第68話 番外編〜会社での水間琉希④〜
「あんな場、1人でも乗り切れたのに」
金曜日だったのでお酒を飲みながらそう愚痴る杏子。
「とか言って、内心心細かったんじゃない?」
言ってみると、杏子の肩がわずかに震えた。どうやら、なんだかんだで図星だったようだ。
杏子の元彼は僕の前に3人。僕は杏子の4人目として付き合った。でも、そんな話できればあまり聞きたくない。杏子に詰め寄る後輩の声を聞いて、身体が勝手に動いていた。杏子と詰め寄る2人の間に立ちはだかると、あっという間に杏子の手を掴んでいた。
「琉希って時々鋭いよね」
杏子がため息まじりに呟く。
「杏子への特別な愛情だと思ってほしいんだけど」
「誰に対してもそうなんじゃないの?」
杏子が不思議そうに聞いてくるので、「杏子へは特別だよ」と返した。
「ちなみにだけど、僕が現れなかったら、杏子は元彼の話してたの?」
「まあ、相手の個人情報伏せてぐらいは」
「杏子は素直すぎるんだよ。そこが魅力的でもあるんだけどさ」
どうやら僕のとっさの身体はそれを予期して行動していたらしい。っていうか、杏子はどこまでもまっすぐで混ざり気のない人だ。見ていて少し危なっかしい。
「そうかな?」
「そうだよ。答えたくない質問なんて、交わしちゃえばいい」
「琉希はその点、要領がいいよね」
「まあ、得意っちゃ得意だね」
「いいな、羨ましい」
「杏子に羨ましがられるなんて光栄です」
僕が微笑むと、杏子もつられたのか笑顔になる。本当に素直な人だ。
「それから、結婚指輪は定期的につけているかチェックするからね。ほんといつもヒヤヒヤしてるんだから」
「それは反省してます……」
杏子が反省してくれたので、僕は彼女を思い切り抱きしめた。
「絶対他の男になんか渡さないから。覚えておいたよね」
「肝に銘じておきます」
彼女はそう言って、慣れない手つきで腕を僕の背中に回す。
その後は、なんだか杏子がいつもより甘えてくれて嬉しかった。
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