第67話 番外編〜会社での水間琉希③〜

「あら、あなた見ない顔ですね。そういえば、水間主任が今日は愛しのお嫁さんが迎えに来てくれるって言ってましたけど、まさかあなたじゃないでしょうね?」

「なあ、お姉さん綺麗じゃないか。俺と2人きりで飲みに行かないか?」

 琉希を探してきょろきょろしていると、2つの勢力に声をかけられた。ちなみに前者は私が天女様じゃなきゃ許すまじと言っていた女だ。そして、仕事後に左手の薬指に指輪をし忘れていたのが災いしてしまったのか、ちょっとナルシストっぽい男にも声をかけられた。それを遠巻きにちらちらと見る女性の集団と男性の集団が内輪同士で囁き合っている。

「すみません、私既婚者なので」

 そう言って、しまっていた指輪を左手の薬指に通して男に見せた。

「あ? そう言って実は見せかけの指輪なんじゃないか?」

「待って、佐藤。これは水間主任が着けている指輪のペアよ。あなた、まさか旦那さんって、水間主任なの? あなたがアンズさんなの?」

 凄んでくる男が、女性の凄みに対して劣っているようにも見える。うわ、この女性、かなり激烈なファンだ。確かにこの結婚指輪は2人で買いに行ったものでペアだけど、女性のには控えめなダイヤが入っているし、よくよく見ないとわからないやつなのでは。琉希のファン、恐るべき。

「申し遅れました、私、水間杏子と申します。いつも会社で主人がお世話になっております」

「いや、面倒見てもらってるのはこっちの方ですけど。なんかイメージと違うような。1人で生きていけそうってよく男に言われませんでした?」

 この女、初対面なのになかなか鋭いところに突っ込んでくるな。実際そう言われて振られてきただけに、ちょっと心が沈む。

「あなたのおっしゃる通り、元彼にはそう言われてきました」

「言われてきましたってことは、元カレは1人じゃなさそうね。一体何人と付き合って……」

「杏子、お待たせー。ごめんね、残業で遅くなっちゃった。2人とも、僕のお嫁さんに失礼なことはしてないよね?」

 本当にちょうどいいタイミングで琉希が向こうから走ってきて、私と2人との間に立ちはだかった。見慣れた低身長がいつもより少しだけ強く見える気がする。ちなみに、黒いオーラも見える気がする。

「わ、私はそんなたいしたこと……」

「俺もしてねぇよ」

 2人は縮こまって、無事に退散してくれた。

「さあ、早く帰ろうか」

 琉希は私の手を繋いで、笑顔で駆け出した。

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