第11話
風邪を引いて杏子に本音を言ってしまってから、一ヶ月が経った。あの直後、杏子から会えないかという連絡があったけど、仕事が忙しいを言い訳にして断っている。事実、仕事が忙しい。でも、普段の僕なら杏子に会うためなら定時上がりできるレベルの量だ。
本音は、杏子に会うのが怖い。いや、会いたいけど。会いたいんだけど。会って、杏子に別れを告げられるのが怖い。大体、僕と杏子の気持ちに差がありすぎる。これはいつ振られてもおかしくない状況だ。
そうこうしているうちに、妹の琉音に杏子から連絡が来たらしい。
「杏子と会ってお茶するんだけど、琉希も来る?」
そう訊かれたけど、断った。気まずい、気まずすぎる。どんな顔をして会えばいいんだろう。この前のは弱ってただけだから、気にしないでと言えば、万事解決するかもしれない。でも、それも嫌だった。杏子への想いをなかったことにしたくなかった。できればちゃんと関係性を進めて、買ったダイヤのリングを差し出してプロポーズすれば良かった。僕は馬鹿だ。風邪を引いているなら、別に杏子でなくても、琉音でも夏紀でもよかったのに。でも、どうしても杏子に会いたかった。やっぱり、弱ってる時に会ったりなんてするんじゃなかった。
「本当に来なくていいのね?」
琉音が念を押すように、当日の朝尋ねてきた。「行かない。2人で楽しくお茶してきなよ」
本当は行きたかった。杏子に会いたかった。でも、今の僕じゃダメなんだ。ちゃんと、杏子に振り向いてもらえる僕じゃなきゃ、会っちゃいけないんだ。
僕は携帯を耳から離し、溜息をついた。
僕が杏子の理想の男だったらな。そうしたら、もっと自信を持って付き合えるのに。
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