第39話 そのときモブに電流が走る!
道中で何度か魔物と戦いながらハシク村に着いた俺たちは、その足で冒険者ギルドに向かうと街道で魔物が増えていることを伝えた。
ハシク村のギルドには専属の冒険者というものはいないらしく、基本はこの村を中継地点にしている流れの冒険者だけしかいない。
なので街道を定期巡回するというのは難しいらしいが、今後町の外に出る馬車に付ける護衛の数を増やすことで対処することで対処すると言うことが決まった。
ハーシェクが報告をしている間、俺とリベラ、そしてミラは冒険者登録を行った。
これから先、旅を続けるに当たって冒険者という『仮面』は非情に便利なものだというのと、各地にある冒険者ギルドやその関連施設が使えるようになるからである。
「えへへ。私もこれで冒険者だよ」
「僕が冒険者になるなんて思わなかったよ」
冒険者どころか勇者と聖女である二人が、ハーシェクの手配で簡単に手に入った冒険者証明書――つまり冒険者カードを見ながら嬉しそうにしている。
「お前らは星三つで俺は星一つかよ……」
冒険者カードには冒険者ランクを示す『★』マークが描かれていた。
ランクは全部で五段階あり星五個が最高ランクで星無しが見習い、星一個が最低ランクらしい。
このあたりの仕組みはドラファンのゲームではなかった設定である。
「ま、まぁ星の数って強さで決まるわけじゃないしね」
「実績だっけか。まぁ余り星が多くて悪目立ちしたくないからいいけどさ」
冒険者カードを受け取るときに説明されたのだが、星の数はランクであって強さを示すものでは無い。
様々な実績を上げることでそのランクは上がるので、戦闘では役に立たなくても知恵だけで星五個まで上り詰めた者も過去にはいるそうだ。
だが大抵は高い実績を上げるためには戦闘力も必要になってくる。
なので星の数が多いというのは戦闘力も高いと思われるのが普通なのだそうだ。
その後、冒険者カードを手に入れた俺たちはギルドへの報告を終えたハーシェクと共に馬車の仲間たちが待っている酒場へ向かった。
そこはハシク村の港近くにある大きな酒場で、まだ日も高いというのに中からは楽しそうな酔っ払いどもの声が聞こえてくる。
ハーシェクを先頭に店の中に入ると、むわっとした熱気と喧噪が俺たちを包んだが、嫌な感じはしない。
「待たせたね」
ハーシェクは、既に出来上がっている仲間たちに声を掛ける。
二つのテーブルに合計で九人の商人や馬車の護衛と御者が座っていて、既に幾つものジョッキや料理が並んでいた。
「お疲れ様です」
その中の一人。
一番最年長のひげ面の男が立ち上がるとハーシェクに向かって「そちらのテーブルを使ってください」と言い残してから酒場のカウンターへ向かって行った。
どうやら俺たちの分の料理と飲み物を頼みに行ってくれたらしい。
「それで例のものは持って来てくれたかい?」
ハーシェクは彼を見送ってから、今度はもう一人の年若い商人に声を掛ける。
彼はハーシェクの商会に入ってまだ二年ほどらしいが、かなりの商才があるらしく、ハーシェクは自分の身近に彼を置いて行く行くは後継者にと考えていると俺たちにだけこっそりと教えてくれた。
「はい。この袋の中に」
「ふむ。確認させてもらうよ」
ハーシェクは男の差し出した袋を受け取ると俺たちと共に開いているテーブル席に向かった。
そして俺たちが座ったのを確認してから自らも席に着く。
「それは?」
「これは例の魔道具だよ。見るかい?」
ミラが不思議そうにテーブルの上に置かれた袋を見ながら尋ねると、ハーシェクはその中身を取り出して並べ始めた。
「指輪ですか」
ハーシェクが取り出したのは様々な形の指輪であった。
たしかゲームでも耐性装備は指輪やネックレスが多かったことを思い出す。
「魅了封じの耐性魔法が付与された指輪をあるだけ持って来て貰ったんだよ。どれどれ」
ハーシェクは指輪を一つずつつまみ上げると、懐から取り出した小さなスコープのようなもので調べ始める。
まるで宝石商が宝石の価値を調べるかのように。
彼は一つ一つ手に取って全てを確認し終えると大きく息を吐く。
その頃には俺たちのテーブルには既にいくつかの軽食と飲み物が届いていて、軽く食事を始めていた俺たちはハーシェクの作業が終わったことに気がついて気になっていたことを尋ねた。
「何をしていたんですか?」
「あいつが選んできた指輪の質に間違いが無いかどうかを確認していたんだよ。付与魔法が掛かっている魔道具は真偽をきちんと確認しておかないと怖いからね」
満足げな表情からすると、全ての指輪にはきっちりと付与魔法が掛かっていたのだろう。
たぶん目をかけている弟子がきちんと間違いの無い仕事をしてくれたことが嬉しいに違いない。
「見せて貰って良いですか?」
「ああ、構わないよ」
俺はテーブルに並べられた指輪の一つを手に取る。
見かけはどこにでもあるような普通の指輪だが。
「はめてみても?」
「もちろん」
俺はその指輪を中指にはめてみる。
すると。
「ん……なんか不思議な感じだ」
決して強いものではないが、指にはめた途端に僅かだが体の中に違和感のようなものが生まれた。
「どんな感じなんだい?」
ミラが興味津々に俺の顔を覗き込む。
いつもと変わらない綺麗な顔だが、不思議といつもよりその輝きはぼやけたように感じる。
「これが魅了封じか」
「?」
不思議そうに首を傾げるミラは相変わらず魅力的ではある。
だが、だからこそ魅了封じの指輪の威力が身に染みて解る。
「ハーシェクさん、この指輪で魅了は完全に防げるんですか?」
「伝説級の魔道具であれば可能だろうけど、このくらいのでは無理だね」
やっぱりそうか。
ドラファンでも序盤で手に入るアイテムでは耐性防御率でいえば10%くらい上がるものしか手に入らなかった。
後半になると50%のものも出てくるが、さすがにそれをハーシェクに求めるのは酷だろう。
「そうですか。しょうが無いですね」
そう溜息交じりに呟きながら指輪を外そうとしたとき。
「一個じゃ無理だけど五つくらい付ければ十分勇者様の魅了には抗えると思うよ」
俺の耳にハーシェクの衝撃的な言葉が届いたのだった。
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