第50話
「はい、お粥できたよー」
私は今、琉希に看病をされている。
「うん、ありがとう」
琉希の手作りお粥かー。初めて食べるな。
「あれ? お粥渡してくれないの?」
琉希はお粥を私に渡してくる気配がない。
「え、ここはあーんするのが定番でしょ?」
「琉希、何か面白がってない?」
「面白がってはいないけど、杏子にあーんできるシチュエーションができたのは嬉しいよ」
琉希が嬉々としてお粥を作ってたのはそういうことなのか。
「琉希は私にあーんしたいの?」
「そうだよ」
「琉希は私を看病したくて泊まろうとしてるの?」
「そうだよ」
「……」
どこまで私に尽くしたいんだ、この男は。
「琉希はどうしてそんなに私に尽くしたいの?」
「それは杏子が僕のお嫁さんだからに決まってるじゃん」
その回答、もはや定番になってきてるな。
「それ以外の理由は?」
「杏子が喜んでる姿を見たいからかな」
琉希は少し考え込んでそう答えた。
「それ、私が喜んでる素振りしてなかったら、琉希が不幸になるだけじゃない?」
「え、なんだかんだ言って喜んでくれてるじゃん」
琉希は不思議そうに私の顔を覗き込んだ。
「杏子が素直じゃないのも折り込み済みなんだからね」
あー、そういうことか。琉希は私がそういう性格っていうのを折り込み済みで見てるから、幸せそうなのか。
「琉希は素直じゃない私も好きなの?」
「杏子は杏子だから、素直な杏子も素直じゃない杏子も好きだよ。でも杏子がたくさん甘えてくれたらもっと嬉しいなあ」
最高の答えではあるけど、甘えるかあ。甘えるって私の苦手分野なんだよな。
「でも杏子は甘えるのが苦手だから、まずは甘えさせるのが僕の仕事かな」
え、琉希にとって私を甘えさせるのは仕事レベルで重要なのか。
「僕と一緒にいると比較的自然体でいられるでしょ?」
「確かに」
琉希といると、変に気を遣わなくて済むんだよな。何でだろう。琉希が気を遣ってくれてるのかな?
「ほら、あーんして? お粥冷めちゃうよ」
琉希がにこにこしながら、お粥ののったスプーンを差し出してくる。改めてされると、めちゃくちゃ恥ずかしい。
私がおずおずと口を開けると、ゆっくり口にスプーンが差し込まれる。スムーズに舌の上にお粥をのせ、スプーンは引き抜かれた。どうしてこんなにスムーズにあーんができるんだろう。
琉希を見ると、すごく嬉しそうだ。念願のあーんができて嬉しいんだろう。
「人生初のあーんなのに成功したー!」
人生初でこれは確かにすごいな。琉音にやっているのかと思ってた。
「それはすごいね」
「でしょ? あーん上手かったでしょ?」
琉希はすごく得意げだ。
「うん、すごくスムーズで、琉音で経験済みなのかと思った」
「琉音は絶対にあーんさせてくれないよ」
「そうなんだ」
「杏子も普段しないでしょ?」
「そりゃ、しないよ。琉希のが初めてだよ」
「そっか、僕が初めてなんだ」
琉希は幸せいっぱいの表情だ。あーん1つでこんなに幸せそうなのはどうしてなんだろう。よく知っている人のはずなのに、まだまだ知らないことばかりみたいだ。
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