第25話 モブは女神の話を聞く

 朝食を終えミラと共に部屋に戻ると、俺は早速リベラの話を聞くことにした。

 ベッドの淵にミラとリベラが並んで座り、俺は机の所から椅子を引っ張り出してくると話を切り出す。


「それで二人が俺に話したいことって何?」

「あれ? ミラも何かあるの?」

「うん。でも先にリベラから話して良いよ」


 俺は視線をリベラに向けて、彼女が話し出すのを待つ。


「じゃあ私から話すね。女神様から聖女だって神託を受けた後なんだけど」


 女神はリベラに彼女が聖女であることを告げ聖女の印と勇者に付き従うことを告げたあと、何やらおかしなことを聞いてきたそうだ。


「えっと……最近あなたの近くで何かしら異常を感じることはなかった? だったかな」

「異常?」

「あと村人で誰か行方不明になったものはいないかどうかも聞かれたよ」


 どういう意味だろう。


「なんかねー、女神様が知ってる人がいないから心配なんだって」

「女神の知り合いがこの村にいたってことか」

「わかんない。でもその人を見つけたら教えてあげるねって女神様には約束したんだ」


 女神の探し人。

 そんなクエストはドラスティックファンタジーにあっただろうか?


 そもそもゲームでは女神……というかたしか神としか書かれてなかった存在は、神託で行く先を指し示してくれるときだけしか登場しない。

 いや、一応エンディングで出てくるが、神のために何かをするというクエストはなかったはずだ。


「それでね、とりあえず名前がわからないと探せないよーって言ったら――」


 俺が思考の海に沈んでいる間にもリベラの話は続いていく。


「もしかしてその名前って『エエ』じゃない?」

「そう! ミラもやっぱり同じこと頼まれてたんだー。なんか村人『エエ』って人を探してるんだって」

「僕も女神様からスミク村にいる聖女の話の後に村にいるはずの『エエ』って人のことを見つけて欲しいって頼まれたんだ」


 は?

 今この二人はなんと言った?


 村人『エエ』――つまり村人Aってことじゃないのか?


「うーん、でもスミク村には『エエ』なんて人いないし、私も知らないって言ったら女神様も困ってたんだよね」

「僕もスミク村と付き合いのある知り合いに色々聞いたけど、誰も『エエ』何て人は知らないって」

「ねぇアーディは何か知らないかな? ……アーディ?」

「どうしたんだい? そんなに汗を掻いて」


 女神が村人Aを探している。

 たぶん。

 いや、きっとその村人Aは俺のことに間違い無いだろうという確信がある。


「い、いや……それで女神様はその『エエ』って人をどうして探しているのか聞いたか?」

「わかんないけど凄く心配してたよ」


 女神とドラファンの神が同一人物かは解らない。

 なんせゲームでは性別不詳の光の球みたいな状態でしか登場しなかったからだ。


「もしさ……」

「ん?」

「もしまた女神と話すことがあったら、どうしてその人を探しているのか理由を聞いてみてくれないか?」


 とにかく女神が村人Aを探しているということと以外は何もわからない。

 ただもしその村人『エエ』が俺のことだとするなら、何故か女神は俺を認識できていないということになる。


「僕も次に女神様に会うことが出来たら聞いて見るよ」

「ああ、頼む。だけどそのときに俺の名前は出さないでくれるかな?」


 女神は村人A――俺を探し出して何をしたいのかも解らない以上は名乗り出るのは不安だ。

 もしかすると何者かがこの世界を改変しようとしていることに気がついて、その存在である可能性の高い村人Aを排除しようとしているのかもしれないからだ。


「いいけど」

「かまわないよ。もし尋ねられても僕が気になっただけって答えておくよ」


 結果的に二人には『神』という存在に嘘をつかせることになるが仕方ない。

 もし女神の真意がわかって、俺に対して害意を持たないことが確信出来たときは俺が女神に謝ろう。


「ところでアーディに僕から聞きたいことがあるんだけど」

「ん?」


 俺が女神にジャンピング土下座をしているイメージを頭に浮かべていると、ミラが恐る恐るといった風に声を掛けて来た。


「どうしてアーディはあんなに強いのさ?」


 ミラの疑問はもっともだ。

 なんせ俺は彼女の目の前で、勇者として覚醒した彼女が全く敵わなかったグレーターデーモンを倒して見せたのだから。

 しかもワンパンでだ。

 

 その理由を俺はミラにどう説明しようか夜中ずっと悩んで居た。

 そして俺の知る限りの事実を話すしか無いという結論になったのだが、女神が俺を探していると知った今ではミラに全てを教えるのは得策ではない気がする。


 さてどうしよう。


「私が教えてあげるよ!」


 そんなことを考えて返事に戸惑っていると、リベラが片手を大きく上げてそう宣言し。


「アーディが強いのはね――」


 ドヤ顔をミラに向け言い放った。


「ちっちゃな頃からずーっと『特訓』してるからだよ!」


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