第41話

 なんだか杏子は最近変だ。いつもなら割とすぐ来る返信もなかなか来ないし、電話をしている時も少し上の空だ。結婚して1ヶ月経つのだから、そろそろ進展があってもいいんじゃないかなと期待しているのに。もっとドキドキしてくれてもいいんじゃないかなってほど、そっけない。え、僕結婚してからも片想いなのかな? でもたくさんキスしたよね? 覚悟するように努めるって言ってたよね? なのに最近のこの温度差——何があったんだろう。

 その週末、その原因が発覚した。

「ねぇ、杏子。今日も遊びに行くね」

 杏子の家に向かう前に、念のためメールを打っておく。いきなり行くと怒るんだよなあ。まあ、年頃の乙女だしそんなものかな。

 道中、スーパーに寄って2人で食べる食材を買いに行く。それからいつも飲んでいるお酒も。その間、何回もメールを開くけど、返信はない。またかー。メールが来てることには気づいてるのかな。

「ピーンポーン」

 インターホンを鳴らした。

「はい」と杏子の声が聞こえる。ガチャリと鍵を開ける音がして、ドアが開いた。

「やっほー、杏子。待った? メールの返信ないからどうしてるのか心配になっちゃった」

 僕はそう言って、杏子を見上げる。立った時は杏子の方が高いのはちょっと悲しいけど、少しでも杏子の目にかっこよく映ってるといいなあ。そんなことを思っていると、杏子は何かを振り払うかのように頭を左右に振り出した。あー、もう可愛すぎる。

「どうしたの、杏子。いきなり頭をぶんぶん振ったりして。僕のお嫁さんは今日も可愛いなあ。ねぇ、中入っていいよね? なんか声がするけど誰かいるのかなあ」

 部屋からわずかに聞こえてくる男性の声がすごく気になる。まさか部屋に僕以外の男性上げてたりしないよね? 杏子の返事を待たぬまま、僕は手洗いうがいをしてリビングに入った。そして、それを見て、思わずいつもより明らかに低い「え?」という声を発してしまった。

「ねぇ、杏子。この動画、何? この人たち、誰……?」

 僕は強張った顔を杏子に向ける。

 杏子は不思議そうに動画が再生されている自分の携帯を見ると、画面に吸い寄せられるようにその前に座った。動画の内容は、胸キュン台詞大会。巷で人気上昇中のアイドルグループ・「キラキラ⭐︎王子」の中の、誰が一番胸キュンなセリフを言えるかを競う動画だ。

「雪くん……」

 そして、今は長身のイケメンが映っている。画面の下の方に如月雪という名前と台詞のテロップが出ている。杏子は僕そっちのけで、動画に釘付けだ。

「雪くん、かっこいいなあ……」

 蕩けるようなその一言で、僕の中の何かが弾けた。杏子の携帯の動画アプリを閉じる。

「あーんーずー?」

 僕は作り笑顔で、杏子に呼びかけた。

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