第39話

 入籍してからというもの、僕はすごく上機嫌だ。これで杏子を他の男に取られる心配はないし、杏子は僕を今まで以上に意識してくれるだろう。

「あーんずっ。また何か悩んでるね? 今度はどうしたの?」

 杏子はまた悩んでいる。声をかけると、頬をほんのり染めて僕を見る。どうしよう、めちゃくちゃ可愛い。

「……」

「夫婦の話し合いは大事だよ?」

 にこにこして杏子に詰め寄る。婚姻届を出してから、「夫婦」ってワードを何かと多用するようにしている。嬉しくて使ってるのもそうだけど、杏子に関係が進展していることを意識して欲しいんだ。

「私たち、結婚したんだよね。結婚したってことは、一緒に住んだり、結婚式あげたり、夫婦、の営み、したりだとか色々、今までとは変わってくるのかなって思うと、なんか心配になっちゃって……」

 後半、恥ずかしくなったのか赤い顔でうつむいて、早口で喋っているのがまた可愛い。可愛すぎる姿にちょっとした加虐心が湧いてくる。

「へぇ、結婚したって自覚はあるんだ。じゃあ、もう少ししたら一緒に住みたいなあ。あ、もちろん寝室は同じ部屋でベッドは一緒だからね?」

 一緒に住むようになったら、寝室が同室とベッドが同じはどうしても譲れない。毎日眠るひと時ぐらい、杏子を独占していたい。

「えっと、それはつまり、琉希は私とそういう風になりたいってこと? 今よりいちゃいちゃしたい?」

 杏子が座ったまま、立っている僕を見上げる。構図から、自然と上目遣いになっていて、それがまた僕の心を刺激する。あー、可愛いな。

「あたりまえじゃん。僕、これでも抑えてる方だよ? 本当はもっと杏子のこと独占したいし、いちゃいちゃしたい。僕しか知らない杏子をたくさん見たいし、いつかは子供だって欲しい」

 頭の中がフリーズしたのか、杏子が僕の顔を見上げたまま、赤くなって固まる。無自覚に潤んでいる瞳が綺麗だ。僕以外にそういう姿、見せないで欲しい。

「子供、ほしいの……?」

 杏子が心なしか、ちょっと甘えたような口調でそう訊ねてくる。

「今すぐにじゃないよ。今は、2人きりの時間を思い切り満喫したい。でも、いつかは杏子に、僕と杏子の子を産んで欲しいなって思ってるよ、僕の我儘だけど」

 杏子はちょっとほっとしたように、「そっか、すぐじゃないんだ、よかった」と胸を撫で下ろす。

「でも、いちゃいちゃはちゃんとするからね? 避妊するように気をつけながら、いちゃいちゃはたくさんするつもりでいるから、ちゃんと覚悟してよ」

 誤解されるのは嫌なのでそう告げると、杏子は「はい、覚悟するように努めます……」と今までにないほど赤くなって小さな声でそう言った。杏子、本当にこういう話に耐性ないよね。まあ、僕も杏子にするのが初めてだけどさ。

「だけど、私、初めてだから上手くできるかな……?」杏子が不安そうにそう言うので、「僕も初めてなんだから、お互い様だしそんな1人で責任を負おうとしないでよ。2人で少しずつ乗り越えていこ?」と彼女の背中をさすりながら、そう言った。杏子は安心したのか、はにかんだ表情を見せる。ああ、可愛すぎる。早く一緒に住みたいなあ。

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