第23話 ドレスを仕立てて頂きました

 ネリネは今日も忙しく働いていた。

 洗濯物を干し終えると、次は屋敷内の掃除に取り掛かる。

 まずは玄関ホール。ここは広々としていて床もピカピカなので、隅から丁寧に磨いていく。

 次に二階へ上がり、廊下の窓を拭いていく。


「よし、午前中のお仕事終わり!」


 午前の仕事を終えて、ネリネは額の汗を拭った。

 するとルドルフがやって来た。彼は困ったような顔をしている。


「どうしたんですか、ルドルフさん?」

「あー、ごめん。えっとその、アーノルド様がネリーに会いたがっているんだ。時間があるなら会ってやってくれないかな? 書斎にいるから」

「? はい、いいですよ」


 ネリネはアーノルドの書斎に向かう。ノックをして、返事を待ってから扉を開く。


「失礼します、ネリネです」

「ネリネ、よく来てくれた」

「こんにちは、アーノルド様」


 ネリネはアーノルドに挨拶をする。すると彼は目を輝かせて喜んだ。


「突然で悪いが、午後からセイレームの街へ行かないか?」

「お買い物ですか? はい、お供します」


 今日の仕事はほぼ全て片付いてしまった。後は食事の支度ぐらいだが、それは厨房係のフレイヤの仕事だ。

 彼女の邪魔にならないよう手伝おうと思っていたところだったので、ちょうど良かった。

 それに街に出られるのは嬉しい。最近は屋敷の中での作業が多くて退屈していたところだ。


「では早速行こう。馬車は俺の方で用意しておくから、君は着替えてくるといい」

「かしこまりました」


 一時間後。ネリネとアーノルドは城下町セイレームに到着した。街中を歩いていると、街の人々の視線がアーノルドに向けられる。


「お、おい、ウォレス様だぞ……!」

「多数の魔物を従えているという、あの侯爵様!?」

「この地方の守護者であると同時に、冷酷なまでの強さを誇るという怪物侯爵様……!」

「でもなんか、今日は雰囲気が違うな……前にお見掛けした時より、全体的に優しい雰囲気というか……」

「ああ、分かる。なんだろう……恋する乙女みたいなオーラが出てる」

「それだ」

「ああ、間違いない」


 街の人々はヒソヒソと噂話をしながら、ネリネとアーノルドの様子を窺っていた。その様子にネリネは首を傾げる。

 なんだか今日は、以前セイレームに来た時よりアーノルドに向けられる視線が温かい気がする。


「さあ、着いたぞ」


 アーノルドがネリネを連れてきたのは、オーダーメイド専門の仕立て屋だった。

 セイレームの一等地に建つ高級店で、富裕層御用達の店だと一目で分かる。

 アーノルドも服を作る時は、ここを利用しているそうだ。店内に入ると、店員たちはすぐアーノルドの存在に気付いた。


「アーノルド・ウォレス様、ようこそお出で下さいました。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「この子に合うドレスを仕立てて欲しい。デザインと生地はこちらで指定する。予算はいくらかかってもいい。この子が喜ぶドレスを仕立ててくれ」

「えっ!? わ、私……ですか!?」


 まさか自分の服を仕立てに来たとは思わなかったので、ネリネは驚く。


「そろそろネリネにも、新しい服を着せてやりたかったのだ。君は仕事着とパジャマ以外に服を持っていないだろう。この機会に新しく作ろう」

「いえ、そんな! 私はこれで充分です!」

「遠慮しなくていい。君が気に入るものを選ぼう。きっと似合うはずだ。支払いは俺が行うから心配いらない」

「いえ、そういう訳には……!」

「大丈夫だ。君への贈り物だと思ってくれ」


 アーノルドに押し切られる形で、ネリネは採寸をしてもらうことになった。

 そして数枚の試作品を渡された上で、何種類ものデザインのドレスを着せられた。

 可愛らしいデザインのドレス、煌びやかなドレス、洗練されたデザインのドレス、宝石やレースを贅沢に使ったドレス……。

 どれもこれも、今までネリネが袖を通したこともないような、華やかなドレスだった。


「どれも似合うな。やはりこの店のデザイナーは優秀だ。素晴らしい仕事をしてくれた」

「ありがとうございます。お褒めいただき光栄です」

「この子が一番気に入ったものはどれだ?」

「そうですね……ネリネさんは髪も肌も美しいので、どんな色でもお似合いです。しかし透明感を演出させる為には、淡い色合いのドレスが良いでしょう。ネリネさんの可憐さを際立たせるのならライトグリーンのドレスか、あるいはパステルピンクのドレスがよろしいでしょう」


 店員が二つのドレスのデザイン画を差し出す。

 一つはライトグリーン。スカートの裾や胸元に繊細な刺繍が施されている。フリルがふんだんに使用されていて、背中には大きなリボンがある。妖精のようなイメージがある。

 もう一つはパステルピンク。パフスリーブで胸元にはリボン。ふんわりと広がったスカートには宝石が飾りとしてあしらわれている。こちらのイメージはお姫様だ。


「ネリネはどうだ? この二つ、気に入ったか?」

「は、はい。どちらも素敵だと思います」

「では両方オーダーしよう。生地の素材は絹で、宝石はフェイクではなく本物を使用してくれ」

「かしこました。すぐに取り掛かります」

「えええええええええっ!?」


 驚愕するネリネをよそに、アーノルドは店主と話を進めてしまった。

 それから店を出たネリネは、今度は宝飾店に連れて行かれる。

 そこでは首飾りと髪飾りと耳飾りを買ってもらった。ちなみに全て本物の宝石が使われている。

 ネリネは恐縮したのだが、妙に押しの強いアーノルドに押し切られてしまった。

 その後も靴や鞄など、色々と買ってもらうことになった。

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