第42話 モブは王都のギルドで捜し物をする
「まずは冒険者ギルドに寄って情報収集からかな」
俺は星一つの冒険者カードを見ながら、ハーシェクに聞いた道をなぞりつつ走る。
ハシク村同様にゲームの中の王都と、現実となった王都は全く違うおかげであまり知識は役に立ちそうにない。
だが『目印』さえ解れば俺がこれからやろうとしていることに関しては問題ないはずだ。
「あったあった。というかでっかいな」
大通りから二本ほど通りを内側に入った道を進んでいると、冒険者ギルドのマークが付いた五階建ての大きな建物が目に入った。
ハシク村のそれとは規模が全く違うその建物の出入り口付近には、ひと目見ただけで冒険者と解る人たちが何人かずつ固まって話し込んでいるのが見える。
その姿は王都の住民たちと比べるとあまりに異質で、その周囲だけ空気感が全く違う。
「たしかにあれだとギルドを大通り沿いには置けないな」
日頃から魔物と戦ったり未開の地や遺跡やダンジョンを探索したりしている彼らの服装は機能性重視で、町の人たちのおしゃれな服装とはベクトルが違いすぎた。
さすがに王都では目立つように武器を携帯することは禁止されているため腰に剣や杖を携えている者はいないが。
それでも冒険者に関わる人たち以外はあえてこの道を通ることは避けているようで、ギルドへ近づくにつれ一般人の姿はどんどん減っていった。
「……」
ギルドの扉に向かう途中、近くでたむろしている何人かの冒険者が横目で俺を観察しているのがわかった。
その目は俺の実力を見定めようとしてるかのようで――
「んっ……」
扉に手をかけようとした瞬間、僅かだが首元に違和感を覚える。
たしか今、俺が首から提げているネックレスは『鑑定偽装』の能力が付与されたものだったはずだ。
ということはつまり、誰かが俺のことを『鑑定』したに違いない。
「対策してきて良かった」
俺は口の中でそう言うと、何事もないように扉を開けてギルドへ入る。
「……とりあえず俺のステータスを見て驚いたようなヤツはいなかったから、鑑定は防げたみたいだな。といっても俺のステータスがどう見えるのかは知らないけどさ」
ハーシェクから人を勝手に『鑑定』するのは冒険者としてはマナー違反だとは聞いていた。
だけど気付かれなければ問題ないと『鑑定』をしかけてくる輩は絶対いると俺は考えていた。
なぜなら俺がもしその力を持っていたら使うだろうからだ。
「あのときハーシェクさんに色々装備を見せて貰って助かった」
複数の耐性装備が現実となったこの世界では同時に装備できることを知った俺は、翌日ハーシェクに頼み込んで様々な耐性装備を見せて貰ったのだ。
そしてその中で今後必要になりそうなものをいくつか選んで、持って来た素材と交換で手に入れていた。
「大きいな」
王都の冒険者ギルド。
その中は予想以上に広く、二階は吹き抜けとなっている。
もちろん冒険者やギルド職員の数もハシク村とは比べものにならないくらいいて、皆忙しそうにしていた。
「えっとクエストボードはどこかな」
俺はギルドの中に目を走らせ、募集中のクエストが掲示されているクエストボードを探した。
ドラファンではクエストボードではなく受付で依頼を選択できたのだが、現実となったこの世界ではクエストボードで依頼を選んで自分で受付に持っていく形になっているとハシクのギルドで知ったのである。
「あれかな?」
ギルドの中央ホールの端に冒険者が何人も集まって壁に貼られた幾つもの紙を眺めているのが目に入った。
その内の一人が一枚の紙に手を伸ばすと、それを引きちぎるように外して受付に向かうのを見て俺は確信する。
「間違いなさそうだ。あとは例の依頼がまだ残ってるかだけど……」
ゲームではプレイヤーが受けない限り依頼は消えることはない。
だが現実となったこの世界では誰かが受けてしまえば受けることが出来なくなってしまうかもしれない。
ゲームの強制力が働けば、なぜかプレイヤー――つまり勇者一行以外はその依頼を受けないような状況も起こりえる。
だが既にこの世界の強制力は揺らぎ始めているかのうせいが高い。
「残っててくれよ」
俺は誰に祈るでもなくそう口にしながらクエストボードの前に立ってその依頼を探した。
右から左。
左から右。
上から下。
下から上へと視線を動かす。
「あった!」
クエストボードにはかなり無秩序に依頼の書かれた紙が貼られていたため見つけるのには時間が掛かったが、目的の依頼はまだ残っていた。
しかし喜んで俺がその依頼書を取ろうと手を伸ばしたとき。
「あっ」
突然後ろから延びてきた太い腕がその依頼書を俺より先に奪い取ったのだった。
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