第70話

「捨てる神あれば拾う神もあるんだから、杏子も拾われる恋愛すればいいよ」

 失恋する度に女友達に言われた、あの言葉。そんな都合のいい神様なんているの? と何度も思った。琉希にもめっちゃ愚痴った。その度に「杏子はこんなにいい女なのに、気づかないなんて可哀想な男だね」と頭をさすってくれた。

「そんな都合のいい神様なんて、絶対いないよ」

「絶対いるよ、僕が保証する」

 琉希はちょっと切なそうな笑顔でそう言ってまた私の頭をなでた。

「ねえ、本当にいなかったらどうするの?」

「本当にいるよ」

 琉希は今度は真剣な眼差しでそう言った。

「じゃあさ、どうすれば出会えるの?」

「それは杏子のことを捨てる神を杏子が捨てた時だよ」

 ますます意味がわからない。


「杏子ー、どうしたの?」

 琉希がパジャマ姿で不思議そうに私を見つめた。

「ちょっと懐かしい夢見てた」

「そっか。そこに僕はいた?」

「うん、いたよ」

「それならよかった」

 琉希は幸せそうにふにゃりと笑った。私を拾った神は今日も幸せそうだ。

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