第45話
「腹が減っては戦はできぬ。まずは腹ごしらえをしよっ?」
そうして、私と琉希はショッピングモールに来て早々、フードコートに入って行った。いや、私はゆっくりのんびりお買い物デートする予定なんだけど。琉希的に、これは戦の類に入るのかな?
「あのー、私たち今日はショッピングしに来たのであって、戦はしないよ? 小学生時代の秋斗と夏紀みたいに、決闘しに行くんじゃないからね?」
「いやー、あの時は大変だったね。決闘っていうからみんなでヒヤヒヤしてたら、普通に学力競争っていう健全な戦い方で良かったよー。最初は恵実賭けてたけど、最終的に恵実関係なくなっちゃったし、2人とも同点で学年トップでめでたしめでたしだったよね。ま、僕は3位だったけど」
ちなみにその時、私は4位だったな。琉希が本気出して頑張る! って言うけど、琉希は漢字苦手だし国語とかどうすんの? って思ってたら、普通に私超えてきて軽く危機感すら感じたよ。委員長としての威厳が琉希にかき消された感があって、それ以来かなりガリ勉になってた時期あったなー。
「杏子は元が頭いいから、そんな必死にならなくても国立大くらい余裕でしょ」とか小6の分際で言いやがる琉希に腹が立ったの何のって。その前に、高校内部進級試験のが先だっつーの。私立でもトップクラスに頭いいんだぞ、私達の出身校。必死に勉強やらないと、浪人になっちゃうんだぞ? ま、琉希みたいな努力がそのまま比較的結果に現れるタイプの人間にはわからないかもだけどさ、私みたいな努力してようやく人よりちょっとだけ抜きん出るか出ないかのタイプの人間の気持ちはさ、それこそ必死なのよ。努力しても実る確証なんてどこにもないんだから。しなかったらしなかったで、絶対成績下がるのは目に見えているけど。
「あー、また杏子考え事してる。目が遠くなってるよ? 今僕たちは久々の外デート満喫中なんだから、ガリ勉時代の黒歴史は今は置いておいてよ」
その黒歴史の事の発端が目の前でニコニコしながらポテトをつまんでいる。憎めないのが悔しい。
「僕たちは過去でも未来でもなくて、今を生きてるんだよ? そうやって過去のことを悔やんでも、教訓くらいにはなるだろうけど、今を生きる方が大事なんだよ?」
そこで何故に語尾を上げる? そこは下げておきなよ、信憑性無くすぞ。
「それにしても、ミュックのポテトは最高だね。Lサイズあったら、これだけでご飯3倍はいけそうな気がするよ」
「それは太る……と言いたいところだけど、琉希はいくら食べても太らないよね? 筋肉にでもなってんの?」
「うーん、そうなのかな。ゴリマッチョでもないし、消化されずに消えてるんじゃない? 僕としては、食べた分全てが身長に反映されればいいのになって思うけど」
「私の身長、10センチあげようか?」
「わー、そうしたら僕たち同じ背丈だね! って、そうじゃなくて! そこは僕のチャームポイントだとか何とか言って、ちゃんとフォローしてよ〜」
琉希が軽く涙目になる。あ、これはやばい。地雷を踏んだやつかもしれない。身長低い男性を身長のことでいじったらダメってどこかで聞いたことあるよな、気をつけよう。
「って冗談は置いておいて。とにかく僕の身長は何か相当な手術とか治療でもしない限り伸びないだろうし、そんなこと気にしてても時間がもったいないから、とりあえずポテトとバーガー食べようよ。あとシェイクも」
ちなみに、琉希と私、2人でポテトをシェアしたりはしない。バーガーもシェアは……してみたい気もするっちゃするけど、私はミュス派で琉希はミュック派だ。きっとこれは永遠に分かり得ないだろう。両方良さはあるんだけどね。
「今、ミュックのバーガーは値段の割に具材が薄いとか無駄に味付けが濃いとか思ってるでしょ? 違うんだよ、これはテーマパーク。奇想天外な味付けのオンパレードが反響を呼ぶの! あと、店員が神対応。お上品なレストラン仕様の味付けのミュスと比べるのはナンセンスなんだよ」
琉希がもっともらしいことを言ってくる。
「ミュスはとにかく美味しいの! 万人受けなんて食の世界にはありえないって思ってたけど、絶対に期待を裏切らない、かけた時間とお値段以上の価値を提供してくれるお店なの! シェイクは濃厚だし、バーガーはあっさりしてていかにも日本人向けを意識してるの! しかも原材料全て国産だし!」
なんか悔しくて負けじと反論する。
「日本人向けって言うけど、時代はグローバルなんだよ? ちゃんと味もグローバル仕様なミュックは時代の最先端を行ってるの!」
琉希はグローバルという言葉に無駄に敏感だ。英語の成績は元から良かったもんな。
「ミュスだって、最近は店員さんに外国人雇用してるし、十分グローバルじゃない。日本人向けに作られた味だからって、他国受けしないとは限らないの! じゃなきゃ、外国の方が店員になろうなんて思わないでしょ!」
「そりゃそうだけど。とにかく、ミュックのバーガーとサイドとドリンクとスイーツは世界基準で美味しいの!」
「それ、結局はミュックは全部美味しいって言いたいんでしょ? ミュスは日本人の繊細な食のセンスに誇りを持って作ってるのよ! MADE IN JAPANを世界に発信してるの。ちゃんと海外店舗もあるし」
「とりあえず、冷めないうちに食べちゃおっか」
「それもそうね」
そうして、2人の推しバーガー店舗の論争は終了したのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます