第40話
琉希と入籍して1ヶ月。生活サイクルにまだ変化はさほどないけれど、週一で遊びに来る琉希に結婚前よりドキドキしてしまい、これではいけない! と思った。何がいけないのかというと具体的な説明は難しいのだけれど、自分の感情を自分でコントロールできない状況に危機感を感じてしまった。そこで、私は好きになれそうな男性アイドルを探すことにした。たくさんのアイドルを調べたところ、「キラキラ⭐︎王子」というアイドルユニットに出てくる如月雪くんというアイドルがなんとなく好みで、時間さえあれば動画を見たり、CDショップや本屋さんで彼が出演しているCDや雑誌を買ったりした。
そんなある日の週末、事件は起きた。
「ねぇ、杏子。今日も遊びに行くね」
琉希からメールが来て、心臓がドキンと跳ね上がる。まずい、これじゃダメだ。よし、雪くんを見よう。私は携帯の動画アプリで如月雪と検索して、彼の食レポ動画を発見した。よし、琉希が来るまでこれを見て心を落ち着けよう。
雪くんが美味しそうにオムライスを頬張る。いつも食べている王道のケチャップ味にするかと思ったけど、この時はデミグラスの気分だったみたい。食後のデザートは苺&チョコレートパフェだ。あ、これ、キラキラ⭐︎王子がチェーン店とコラボしてるやつ。今度行って食べてみよう。苺パフェもチョコレートパフェもだいたいのお店には存在するけど、この2つを組み合わせたパフェって実はあんまりないんだよね。しかも、トッピングの苺はスカイベリー。え、贅沢! いいな、私も食べてみたい。
「ピーンポーン」
呼び鈴が鳴った。琉希が来たみたいだ。すぐだし、後で巻き戻しして見ればいいよね? そう思って、携帯をそのままにしてしまったのが間違いだった。
「やっほー、杏子。待った? メールの返信ないからどうしてるのか心配になっちゃった」
琉希はそう言って、少し拗ねたように私を見上げる。立った時の身長は私の方が高いから、正直言って上目遣いだ。無自覚なのか自覚済みなのかは知らないけど、あざとい。こうすれば、自分が一番かっこ可愛く見えるアングルだって熟知してるのかな、恐るべき。でも、そのあざとさすら愛おしく思えてきて、ダメだと頭を左右に振る。
「どうしたの、杏子。いきなり頭をぶんぶん振ったりして。僕のお嫁さんは今日も可愛いなあ。ねぇ、中入っていいよね? なんか声がするけど誰かいるのかなあ」
私の返事を待たぬまま、琉希は手洗いうがいをしてリビングに入った。そして、いつもより明らかに低い「え?」という声が聞こえる。
「ねぇ、杏子。この動画、何? この人たち、誰……?」
琉希が強張った表情で私を見つめた。
ん? と思って携帯を見ると、さっきの動画は終わり、自動再生で次の動画が流れていた。内容は、胸キュン台詞大会。キラキラ⭐︎王子の中の誰が一番胸キュンなセリフを言えるか競う動画だ。
「雪くん……」
そして、今は雪くんのターン。琉希そっちのけで、動画に釘付けになる。
「雪くん、かっこいいなあ……」
琉希の時とは違う胸のときめきに浸っていると、何者かによっていきなり動画アプリが閉ざされた。何者か、といっても部屋には私と琉希しかいないわけで。
「あーんーずー?」
久しぶりに不機嫌そうな琉希の声に、私は身を固くして、ゆっくり振り返った。
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