第35話 モブは誓いを新たに旅立つ_

「は?」

「だーかーらー、リペアの魔法で私が直したの!」

「いや、でもだってお前、リペアなんて覚えるはずが……」


 おかしい。

 ドラファンのリベラが覚える魔法の中にリペアなんてものは無かったはずだ。


 なんせリペア魔法というのはイベントで修復師が使うだけに存在した魔法で、仲間になるキャラの中にも使える者は一人も存在しなかった。

 そもそも壊れたものを修復するイベントがあるのに、それをプレイヤー操作キャラが使えたら成り立たないから当たり前なのだが。


「ふっふーん。この前の修行の時に実は覚えていたんですぅ」

「そんなこと一言も言わなかったじゃないか」

「ナイショにして驚かせようと思ったの。どう? 驚いたでしょ?」


 たしかに色々な意味で俺は驚きを隠せないでいた。

 だが素直に驚いたと言うのは負けた気になる。


「……べ、別に驚いてなんか――」

「凄い! あんなにバラバラだったお皿もコップも何もかも直すなんて信じられないよ。アーディもこっちきて見てみなよ」


 俺は極力平静を装いながらリベラに返事をしようとした。

 だがその言葉に被さるようにミラが彼女にしては珍しく興奮した声を上げた。


「これなら納品も間に合うし、僕も王族の人たちに色々弁明しなくてよくなるから助かったよ」

「そうでしょ、そうでしょ」


 俺は嬉しそうに飛び跳ねながらミラの方へ去って行くリベラの背を見ながら思った。


『どうやら本格的に俺の知っているドラファンとこの世界の流れが変わってしまっているみたいだ』


 しかしそうなるとこの先の展開も俺には予想が出来なくなってくる。


 たしかゲームでは聖女リベラを仲間にした勇者は、呼び出しを受けて王都に向かい、そこでいくつかのイベントをこなした後に本格的な魔王討伐の旅に出かけるという流れだったはずだ。

 一応、これから王都に俺たちは向かうことになっている所を見ると、その流れからは大きくは外れていない。

 だがリベラがリペアを覚えたことで王都での重要イベントの一つが全く違うものになってしまうのは確定的だ。

 となるとそのイベントから派生するストーリーも変わってしまうわけで。


「どうする? あえてリベラに魔法を使わせないようにしたほうがいいだろうか」


 俺の覚えているストーリー通りにこの世界の流れを進めるのならそうすべきだろう。

 だが、そのイベントをゲーム通りに進めることに俺は抵抗がある。


 なぜなら、ストーリー通りならそのイベントの途中で修復師の子供が一人魔物に殺されてしまうからだ。


「死ぬと知っててあの子を見殺しになんて出来ない……」


 俺はドラファンという鬱で固められた世界をぶち壊すと決めたはずだ。

 だったらこの世界のストーリーが例え壊れようとも救える可能性があるものは全て救う。


 それが一番正しい。

 そして俺には今、その力がある。


「現に俺は村を救えたじゃないか」


 俺は修復された陶器を手にして笑い合っている二人の笑顔を見る。

 次にスミク村と、喜びの声を上げる人たちを眺め、胸にこみ上がってくる充足感に目を細める。

 

 それは俺が記憶を取り戻してからずっと目指していたものだったはずだ。


「ゲームのストーリーを変えることで村は滅びなかった。勇者と聖女の笑顔も守ることが出来た。だったら何を迷うことがある」


 俺は強く拳を握りしめ、改めて心に誓う。


 俺はこの先どんな敵が立ち塞がろうとも、その全ての『鬱展開』をぶち壊す。

 たとえそれが神であってもだ。


「まってろよ魔王。誰も犠牲にせずに俺がお前を葬ってやるからな」


 俺は喜び溢れる広場の中で一人天を仰ぎそう呟いたのだった。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


とりあえず旅立ちまでで一区切り。

次回から王都へ向けての旅が始まります。


というわけで出来ましたら★の評価をいただけますと嬉しいです。

更新のモチベーションに繋がりますのでよろしくお願いいたします。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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