第10話

「で、どうしたの。琉希にプロポーズでもされた?」

 カフェでケーキと紅茶を嗜みながら単刀直入に訊ねると、杏子はむせかえった。目が左右に動いている。図星だったか。めちゃくちゃ動揺してるじゃない。

「杏子にずっとそばにいてほしい、僕はずっとそばにいたいみたいなことを言われた……」

 杏子は俯いたまま、蚊の鳴くような声でそう答えた。

「そっか。それで琉希も杏子もなんか最近調子おかしかったのか」

 へぇ、計算高い兄でもそんなストレートなプロポーズするんだ。なんか意外だなと思いながら、杏子の反応を待つ。

「ねぇ、これってプロポーズなのかな? それとも、風邪で弱ってて私に母親を重ねちゃったとかいうよくあるパターン?」

 それからしばらく沈黙があって、その後杏子はそわそわしつつも重い口を開いた。

「プロポーズだと私は思うけど。だって、この間ダイヤの指輪買ってたよ? いつか杏子にプロポーズするんだって張り切ってた。めちゃくちゃ幸せそうだったなあ」

 兄が杏子と付き合い始めてから一週間後、照れた様子でダイヤの指輪を自慢げに私に見せてきた。すごくグレードの高い綺麗なダイヤなんだ、絶対杏子に似合うように特注して作ってもらったんだと笑いながら。それを踏まえると、やっぱりプロポーズの可能性が高い。

「いつそれを言われたの?」

 訊いてみると気まずそうに「琉希が熱を出して寝込んだ日……」と返事が返ってくる。

 え、タイミング悪すぎでしょ。それじゃ指輪も渡せないじゃん。もしかして、弱っててつい本音が出てしまったのかな。まさかとは思うけど計算だとしたらめちゃくちゃ腹黒いぞ? 完全に杏子の責任感強い性格を利用してるじゃん。

 琉希のバカ。プロポーズのシチュエーションはめちゃくちゃ大事なのに。そんなんじゃ、わかりにくいよ。

「ねぇ、私どうしよう。私、そんなのわからないって言っちゃった。関係性がダメになるくらいなら、いつも別れることを念頭に置いてるみたいなことを言っちゃった」

 杏子が取り乱し、泣き始めた。あのしっかり者の杏子でも泣くんだ、と思いながら、え、これはもしかして、と思う。

 お兄ちゃん、これはきっと脈ありだよ。よかったね。

 心の中でここにはいない兄に語りかける。私は杏子にバレない程度に胸を撫で下ろした。

「杏子は琉希のこと、どう思ってるの?」

 答えはほぼ明確だけど、一応聞いてみる。

「いい人だと思う。一緒にいて安心する。何でも話せる」

 杏子がぽつりぽつりと呟く。もうこれは脈あり確定じゃん。

「でも、恋愛対象としては見られない。大事な人だとは思うけど」

 あー、そうだった。杏子は自分の感情にすごく鈍感な人だった。え、どうしよう。この場合どうすればいいの? やっぱりお兄ちゃんも同席させればよかったな。



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