第9話 モブは勇者の村にたどり着く

 スミク村を出て、途中停泊地で一晩過ごし二日目の昼。

 俺たちは特に魔物や獣に襲われることもなくハシク村へ到着した。


「荷物はここに置けばいいの?」


 馬車の荷台から交易のために持ってきた荷物を抱えて地面に飛び降りた俺は、荷台で荷物の状態をチェックしているフェルラに尋ねた。

 彼は村では主に馬車を使った輸送の仕事をしていて、馬の扱いでは右に出る者がいない。


「ああ、その辺りに置いておけばポグルスが仕分けてくれるよ」

「了解!」


 荷物を馬車の後ろの地面にゆっくりと下ろす。

 今回スミク村から積んできた箱は大小合わせて全部で十二個。


 その全ての中身をフェルラは一つ一つ丁寧に調べていた。


 なんせ舗装も怪しい道を二日近くかけて移動してきたのである。

 持ってきた荷物の中には陶器や壊れやすいものもあるため、欠けや割れが出ることもあるという。


 ハシク村は山奥のスミク村に比べるとかなり発展している村だ。

 川沿いにあるため下流にある大きい街と交易も盛んで、スミク村で生産されたものはここで商人に売られ、そして打ったお金で商人から村で必要なものを買うという流れになっている。


 ちなみにスミク村の主な産物は豊富な森林資源を利用した薪や炭。

 そしてそれらを使って焼く陶磁器が主である。


 他にも獣の皮や牙などで作った服飾品もあるが、こちらについてはそれほど高値にならないのでオマケ程度だと聞いていた。


「次の荷物の検査終わったよ」

「はーい」


 フェルラがチェックを追えた箱のふたを閉め直して俺を呼ぶ。

 俺はひょいと荷台に飛び乗ると、その箱を抱えて慎重に馬車の外へ降りた。


「しかしアーディって、そんな重い荷物を軽々と持てるんだから凄いね」

「鍛えてますから」


 最近わかってきたことがある。

 それは俺の力が制限されるゲームとしての強制力が発動する範囲のことだ。


 この世界では村や町などには魔物が入り込んで来れないように結界石というもので結界が張ってある。

 そしてその結界内にいるとき、俺は本来のレベル通りの力が出せないらしい。

 

 そのせいで俺はマスカーベアに襲われて撃退するまで自分があそこまで強くなっていたとは気がつかなかったのである。


 しかし――


「最近は村の中でも普通に石とか砕けるようになってきたんだよな」


 たぶん俺のレベルが上がりすぎたことで俺の力を結界では抑えきれなくなった、もしくはゲームの強制力を越えるまでになったかどちらかだろう。

 俺の目的からすれば後者であって欲しいが、それを確かめる術はない。


「これで最後っと」


 俺が積んできた荷物の最後の一つを地面に降ろすと、ハシク村の奥からポグルスが五人ほど人を連れてやってくるのが見えた。

 彼は主に商談を担当していて、今回の取引をする商人やハシク村の人たちを呼びに行ってくれていたのだ。


「お疲れアーディ、フェルラさん。準備は出来てますか?」


 ポグルスは三十代前半の小太りの男で、柔和な表情で誰にでも接する温和な人物だ。

 だがその表面的なものに騙されてはいけない。


 といっても別に悪人というわけではなく、彼は誰もが油断するような雰囲気を巧みに使って商談をスミク村にとって優位に決めてくるという特異な才能の持ち主なのである。


「準備ならもう出来てるよ。」

「それはありがたい。さっそく商談に入らせて貰いますか」


 地面に並べた箱の蓋を外しながらフェルラが答える。

 これから品物を見てもらっての商談タイムだ。


「アーディもおつかれさん。これでもう仕事は明日仕入れた荷物を積み込むまで無いから、自由にしてていいよ」

「わかりました」

「宿の場所はわかってる?」

「はい。鶏の印が画いてある所ですよね」


 この世界というかこの国では宿屋の看板に鶏の絵を描くのが基本となっていた。

 なので待ちで宿屋を探すときは鶏の看板を探せばいい。


「もう部屋は取ってあるから、疲れたら先に休んでてもいいよ」

「いえ。ちょっとこの村の中を見て回ろうと思ってます」


 俺はそう答えると早足に村の中へ向かうのだった。

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