毒舌姉さんと腹黒ショタ

今泉 叶花/宮園 れいか

第1話

「ねぇ、杏子。あのスイーツ食べてみたい! ねぇ、いいでしょ?」

「はいはい……」

 私、美原杏子は弟と散歩ーーではなく、(一応)彼氏とデートに来ている。が、実際のそれは完全に弟の面倒を見る姉になっている。何故こうなってしまったのか。


 遡るほど3ヶ月前。私は当時2ヶ月ほど会っていなかった彼氏に急に呼び出され、「別れて欲しい」と言われた。彼氏の転勤が決まって忙しくなるだろうから、迷惑をかけないようにそっとしておいた矢先の出来事だったので、正直びっくりした。思考に追いつかない頭で「理由はなに?」と尋ねたところ、転勤先で好きな子ができたとのことらしい。「へぇ、どんな子なの?」と尋ねると、可愛らしくて女の子っぽい、自分とは正反対のタイプの年下女子だった。ああ、またかと思った。その前に付き合った彼氏と別れた原因も、そんな感じの女の子に好意を寄せてしまったからだというもので。そして、「杏子は1人でも生きていけるけど、あの子は俺がいてあげないとダメなんだ」と言われ。「うん、わかった。別れよう」と働かない頭のまま別れを受け入れた。

 そんな時、何故か知らないけど幼馴染の琉希から呼び出されて、「飲みに行かない?」なんて言われた。別に断る理由もなかったけど、何となく外出する気にはなれなくて、つい「宅飲みがいい」と言ってしまった。「そうだよね、なんか杏子疲れてそうだもんね。でも僕だからいいけど、すぐに人を家に上げちゃダメだよ」と注意された。疲れてるのに気づいてるくせに別の日にしようかと言わないあたり、琉希らしい。「はーい」と適当に返事をして、2人分のお酒を買った。私が好きなシャンパンと琉希が好きなワイン。実は琉希がいる時しかお酒は飲んだことがない。今回は若干値が張ってしまったけど、失恋してすぐだから仕方ないと言い訳する。だって、本当に好きだったのだ。

「お久しぶり、杏子ー!」

「うん、会うのは久しぶりだね……」

 何故かいつもより元気な琉希と、いつも以上に元気のない私。久しぶり、なんて言ってくるけど、ほぼ毎日のようにメールしてるし、週に3回は電話かけてくるじゃん。連絡頻度だけで見たら、何も知らない人からすると、私の彼氏は琉希のように映ってしまう。いや、恋愛感情なんてお互いに全然ないんだけど。っていうか、琉希、好きな人いるって言ってたのに、のこのこと女と飲みに行っていいのか? 君のその判断は合ってるのか? 好きな子に嫌われても知らんぞ?

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