第19話 焼き上がり

空気に香ばしい香りが混ざってくる。

「そろそろ焼けた?」

ロニーはそわそわとした表情でルーテに聞く。

「いや、もう少しだ。もう少し焼いた方が美味く仕上がる」

ルーテはじっとオーブンを見ている。

「良い匂いね……」

「はぁ、お腹空いてきちゃう」

レイチェルとパッセも香りにうっとりとして言う。

「おい、話してないで手を動かせ」

パンパン、とルーテは手を鳴らす。


「そういえば、まだ生地があるんだよね」

「さあ、どんどん型抜きしましょう!」

レイチェルは梅型からクローバー型へ、パッセは桜型から梅型へと変えて、新しく別の生地の型抜きを始める。


「ほら、野郎ども!」

ルーテの一言に、ロニーとジルも型抜きを再開する。

「何枚生地を型抜きしたら良いんだろう?」

「普段はやらないからな……。本当、難しいぞ……!」

「女子たちのやり方を見ろ」


ロニーとジルは、レイチェルやパッセのやり方を見る。

ポン、ポンとスタンプを押すように型を抜いていく二人。

「あんな力加減で良かったのか……」

「つい力が入っちゃってたよ……」

「軽くで良いって言っただろ?」

ロニーとジルは、レイチェルやパッセのマネをして、ポン、ポンと生地に肩を押し付ける。

「わ! キレイにできた!」

「本当だ……」

「二人は力が入りすぎだ」

ルーテは笑って言う。


「そろそろ良いな」

ルーテはオーブンのクッキーを引き上げる。

ほんのりと焼き色が付いたクッキーの数々がクッキングシートに鎮座している。

「焼き立ては熱いが、この時にしか味わえない物もある。みんな、試食しようか!」

ロニーたちは、その声に焼き立てのクッキーを見つめる。


「美味しそう!」

パッセとレイチェルは無邪気な笑顔で言う。

「良い匂いがする……、清々しくて良いな!」

ジルは嬉しそうに言った。


「ふーん、なるほど……」

「な、なんだロニー?」

「ジルは清々しい匂いとか好きなんだね」

ロニーは悪戯な笑みを浮かべている。

「わ、悪いか?」

「いや、なら僕にも役立てることはありそうだね」

「え?」

ジルはロニーの言葉に戸惑いを隠せない。


「ほら、一つずつ試食してみな」

アツアツのクッキーを口に入れる。

「あちち……!」

ロニーは思わず間抜けな声を出した。

「けど、口の中で香りが広がるわぁ……。。ローズマリーとレモン、それにバターの香りもマッチして、これぞ幸せな香りね……」

「うーん、熱いけど、さっぱりしてて美味しい……!」

パッセは幸せそうな笑顔で言う。

「ハーブをクッキーに混ぜると、こんなに風味が良いのか……」

ロニーは感心したように言う。

ほんのりとロニーの目は涙目になっているのだが。


「冷めてからもまた違う感じになる」

ルーテはそう言って、一旦クッキーを冷ますことにした。


「さあ、続きをやっていきましょう!」

パッセの声に、レイチェルも頷く。

「どんどんやっていきましょう!」

「終わりが見えない……」

「確かに……。女子の気力は凄いな」

ロニーとジルは苦笑いした。


「ほら、どんどん焼いていきたいから作業を進めろ!」

ルーテの声に、ロニーとジルは再び型抜きを始めた。

だが、軽やかに型抜きをしていくことで、少し二人も気が楽になっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る