第66話 番外編〜会社での水間琉希②〜

 仕事が終わったら僕の会社まで来てね、とメールを打ったその日、僕は浮き足立っていた。何せ、お嫁さんが職場に来るのだ。僕の自慢のお嫁さんをみんなに披露できる。そんなことを考えながら帰り支度をしてると、下に用事があったはずの間近係長が、僕の目の前にいた。

「琉希、嫁さん来てるんだが」

「はい、僕が呼びました」

「お前、自分が何してるかわかってるか? こんなところに嫁さん1人で来させるなんて、危険すぎるだろう。もう少し自覚をしろ」

 自覚って何の自覚だろう。家庭を持つ男たる者、嫁さんを守らなくて何を守る的な? いや、確かに杏子を守りたいとは思うけど、結構彼女はやり手だから、僕がいない時でもちゃんと対処できると思うんだけどな。むしろ対処出来すぎて、元彼たちが離れていった過去があるくらいに。

 僕がぼんやりそんなことを考えていると、間近係長は「早く行かないと、お前のファンたちに囲まれて、もみくちゃにされるぞ」となかなか恐ろしいことを言ってきた。いや、ファンって僕は公認してないんだけど。

「杏子なら、きっと上手く交わしますよ」

「それにあんな美人、男が放っておかないぞ。それにさっき確認したら、薬指に指輪してなかったぞ?」

 杏子は仕事中に時々薬指から指輪を外す。仕事が終わってからも、するのを忘れて帰ってくることもある。それが原因なのか、この前は帰りに酔っ払いの男に絡まれたとぼやいていた。

「すぐに片付けて向います!」

 相手が女なら杏子1人で対処できるだろうが、男の前に杏子を1人放り出してはおけない。

 僕はパソコンをシャットアウトし、資料をしまって玄関へと急いだ。

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