第49話 モブは鬱イベントを思い返す

「ところでよぉ、大将」

「……」


 結局なんど言ってもディワゴが俺のことを『大将』と呼ぶのを辞めさせることは出来なかった。


「どうして門じゃなく中央区に向かってるんです?」

「……あっちに用事があるからだよ」

「でもあっしと決闘してまで受けようとしたあの依頼はやんなくて良いんですかい? 結局受付で手続きもしてやしないっすよね」


 イネッスからディワゴを押しつけられた後、俺は依頼書をポケットに突っ込んでそのままギルドを出た。

 本来ギルドに張られた依頼は、その依頼書を受付に持っていって手続きをする必要がある。

 なのでディワゴはてっきり俺はそのまま手続きをして依頼を進めにいくと思っていたらしい。


「いいんだよ。あの依頼主には後できっちり落とし前を付けてやるから」

「は? 落とし前っすか?」

「ディワゴ。あの依頼の内容を覚えているかい?」


 俺は足を止め巨体を振り返り聞いた。

 しかし案の定ディワゴは首を傾げ「さぁ。たしか王都の外で何かやるってくらいしか覚えて無いっすね」とまったく依頼の内容を覚えていなかった。


「……だと思ったよ。あの依頼の内容は『王都近くのとある森に生えている薬草の採取』だ」

「はあ。よくある依頼っすね」

「そう。こんな依頼なんて駆け出しの冒険者くらいしか受ける者がいないものなんだよ」


 ドラファンの時間軸であれば約一年後。

 とある新人冒険者がこの依頼を受けることになる。


「ただ依頼主の目的は薬草なんかじゃない。目的は駆け出しの冒険者を自らの元に招くことの方なんだ」

「どういうことなんすか?」


 その新人冒険者の名前はヨーネスといい、クロバール王国ナンバーワンの修復師リイペアの息子だった。


 いや、この場合は過去形はおかしいか。

 たぶん今はまだ反抗期のお子様でしかないだろうし。


 とにかくヨーネスは有名な修復師を父親にもったのもあって、幼い頃から跡継ぎとしてその技術をリイペアからたたき込まれるようにして育てられてきた。

 そしてヨーネス自身も自分が父親の後を継ぐのだと頑張っていたらしい。


 しかし才能というのは残酷だ。


 天才の息子が天才であることは必ずしも決まっていない。

 つまりヨーネスは天才ではなかった。


 それでも必死に彼は修行を続け、そのおかげもあって他の工房であれば普通に修復師として生きていけるだけの腕を持つまでになった。

 だが父親であるリイペアにとって、ヨーネスの技術はとてもでは無いが一人前には思えなかった。


 なぜならリイペアは天才の側だったからである。

 天才には凡人の苦労はわからない。


 いつしかヨーネスは父親の自分を見る目にそれを感じ取るようになっていた。


「その依頼主はな。何も知らない新人冒険者をおびき寄せ、口八丁手八丁で嵌め込んでその人生をぶち壊すのが趣味なんだよ」

「なっ……そんな輩の話は聞いたことありませんぜ」

「そいつは金も権力も持ってるから、何の後ろ盾もない新人冒険者の口を塞ぐなんて簡単なことなのさ」


 そもそも危険な仕事も多い冒険者になろうという者が後ろ盾なんて持っているわけがない。

 新人ならなおさらだ。


「そいつは誰なんすか。あっしが懲らしめてやりますよ」


 ディワゴが怒りに顔を真っ赤にして俺に詰め寄ってくる。

 暑苦しい。


「アンタが乗り込んでものらりくらりと躱されるだけだ。それにいくらアンタでも逆に口封じされる危険がある」

「そんなにヤバイやつなんすか?」

「ああ、ヤバイ。だから誰もそいつを咎められなかった……たとえそれが――」


 王都一の修復師であってもだ。


「まぁ安心してくれ。なんせ俺にはそんなヤバイやつよりもっと凄い後ろ盾があるんだからさ」


 俺はディワゴの顔を押しのけてから親指である場所を指し示す。


「王城になにが? あっ」

「本当は権力なんかに頼るのはかっこ悪いけどさ。アイツだけは俺の手で始末したいんだ」


 俺はドラファンの鬱イベントの一つである通称『リイペアの悔恨の内容を思い返しながら拳を強く握ったのだった。

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鬱ゲーのモブ村人に転生した俺は【禁断の裏技】でハッピーエンドを目指します 長尾隆生 @takakun

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