第5話
杏子と付き合えたのは奇跡中の奇跡だと思う。杏子が僕のことを幼馴染で弟みたいな存在としか認識していないのは重々わかってるし、それは今も正直あんまり変わらない。
それでも風邪をひいた時にこうして駆けつけてくれてること自体は昔とは変わらないけど、それでもふとした瞬間にやっと恋人になれたんだなと実感する。
目を開けると、ベッドの隣には杏子がいた。時計を見ると、5時を回っている。
「杏子、ずっといてくれたの?」
目を擦りながら訊ねると、「そりゃ、元気ないのなんて珍しいから心配するでしょ」と不思議そうに返された。特に照れた様子もないけれど、心配してくれたのと目が覚めるまで側にいてくれたのは嬉しい。
「おかゆ作ったけど、食べる?」
「うん」
「じゃあ準備してくるから、その間に熱測っておいてね」
「うん」
熱を測ると、37.2℃だった。だいぶ下がったけど、それでもやっぱり微熱はあるみたいだ。
「それで、何があったのよ。琉希が風邪引くなんて、珍しいじゃない」
「ねぇ、杏子はずっと僕と一緒にいてくれる?」
杏子にそう聞かれて、ぽろっと口からこぼれた言葉はそれだった。
「急にどうしたの?」
「僕は杏子とずっと一緒にいたいんだけど」
またしても転げ落ちた言葉はそんなものだった。ぼんやりした頭でもわかる。これは絶対に今みたいな状況でする話じゃない。
杏子はびくっと肩を震わせて、「そんなの、わからないよ」と呟いた。
「琉希にとっても私にとっても、一緒にいることがよくない方向に働くなら、一緒にいるべきじゃないでしょ? 私はいつもそうなったら別れるのを頭の片隅に置いてるよ」
「じゃあ、帰るから。安静にしててね。また何かあったら電話かメールすること。いい?」
杏子はそれだけ言い残して、俯きながらさっさと帰ってしまった。
ああ、言ってしまった。困らせてしまった。そんなつもりじゃなかったのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます