第45話 モブは決闘にケリを付ける
おかしい。
ディワゴとの決闘が始まって何度か攻撃を籠手でいなした俺は、後ろにバックステップして相手との距離を取った。
ちなみに 今の俺の装備はギルドで借りた革製の防具一式と鋼の
さっきからコイツ、本気で俺に攻撃を当てようとしてないんじゃないか?
「どうしたどうした。避けてばかりじゃねぇか」
豪快に斧を頭の上で振り回すディワゴが俺を挑発する。
「いや。なんだかアンタが本気じゃない気がしてね」
その言葉を聞いたディワゴは獰猛な表情で巨大な斧の先を俺の方へ向ける。
ミスリルの斧の穂先には鋭い矛が付いていて、斧のくせに突きでも攻撃を繰り出せる作りになっていた。
「何を寝ぼけたことをほざいてやがる」
その切っ先を俺に向けたままディワゴは「目を覚まさせてやる」と口にすると、俺に向かって突きを繰り出した。
しかし。
やはりおかしい。
「むぅ。これも避けるか」
斧を槍のようにしてヤツが狙ったのは俺の左腕だった。
確かに最初は俺の胸に向けられていたはずなのに、明らかに狙いを反らしている。
おかげで俺は僅かに体を捻るだけでその攻撃を躱すことが出来た。
「アンタ。いったい何がしたいんだ?」
俺はもう一度ディワゴに尋ねる。
突然俺に因縁を吹っ掛けてまで決闘に持ち込んだというのに、全く俺に攻撃を当てる気が無いのがおかしすぎる。
もちろん俺が全て避けているからというのもあるが、実際の所俺でなくても余程の素人でなければギリギリで避けられるような攻撃しかディワゴは放っていない。
いやそれどころか――
「ちょっと試してみるか」
俺は口の中でそう呟くと、次に放たれたディワゴの大ぶりな一撃をわざとギリギリまで避けずに待ち構えた。
「っ!?」
「……」
当たれば俺の右腕は根元から斧によって切断される。
そんな攻撃は俺の肩に当たる直前に――強引な力業で軌道が変わった。
「っとっと」
無理矢理馬鹿でかい斧の軌跡を変更したのだ。
怪力を誇っていたディワゴであっても、その慣性で体がよろけてしまう。
「どうして反らしたんだよ」
焦りの表情を浮かべるディワゴに俺は問い掛ける。
だがヤツは何も答えない。
「どうしても言いたくないんだな。だったら」
俺は数歩ディワゴから離れるともう一度構えを取る。
「この決闘を終わらせてからじっくりと聞き出してやる!」
そう口にすると同時に俺は先ほど開けた間合いを一瞬で詰める。
全力を出したわけではないが、それでもその場にいた誰も俺の動きは見えなかったはずだ。
現に審判役であるギルド職員も完全に俺を見失ってこちらを見ていない。
俺はその勢いのまま、握った右拳をディワゴの鎧に向けて放った。
「!?」
「なっ!!」
その次の瞬間だった。
確実に当たると思ったその拳と鎧の間に、横合いから何かが割り込んできたのである。
俺の拳が鎧に当たる前にその何かにぶち当たる。
と同時に伝わって来たのはそれが砕ける音。
そしてそれでも止まらず突き抜けた拳がディワゴの鎧を凹ませる感触だった。
「ぐわああああっ」
激しい音と共に叫び声を残し、ディワゴが鍛錬場の地面を転がっていく。
その彼の手には刃の部分が砕けたミスリルの斧が握られていて。
「咄嗟にあれで防いだのか……」
どうやら俺の拳をディワゴは手にしていた斧を咄嗟に自分の前に盾のように構えて防ごうとしたらしい。
あの一瞬でそこまでの判断と動きが出来るとは予想外だ。
彼の実力を甘く見すぎていたと思う反面、そこまでの実力者がなぜ俺にあんなゴロツキみたいな因縁を付けてきたのかと言うことに対する疑問がさらに増す。
「審判!」
だが取り敢えず今はこの訳のわからない決闘を終わらせることが先決だ。
俺は何が起こったのかわからずに目を白黒させている審判に言葉を放つ。
「あ、えっと」
審判は俺と地面に転がって動けないでいるディワゴを何度か交互に見ると、片手を大きく上に上げやっとその口を開き。
「冒険者ディワゴの戦闘継続が不可能と判断し、冒険者アーディの勝利とします!」
そう言って決闘の決着を告げたのだった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます