玉座の間

 クロバール王国の王都ロバール。

 円形状の城壁に囲まれたその中心にそびえ立つ王城。

 その玉座の間に集まった一同は、つい先ほど届けられた伝令にざわついていた。


「王よ。いかがいたしましょう」


 部屋の一番奥。

 数段ほど上に鎮座する玉座に座るのは国王であるハインリート。


 その彼の手には、側近であるケンネスから手渡された報告書が握られていた。


「やはりあのお告げは真であったか」


 先日五十になったばかりの彼が、眉間に深い皺を寄せ報告の内容を睨み付けて呟く。


 王の下へ『魔王復活』のお告げがもたらされたのは二十日ほど前の夜だった。

 浅い眠りに微睡んでいた空の目の前に突然自らを神と名乗る者が現れたのである。


「半信半疑ではあったが、言い伝え通り勇者と聖女まで現れたとなると早急に各国へそのことを伝えねばならんな」

「はっ。すぐにでも手配しておきましょう」


 ケンネスは恭しく頭を下げる。

 そして続けて。


「こうなると緊急領主会議で領主たちを集めたのは正解でしたね」


 そう口にした。


「そうだな。そちらの方の準備も抜かりはないか?」

「既に呼びかけた九人の領主のうち八人までは数日中に王都へ到着するとの知らせが入っております」

「八人? 後の一人は誰だ」


 訝しげに尋ねるハインリートにケンネスは少し口ごもりながらその名を告げる。


「ノヘーア卿です」

「やはり彼奴か……」


 あからさまに眉を寄せ、僅かに怒りを滲ませた低い声にケンネスは一筋の冷や汗を流した。


 クロバール王国には王都を中心とした王領以外に九つの大領地が存在する。

 その内の一つの領地を任されているのがノヘーア公爵である。


「いかがいたしましょう」

「放っておけ。むしろ彼奴がいない方が会議は進むだろう」


 ケンネスはハインリートの言葉に了承の意を込めて頭を下げる。


「それよりも今は勇者を出迎え、この報告書に書いてあることが真実か否かを確かめねばな」

「ハーシェク殿が嘘をつくとは考えられませんが……」

「信頼しておるのだな」

「はい」


 ハインリートはケンネスの声に込められた思いを感じ取ると小さく笑って玉座から立ち上がる。


「皆の者! 勇者様と聖女様を出迎える準備は任せる!」


 そして彼は居並ぶ重鎮たちにそう告げると報告書を握りしめたまま執務室へ続く扉へ姿を消したのだった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


これから王都篇がスタートとなります。


今回はその前置きのような部分なので短いですがご容赦くださいませ。


明日からはまた通常のアーディ視点になります。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



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