第31話 モブは勇者にパーティ申請する
「うわぁ。綺麗!」
「森の中にこんな泉があるなんて」
秘密の通路を通ってたどり着いた泉は、ちょうど真上に月がくる時間と重なったことで一種幻想的な光に包まれていた。
この景色なら『聖なる泉』と読んでもなんら違和感がないだろう。
「この泉の水を飲むと疲れもなくなるし怪我も治るって行ったら信じるかい?」
俺は光に浮ぶ泉の姿に見とれている二人に向かってそう尋ねる。
「信じる! 信じちゃうよ!」
「僕も信じるよ。昔、ハシク村の冒険者から似たような話を聞いたこともあるし」
ドラファンのゲーム内でも回復の泉というものは複数存在していた。
大抵はダンジョンのボス戦前フロアとかだが、たぶん現実となったこの世界にも同じように存在してるに違いない。
「飲んでみても良いかな?」
ミラは泉に近づくと、その畔にしゃがみ込む。
「……そうだな。たぶん……大丈夫なはず……うん」
「?」
コックルのエキスが染みこんだ泉の水を俺は素直に飲んで良いとは言えない。
たぶん、間違い無くそのエキスは泉の水に浄化されて欠片も残ってはいないだろうが。
「わーい! いっただきまーすっ!」
俺の煮え切らない返事に首を傾げるミラの横で、リベラはなんの迷いもなく両手で水を掬うと、一気にそれを喉に流し込んだ。
いくら聖女の力で腹が痛くなってもすぐに治せるとはいえ無防備すぎる。
「おいしいっ。ミラも早く飲んでみなよ」
「そうだね。じゃあ」
リベラに急かされてミラも泉の水を口にする。
とたん彼女の目が見開かれた。
もしかしてエキスに気がついてしまったか?
「凄い! 凄いよこの水!」
「お?」
「飲んだとたんに体中から疲れがすーっと消えちゃったよ」
どうやら俺の心配は杞憂だったらしい。
よかった。
コックルのエキスなんて泉の中にはもうなかったんだ。
「アーディはいつもこの水を飲んでるんだよね? もしかしてそのおかげで強くなったとか?」
「いや、俺が強くなったのはその水じゃなくて――」
このままだと俺も泉の水を飲まされるかもしれない。
そう思った俺はミラの質問をこれ幸いと例の罠の方へ向かう。
そして被せてある布の中から、カサカサカサという音が聞こえるのを確認して二人に振り返る。
「この布の中のヤツを倒し続けたからだよ」
ぽんぽんと籠の上を叩きながらそう言うと、中のコックルがその振動で激しく動き出し、気持ち悪い振動が手に伝わって来た。
どれだけ繰り返してもこの感触だけは生理的に受け付けない。
「もしかしてその中に……アレがいるのかい?」
とたんに表情をこわばらせるミラ。
「やっぱりミラはコイツが苦手なんだろ?」
「ま、まぁ好きではない……かな」
好きな奴がいたら絶滅危惧種だよ。
そう思いつつ俺はミラに俺は一つ提案をしてみることにした。
「実はこの中のアレを倒さなくても強くなれるかもしれない方法があると言ったら試したいか?」
「えっ、そんな方法があるのかい?」
ミラの目があからさまに輝く。
「あくまで『かもしれない』だ。出来るかどうかは俺にも解らない」
「でも可能性はあるってことだよね? だったら」
「はいはーい! 私はゴッキーとか平気だよ」
前のめりなミラの横でリベラが手を上げて飛び跳ねる。
「リベラにももちろん手伝って貰うつもりだ」
「やったー!」
「そ、それでその方法ってどうすればいいんだい?」
俺は対照的な二人を制すると、その方法を口にした。
「まず俺たち三人でパーティーを組むんだ」
「パーティ?」
「冒険者の人たちみたいだね」
そう。
俺の考えた方法とはゲームと同じようにパーティを組むことで、誰が魔物を倒しても全員に経験値が平等に与えられるようにするということだった。
といっても現実となったこの世界で、ゲームと同じように経験値が分配されるかはやってみないとわからない。
「でもどうすればパーティが組めるのか俺は知らないんだよ」
ゲームでは自動的に仲間になったり外れたりパーティは組み替えられていくようになっていた。
だからもしかするとミラが俺たちを『パーティメンバーだ』と宣言するだけでいいのかもしれないが確信は持てない。
「冒険者ギルドの仕事もしてるミラなら詳しいんじゃないか?」
だから俺は冒険者ギルドに出入りしているミラにこの世界でのパーティの組み方を聞いてみることにしたのだった。
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