第42話
「こんな男の子にときめいてるなんて、僕じゃときめきが足りないってこと?」
琉希は笑顔で私に迫ってくるけど、目の奥が笑っていない。
逃げる私と迫り来る琉希。気づいた頃には、壁際に追い詰められていた。
そして、そのまま壁に手をつく。え、これっていわゆる壁ドンってやつ? 琉希が真剣な眼差しで私を見つめる。顔、整ってるな。いつも意識してなかったけど、改めて見ると、すごく綺麗。まつ毛長くてうらやましい。
「わかった。これから僕が、アイドルにハマっても僕のこと忘れられないくらい、僕にときめかせてあげる」
琉希はそう言って私を抱きしめ、キスをした。優しい、優しいキスを何度も繰り返す。そんなことしなくても、十分ときめいてるのに。ドキドキが止まらなくて、むしろ困っているくらいなのに。
「あ、るき……」
思わず甘い声が出る。こんなの私らしくない。
「どうしたの? 僕の可愛いお嫁さん。そんな甘い声出して、もしかして誘ってるの?」
「ち、ちが……」
否定しようとしたところをキスで塞がれる。
「あ、るき。ダメ。私、なんか最近おかしいの。琉希のこと考えると、ドキドキして、動悸が止まらないの。居ても立っても居られなくなるの。ずっとそばにいて抱きしめてほしいとか、思っちゃうの。私、どんどん自分が自分でなくなっちゃう気がして怖いの。こんな私、琉希に愛想尽かされちゃうんじゃないかって、不安なの……」
甘い甘いキスがようやく止んで、私は恥ずかしいのを堪えて白状した。呆れられたかな、そんなことを思って怖いもの見たさで琉希の顔を見上げると、そこには顔を赤らめた琉希の顔があった。
「杏子、可愛すぎる。今の反則だよ」
そう言って、またキスを続ける。今度は深いキスだ。舌が絡まって、私を抱きしめる腕にも力がこもる。呆れられてないみたいで、よかった。琉希とキス、たくさんできて幸せだな。このままじゃ、琉希のキスなしでは生きていけなくなるかも。
「もっとときめいていいんだよ。僕のことたくさん考えて、ドキドキして? 杏子が不安になったら、僕がたくさん抱きしめてキスして、そんな不安、忘れさせてあげる。だから、もっと僕に夢中になって」
琉希がそう言葉を紡いで微笑む。身体の触れている部分から、心臓の高鳴りが伝わってくる。ああ、ドキドキしてるのは私だけじゃないんだとほっとした。
「言っておくけど、僕の方が杏子のこと好きすぎて大変なんだからね? どうしたら杏子に振り向いてもらえるかって考えて、メール打ったり電話したり。でも、それだけじゃ足りなくて。早く会いたくて、ハグもキスもしたくて。早くもっと先に進みたくて、でも杏子のこと大事にしたくて。頭の中、いつもごちゃごちゃなのをどうにかしてるんだから。だから、杏子も同じくらい、僕のこと考えて。僕に心を独占させてよ」
琉希は幸せで蕩けたような表情で片手で私を抱きしめ、片手で私の髪を透きながらそう言った。そっか、そんなに私のこと考えてくれてるんだ。私って、幸せ者なんだな。
「今日はいつもよりたくさん、杏子を感じていたい。久しぶりに一晩中、ぎゅってしてるから。ねぇ、いいでしょ?」
「うん。私も琉希にたくさんぎゅってしてほしい……」
お酒も飲んでないのに、素直な言葉が口を伝って溢れてくる。これから、たくさん琉希の前で素直になれるといいな。
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