第48話 モブ大将と新たなお供

「まってくれよ大将」


 ギルドを早足に出た俺の後ろから野太い声が追いかけてくる。


「……」

「無視することねぇじゃねかよぉ」


 声の主はディワゴだ。


「出来れば付いてこないで欲しいんだけど?」


 俺は振り返りもせずにそう応えると足を進める。

 しかしドスドスとした足音は着いてくるのを辞めない。


『話はもう終わったんじゃないんですか?』


 イネッスの話を聞き終わって部屋を出ようとした俺は、彼女の呼び止める声に足を止めた。

 思えばあのまま帰れば良かったのかもしれないが、王都のギルドマスターである彼女を無視するわけにもいかず。


『貴方はこのあと勇者様とすぐに合流なさいますか? それともまだ一人で行動なさるおつもりでしょうか?』

『そうですね。まだやることが残っているんで今日一日は一人で行動するつもりですけど』

『やはり。でしたら私から一つご提案……というよりお願いがあるのです』


 現在、この王都は貴族が集められているために国民には知らされていないものの厳戒態勢だ。

 つまりここで何かしら怪しいと目を付けられると、最悪そのまま牢屋に暫くご厄介になる羽目に陥るかもしれないとイネッスは言う。


『なるべく目立たないように行動しますよ』

『それは難しいでしょうね。既に貴方はこのギルドで望まなかったにしても騒ぎをおこしてしまってますから。その情報が各所に送られていると考えて間違いないでしょう』


 とんだとばっちりである。

 しかし彼女の言うことももっともだ。

 ディワゴに喧嘩を売られた場面はギルドの中にいた数多くの冒険者に見られている。

 そしてどうやらディワゴはこの王都ギルドではそれなりに名の知られた冒険者で、本当かどうかは疑わしいが普段ならあんな因縁の付け方はしないらしい。

 そんな違和感ある行動が厳戒態勢を引かれている各所に届かないはずがないとイネッスは言った。


『ですので勇者様と合流なされるまでの間だけで構いませんので、ディワゴを貴方に付けさせて貰おうと思うのです』

『はぁ!? あのおっさんと一緒に行動しろと言うんですか?』

『はい。あの男はああ見えて王都では顔が利きますので、一緒に行動をしていれば警備の者などから疑われることもなくなりますよ』


 別に警備に捕まったところで今の俺なら王都の結界内であっても抜け出せる自信はある。

 そもそも追いかけられても普通の兵士では俺を捕まえることも出来ないだろう。


 しかし揉めごとを起して騒ぎになることを考えればディワゴ一人を連れ歩くだけでそれが避けられるのなら良い提案かもしれない。

 問題はあの筋肉ダルマと一緒に王都デートは気が乗らないということくらいか。


『いかがですか?』

『……わかりました。ディワゴと一緒に行動することにします』

『よかった。それでは早速ディワゴを呼びましょう』


 俺の返事にイネッスが扉に向かおうとする。


『その前に自分からもお願いがあるんですが』

『何でしょう』


 俺はイネッスにディワゴをお供にするための条件をいくつか伝えた。

 いくら一緒にいた方が王都を自由に動けると言われても、あの目立つ大男を連れて行くのは難しい場所もある。

 なので俺の指示には絶対に従うことを一番の条件とした。


「まぁその条件は早速破られているわけだが……」


 俺は溜息をつくと後ろを振り返ってもう一度だけ指示を口にした。


「俺のことを『大将』って呼ぶのはやめてくれって言ったろ!」

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