第47話 モブは個人情報を抜かれてしまう
「少し席を外してくださいますか」
どうして俺にそこまで現在の王都の状況を話してくれるのか。
そのことを尋ねるとイネッスはディワゴにそう告げ、更に誰も中に入れないように扉の前で待っていて欲しいと告げた。
どうやらディワゴには聞かせられないことらしい。
先ほどまでの話も十分機密事項だろうとおもうのだが、それ以上の理由があるのだろう。
「さて、それではお話ししましょう」
テーブルの上に四角い小さな箱を置きながらイネッスは俺の顔をじっと見つめてくる。
「それは?」
「防音結界の魔法が付与された魔道具です。この部屋は防音には元々なってますが、それでも用心のために使わせて貰いますね」
彼女がそれを置いたときに一瞬感じた違和感の正体はそれだったか。
レベルが上がれば上がるほど、特に結界に対して俺の感覚は敏感になっている気がする。
「さて、回りくどい話はせずに答えますが」
「お願いします」
俺は何故かじっと俺の顔を見るイネッスに負けじと見つめ返しながら応える。
「私が貴方にここまで話をしてよいと判断した理由は至極簡単で、貴方が当事者だらかです」
「当事者って、何の?」
「今回、貴族が一斉に招集された理由は勇者の登場と、それによる魔王復活の可能性を伝え対処を話し合うためなんですよ」
魔王復活が近くなればなるほど、この世界の魔物たちは活性化する。
実際俺たちもそれを王都までの旅の途中に程経験してきた。
つまり今まで以上に交易路の警備を強力にしないと魔物による被害が甚大になってしまう。
なので貴族を招集し、そのための対策を話し合う必要があるというのだ。
ドラファンは古いゲームなのと、主人公にとって必要な情報ではないと判断されたのだろう。
実際のゲーム内では王城に呼び出され王と謁見するイベントはあったが、貴族の招集や話し合いについては特段なにも語られてはいなかった。
「それと俺になんの関係があるんですか?」
「貴方が勇者様のパーティメンバーだからですよ」
だろうな。
ここまで話を聞けば大体想像出来たことだ。
「勇者が誰なのか知っていれば、同じパーティメンバーの情報なんてギルドマスタークラスなら簡単に調べられると」
「ごめんなさいね。でもこれだけは信じて欲しいのだけど、決して私は勇者様の情報を調べようとしたわけではないの」
「解ってますよ。怪しい冒険者が来たから素性を調べただけですよね」
怪しい人物を見つけたら素性を調べ安全かどうか確認する。
それが国から頼まれたことである以上、彼女を責める気は無い。
この世界に『個人情報保護法』なんてあるわけも無いのだし、もしイネッスが俺のことを調べてくれてなければ警戒対象として王都にいる間ずっと監視される事態になっていたかも知れない。
なんせこの冒険者ギルドでも多分指折りの実力者と思われるディワゴを一撃でぶちのめしてしまったのだ。
しかも見かけはモブ村人の新人冒険者がである。
今考えるともう少し演技をして、何かしら偶然の出来事が起こったおかげで勝利くらいにすれば良かったのに。
変な絡まれ方をしたことと、気が急いていたこと、それに訳のわからない寸止めを繰り返されたことで自分でも気がつかないうちに怒りゲージが溜まっていたようだ。
「貴方がどうして勇者様と別行動を取っているのかは聞きませんし、この先我がギルドが貴方に何かをすることもないと約束します」
「お願いしますよ。また依頼を横取りされり因縁を付けられたらたまったもんじゃないですし。それじゃあ俺は急ぐんで――」
聞きたいことは聞けた。
俺はギルドに来た本来の目的を果たすべくソファーから立ち上がろうとして。
「まだお話があるのです」
というイネッスの言葉に動きを止めたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます