第13話

 琉希と飲むのは久しぶりだ。琉希が杏子と付き合い始めてから、電話やメールはするものの、せっかく2人で過ごせる時間を邪魔するのは悪いなと思って直接会うのは控えていた。

 1週間前、琉希から電話が来た。いつもより声にハリがなく、一瞬で杏子と何かあったんだなと思った。

 駅で待ち合わせた時、向こうから走ってきた琉希の笑顔に違和感があった。目の下に隈が出来ている。居酒屋に行くまで、琉希とたわいもない話をした。仕事がどうだとか、生活がどうとか。いつもなら真っ先に杏子の話を振ってくるくせに、今日は一向に杏子の話題が出てこない。その点にも違和感を覚え、さりげなく俺の彼女である乃亜の話から、やや強引に琉希の彼女である杏子に話をスライドさせた。杏子の名前が飛び出した瞬間、琉希はびくっとして一瞬固まり、「うーん、元気そうだよ」とだけ答えて、すぐに今日の居酒屋のことに話を切り替えた。明らかにおかしかった。


「で、本題はなんだ?」

 ずっと世間話を繰り広げ、杏子の話題を避け続ける琉希に痺れを切らし、単刀直入に尋ねた。しばしの沈黙が訪れる。

「まあ、俺を呼び出すってことは杏子のことで悩みでもあるんだろ」

 琉希の気持ちを代弁したかのように尋ねると、「どうして、わかったの?」と微かに震えた声で琉希は訊いてきた。そんなのわかるに決まってるだろ、何年の付き合いだと思ってるんだよ。

 琉希の話を要約すると以下になる。付き合い始めたはいいものの、付き合う前と関係性は大して変わらなくて、時々彼氏彼女だなと思うことはあるが、少しずつ不安が溜まっていた。そんな時、風邪をひいて弱っていたこともあってか、杏子に「ずっと僕と一緒にいてくれる? 僕は杏子とずっと一緒にいたいんだけど」と不意にプロポーズしてしまった。それに対して杏子は「そんなのわからないよ。一緒にいてダメになる関係性ならいつでも交際終了を視野に入れている」と言われ、そのまま帰ってしまったのだそうだ。それから杏子から何度も会えないかと連絡が来たそうだが、気まずくて仕事を理由に会うのを控えているとのこと。別れを切り出されたらどうしよう、と動揺を隠しきれていない琉希に俺は、こう伝えた。

「杏子が会いたいって言ってるんだろう? 今時、メールや電話で別れ話を切り出すカップルが多いそうだ。その点、杏子は琉希に会いたがっている。杏子のことが好きなら、複雑に考えずに会ってやればいいんじゃないのか?」

 そう伝えると、琉希は「それはわかっているけど、自信がないんだ。僕は杏子のタイプの男性じゃないから」と返答した。ああ、そうだった。こいつは杏子と自分のことになると極端に自信を持てない奴だったな。そのことを思い出して、俺は琉音にメールを打った。何とかして、杏子と琉希が会う機会を作って欲しいと。2人で話すきっかけを与えて欲しいと。

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