやがる。持ち上げたらドロドロ中のもんが流れ落ちていくぜ。すまんな名も知らぬ刺客。服を剥いだら埋めといてやる。」
まったく己の人としての良心は何処の馬の骨と共に埋めてきたものか。
「さてと.....うーんサイズピッタリとはいかなかったがまぁ無理もない大きさだな。」
色々とマカファスト帝国にまつわるものを服から取れば完成!青年紳士!
「これでまた王都に潜れば良いだろう。顔は丸出しだが割れているのは私の帝国だけだからな。」
シャワーの後もすぐさま防具をつける徹底ぶり。極度の人見知りだっけか設定。いや....とは言え.....すまない刺客の方。君の死体はちゃんと土葬してやったから。
「行くか。」
身なりも整ってるし関所は大丈夫だろう.....いや念のため身分証明書があったほうが.....あぁ埋める前に気付いときゃ良かった。荷物も一緒に土の中だ。
「いや待て二人いたし片方にあるかもしれないな。」
二分後そのもう一方を見つけられた。運が良い。さてと身分証身分証....あった。
「えぇなになに....二等魔導士のカリティナ・ルベルスキー。水瓶座の32歳。帝国大学を首席で卒業....エリートなもんだ。死んじまったら意味も無い経歴だな。命あっての学歴とね....所持金は.....なんだしけてるな。3000マルケイルだけか.....いやどうせ俺を拉致って国にでも連れ帰ろうとしてたんだから寧ろ多い方か.....」
まぁでも金に関してはどうにでもなるな.....
「碧眼の茶髪か.....」
おでこに左小指を突き刺して魔力を送る。目から体液が異常に分泌され今までの髪は全て抜け落ちる。やがて分泌も止まり前とは違う髪もまた生えてきた。
「よし、ガワだけだがカリティナ君になれた。王都内に入るまではこうしていよう。カリティナ・ルベルスキー。すまないが君の存在は僕が貰うよ。」
「マカファスト帝国からのねぇ.....」
衛士は身分証の似顔絵と俺の作った顔を見比べる。
「うーんまぁ怪しいところも無いだろう。ようこそ王都へ。」
「お勤めご苦労さん。根詰め過ぎんなよ。」
簡単なもんだ。
「さてと関所からも離れたし裏路地で脱ぐか.....」
人通りの少ない場所へ行って頭の天辺と顎を引っ張ると巻いていた包帯がくるくると取れていくように顔が剝がれていく。
「まるで脱皮だなこりゃ。」
グロデスクな変身の割には終わりは綺麗だ。苦笑しながら大通りの方を向くとキャンディを持ったガキがあんぐり口を開けて思いっきしこちらを見ていた。あちゃ~。詰めの甘い事よ。
「坊主、今見たことはこれあげるから内緒な。」
200マルケイルをその小さな手に握らせる。
「これで新しいお菓子でも買いな。その代わり今見たことはお母さんにもお父さんにもお役人さんにも言わないんだぞ。お兄さんとの約束だ。」
「うん.....分かったよおじさん。」
「おじさんだと.....お兄さんだろ?」
食い気味に訂正する。
「う、うんお兄さん.....」
納得できなそうに言うんじゃないよ悲しいぞお兄さん。とは言え思わぬ邪魔が入ったな。いや、前回はうまく撒けたから良いとして今回もそう簡単にいくとは思えんしな。むしろ素敵な隠れ蓑を提供してくれた何とかストに感謝だ。
「じゃあな坊主。怪我すんなよ。」
はてさて銀河商会は何処だったかな?
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