第14話 モブはかつての強敵に思いを馳せる
ハシク村で色々やらかしてからずいぶん経った。
俺としてはすぐにでも次の交易に同行してミラに謝りに行きたかったが、ハシク村への交易便は常にあるわけでは無い上にハシク村側から直接スミク村へ商品を買い付けに来ることもある。
そういう場合は交易便を出す必要も無くなってしまう。
更に様々な施設が作られ娯楽も多いハシクへ行きたいという護衛役は俺以外にも多く、そんな先輩達を押しのけてまでもう一度行かせてくれなどと言えるはずもなく悶々とした日々を送っていた。
そんな日々の間も俺は定期的に夜が明るい日に村を抜け出してレベル上げを続けていたが、さすがにレベルが上がる感覚を感じることも少なくなってきていた。
以前なら一回の戦闘で数レベル上がったような感じがしたが、最近だと数回繰り返してやっと1レベル上がる程度である。
「まぁ、どんなゲームでもレベルが上がれば上がるほど次のレベルアップまでの必要経験値が増えるからしかたないか」
実際当時『禁断の裏技』を使ってレベル上げしていたときも、カンストに近づくにつれてレベル上げに時間が掛かるようになっていった。
特に既に当時の勇者よりも体感で遙かにレベルが上がってしまっている俺の必要経験値はとんでもなくなっているはずだ。
ステータス画面を見ることが出来ないのでわからないが、レベルアップに必要なコックル討伐数からざっと計算すると数十万ポイントは必要になっていると思う。
ゲームでは一度のエンカウントで倒すことの出来るコックルの数はハードの限界もあって二匹までという制限があった上に、今のように籠で捕獲して一瞬で『駆除』出来るわけでも無かったからカンスト付近になるとレベル上げにかなり時間が掛かったのを覚えている。
「そう考えると効率は現実になった今の方が遙かに良いし、たぶんもう魔王すら倒せるんじゃないかって位までレベルは上がってるんだが」
俺は腰掛けている魔物の死体をペチペチ叩きながら空を見上げる。
「そろそろ帰らないとみんなが起き出しちゃうな」
今日は自分の強さを確認するために、いつもの泉でコックルを駆除した後に更に離れた場所までやって来ていた。
体感時間で泉から一時間ちょい離れたその場所は、重要なアイテムがゲームでは隠されていた火山のダンジョンへ向かう山道で、回りには火山の噴火で飛ばされてきただろう巨石がそこら中に落ちているような場所だった。
ここはドラファンの雑魚敵の中でもトップクラスに嫌われている魔物がエンカウントする場所である。
出会ったら戦うより逃げるのが一番と言われていたその魔物の名前はグランディラス。
無駄に格好いい名前だが、その姿はモロにティラノザウルスである。
最近の学説だと体中に羽毛を生やしてふさふさもふもふな感じになっていたりするが、それ以前のいかにも『最強で凶悪』なころのティラノだ。
凶悪な物理攻撃力で痛恨な攻撃を定期的に放ちまくるグランディラスだが、特にこの場所では同時に三体で出現することもあり、運が悪ければカンストさせた勇者でも油断するとワンターンで死ぬことがあったりもする。
そんな悪夢を見そうな強敵ですら今の俺にとっては初期村周辺にうろつくゴブリンやスライム程度でしかなく。
あっという間に襲いかかってきた五体のグランディラスをぶちのめしてしまったのだった。
「あんなに苦労したのにな」
俺は倒した後、邪魔だからと積み上げたグランディラスたちの山から飛び降り、ゴツゴツした岩が転がる山道を見回す。
「俺もなんどこの場所で殺されてやり直しさせられたことか……」
ドラスティックファンタジーには他のパーティ製RPGとは違う特徴がいくつかあった。
それはどれだけ仲間が生き残っていようとも『勇者が死んだらゲームオーバー』というシステムである。
しかも本当にゲームオーバーになってしまうため、コンティニューするためには復活のパスワードを入力して最後に立ち寄ったまちの教会からリスタートするしかないのである。
ちなみにスミク村にも教会はあるのだが、そもそも現実となったこの世界でコンティニューが出来るとは思えないし試す気にもなれないのでどうなるかは不明だ。
「死んだ人が教会で復活したなんて話は聞いたことないからさすがにそれはないとは思うけど」
俺は倒したグランディラスから抜き取った牙を一本だけポケットに入れると帰り道を駆け出す。
グランディラスの牙は貴重な魔物素材として売ればかなりの金額になるのだが、そもそもスミク村には素材買い取りをしてくれる店なんて存在しない。
ハシク村まで行けば冒険者ギルドで査定して買い取って貰えるだろうが、冒険者でもない村の狩人がなぜそんなものを持っているのか聞かれたても答えることが出来ない以上それもNGだ。
「そのうち冒険者にもなってみたいな。そうすれば魔物素材を持ち込んでも不思議がられないだろうし」
なので今は貯金代わりにこの手の素材は少しだけ持ちかえって秘密の場所に隠しておくことにしているのだ。
「それもこれも強制敗北イベントを回避できるかどうかわかってからだな」
レベルとしては十分に上げた。
最近はゲームの強制力が働いているはずの村の中でも外ほどではないが力を出すことが出来るようになってきた。
「つまりいくら強制力でも俺を抑えることは出来なくなってきているのは間違い無い」
システムは越えられる。
あとはそれで強制敗北イベントというシナリオを壊せるかどうかだが、そこは確認しようがない。
なぜならドラファンのシナリオはまだ始まっていないのだから。
ゲームのスタートは主人公が勇者であるとの神託を受ける所から始まる。
「ハシクで勇者が見つけられなかったのが痛いよな……あっ、そういえば」
俺は村への帰路を急ぎながら思い出した。
「今日ってハシクから商人が来るんじゃなかったっけ」
二十日ほど前に伝書バードで村長の下に届いた手紙によると、急遽大量の食器が必要になったとかで村に直接商人が買い付けに来るらしい。
村人総出でなんとか要求分の食器を揃えることが出来たのは二日前のことだ。
もちろん俺も手伝ったが忙しかったのはリベラも一緒だった。
あれだけ大騒動で焼き物を作るとなると怪我人もそれなりに出てしまう。
なので回復魔法を使える彼女をはじめとしたヒーラーも大忙しだったのである。
とくにリベラはこの半年の間にメキメキと回復魔法の腕を上げ、よほどの酷い怪我出なければ一分もかからず治療出来るまでになっていた。
さすが未来の聖女様だ。
「ということは今日はけっこうみんな早起きするよな」
商人がいつ頃来るかはわからないが、商隊がやってくる日は朝早くから交易品を村の広場に出して並べることになっている。
すでに村中の人たちからかなりの力持ちと認識されている俺は、その品出しの主力扱いされていた。
「やべっ、急がなきゃ」
頭上高くあったはずの満月が山に沈もうとしているのを見て焦る。
「邪魔だ! どけどけぇ!!」
ドガッ。
バキッ。
ボゴッ。
バサバサッ。
そうして俺は立ちはだかるかつての強敵たちを適当になぎ払いながら村へ向かって道なき道を一直線に突き進んだのだった。
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