第26話 モブはふたりを特訓することを決意する
「アーディはね、毎日腕立て伏せ100回と上体起こし100回とスクワット100回とランニング10kmやってるのよ」
「やってねーよ。そんな特訓したら禿げるだろ」
「えーっ」
確かに最強になりそうなトレーニングメニューだけど、まだこの歳で禿げるのは勘弁願いたい。
「一応その半分くらいはやってるときもあるけどな」
「じゃ、じゃあどんな特訓をしたら君みたいに強くなれるんだい?」
「それはだな……」
さてどうしよう。
こうなったらミラとリベラにも『禁断の裏技』を使ってレベルを上げて貰った方がいいだろうか。
だがそのためには一つ確認しておかなければならないことがある。
「特訓の方法を教える前に聞きたいことがあるんだが」
「強くなるためなら答えられることなら答えるよ」
「私も私も! アーディってずっと特訓のこと秘密にしてて何も教えてくれないから寂しかったんだよねー」
俺は前のめりになる二人の顔を冷静に見返しながらその名を口にした。
「お前たちはゴッキーを殺したことはあるか?」
「ゴ……」
「いっつも踏んづけてやっつけるけど?」
俺がその名を口にした途端、ミラは青ざめ、リベラは平然とした顔のままだった。
昔から俺たちと一緒に虫取りとかして遊び回っていたリベラにとってゴッキー、つまり魔物化していない状態のコックルに対してそこまで忌避感はないのかもしれない。
それはそれとして、リベラはアレをいつも踏んづけて潰しているのか。
次から靴の裏を洗ってからじゃないと俺の部屋には入れないようにしないと。
「まさか今日は潰してないよな?」
「潰してないよ」
「よかった……それはそれとしてだ」
俺は居住まいを正すと二人に交互に視線を向けてから。
「今から俺が言うことは誰にも言わないでくれ。女神にもだ」
「女神様にもかい?」
「ああ、理由は言えないけど約束してくれるなら俺の特訓方法を教えるよ」
今の段階では女神がいったいどんなスタンスなのか解らない。
もし『禁断の裏技』のことを女神が知ってしまったとき、それを使い続けることを許してくれるのかどうかも不明だ。
なので今は絶対に女神に知られたくは無い。
幸い女神はどうやらこの世界の全てが『見えている』わけではないようだ。
もし俺以外の人たちの行動もすべて把握していれば、俺の存在に気がついてないはずがないからだ。
だがもしミラたちを通して俺の存在が女神に知られれば、その前提も揺らぐ可能性が高い。
味方であるならいい。
だが、ドラファンでの神――つまり勇者や聖女、その仲間たちをも全てこの世界を安定させるためだけのコマとしか見てないような存在であれば助けを求めるどころか俺の足を引っ張る存在になる可能がある。
「わかった。女神様には君のことも、君の特訓方法も言わない」
「私も言わないよ! 私の口の堅さはアーディも知ってるよね?」
あの日リベラに村を抜け出すところを見られて今まで、彼女はそのことを誰にも話していない。
俺が絶対に誰にも言わないでくれと頼み込んだからだ。
「ああ、知ってる」
俺は少し緊張を解く。
「それじゃあ今夜、みんなが寝静まった頃に村の広場まで来てくれるか?」
「やっと連れてってくれるんだ。やったー!」
リベラには「いつかお前も連れてってやるから」と約束をしていた。
俺としては彼女が十五歳になってこの世界における実質的な成人となってからと考えていたが、襲撃イベント自体が一年以上も前倒しされた今となってはそんな悠長なことは言ってられない。
「えっと……どこかに行くってことかい?」
一方何も知らないミラは少し不安そうだ。
彼女にとってこのあたりは初めて来る場所で、周辺に何があるのかも解らない。
どこかに連れて行かれることを不安に思っても仕方がないだろう。
「ああ、俺がいつも特訓している秘密の場所へ連れて行ってやる」
俺はなるべくミラの不安を払拭するように力強くそう口にすると。
「グレーターデーモンを倒した俺が一緒なんだ。何も心配は要らないぞ」
と、自分の胸を拳で叩いたのだった。
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